農村回帰の若者をどう活かすか 人・技・文化を共感 JC総研シンポ2015年3月26日
若者の?農村回帰?が増えているなかで、受け皿となる農山漁村は、その若者をどう活かすのかが 大きな課題となっている。JC総研は10日、東京でシンポジウムを開き、このテーマで意見交換した。
◆「守り」から「攻め」
シンポジウムでは、小田切徳美・明治大学教授が「農山漁村は若者をどう活かすか」のテーマについて説明し、図司直也・法政大学准教授が「若者と地域をつくる―共感を生み出す農山漁村の新たな価値―」のテーマで基調講演した。
それによると今日、団塊ジュニア以降の世代を中心に、若者の農山漁村への関心が高まっており、IターンやUターンによる移住者が増えている。この背景には、故郷や帰省先を持つ帰省経験者が減少する一方で、環境や開発、地域への関心の高まり、ボランティアや社会起業家、コミュニティビジネスが身近に感じられるようになり、農山漁村・地方に興味を持つ若者が増えたことがある。
そこには「農山漁村の人や技・文化への共感がある」と図司准教授は指摘する。こうした若者の共感が「次代にふさわしい新しい価値を地域から内発的につくり出し、地域に上乗せしていく作業が必要」という。
これを同准教授は「足し算のサポート」から「掛け算のサポート」への発展ととらえる。つまり、従来の集落活動や日常の暮らしを維持する「守り」から、持続可能な地域の仕組みづくりをめざす「攻め」への転換である。これを足がかりに、農山漁村再生の可能性を強調した。
◆普通に自立し共に
実践例では新潟県の「かなやんファーム」代表の佐藤可奈子さんが「移住女子がつなぐ、里山みらいづくり」で報告。学生時代に、豪雪地帯の高齢者集落に草刈りボランティアで参加したのをきっかけに、卒業後そのまま移住。地元の農家の青年と結婚し、水稲やサツマイモなどを作る。
移住のきっかけは、高齢者ばかりの集落だが、「みんな集落の将来をどうするかについて、真剣に夢を語っていた」。それに惹かれたという。高齢の男性ばかりのなかで農業委員の仕事もこなす。
「地域おこしというと、なにか興さなくてはいけないという感じがあるが、普通に自立しているだけで地域のためになっている。移住者に求め過ぎないこと。地域はチームワークが大切」という。
さらに、集落内の人も、外の人もどんどん外に出て風を循環させることの必要性を強調。「その関係が小さな集落に安心をもたらす。移住しない村人があってもよい」と、集落の人と一緒にさまざまな繋がりをつくってきた実践から、説得力のある報告を行った。
◆「島留学」で活性化
島外からの「島留学」で、高校生を呼び寄せ、過疎地の高校としては異例の学級増を実現し、人口が減少から増加に転じた島根県の離島、隠岐の島の海士町。いわば「教育からの未来づくり」の取り組みを、同町の高校魅力化プロデューサーの岩本悠氏が報告した。
同町の島前高校は、人口の減少で廃校の危機に直面していたが、学校の存続は地域の存続に直結するとして、危機感を持った町民や生徒、教員の思いから、高校・行政・保護者などが協働して魅力ある学校づくり・人づくり・地域づくりに着手した。ガーナ出身の国際交流支援員もコーディネーターとして入り、学校と地域・社会・海外を結ぶ体制を構築し。地元の有志が「島親」になって伝統文化や自然と共生する暮らしの知恵などを伝えた。
この結果、入学者が増え、平成20年の89名が、26年には156名となり、教員も15人から29名に増加。東京や京都、ドバイなど、在校生の4割が島外の出身者で、が岩本氏は「地元の子どもだけでは人間関係が固定する。異文化、多様性が活力になる」と言う。教育移住の家族も増え、町の人口減少に歯止めが掛った。
このほか、中塚雅也・神戸大学准教授が、「大学・大学生と農山村の再生」のテーマで、神戸大学と、元県立兵庫農科大学があり、大学とのつながりのあった篠山市との地域連携活動で報告。特に学生による滞在型活動について紹介し、「地域の人びとが、自ら課題解決・価値創造の力をつけ、地域コミュニティが本来の力を回復・強化することに、どのように貢献できるか」と問題提起した。
さらに移住者による地域起業について、佐久間康富大阪市立大学講師が報告。「潜在的な地域資源が、移住者の視点から利活用され、新たな価値創造につながる」として、この力を行政やコミュニティは地域づくりの戦略に位置づけ、支援する必要性を強調した。
(写真)
「農村回帰」の若者をの活かす方策で意見交換したシンポジウム
(関連記事)
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