食品製造業の労働力不足克服へビジョン 農林水産省2019年7月16日
農水省は7月11日、食品製造業で深刻化している労働力不足や人材確保難を克服するための方策などをとりまとめた「食品製造業における労働力不足克服ビジョン」を公表した。
同省では、食品製造業などが抱える課題、今後のビジョン、対応の方向について認識を共有し、戦略的な対応を検討するため、有識者を委員とし、食料産業局長が主催する「食品産業戦略会議」を平成29年度から開催している。
29年度は食品産業全体を俯瞰した「食品産業戦略」を取りまとめた。
この戦略では、「食品製造業の現状と課題を整理した上で、戦略の方向性として、(1)需要を引き出す新たな価値創造、(2)海外市場の開拓、(3)自動化と働き方改革による労働生産性の向上を戦略の目標として提起した。
これを踏まえ、30年度はこのうち労働生産性向上に的を絞り、食品製造業において、より深刻化する労働力不足を克服する方策について、機械化など省力化・省人化のハード面および職員のモチベーションを高める取り組みなどソフト面に焦点を当て、30年11月から31年3月まで10回にわたり議論した。
同会議では、先進的な取り組みを行っている事業者や専門家から機械開発の現状や課題の報告、機械化により生産性向上に成功している事業者などによる事例発表があり、その内容を巡って委員による自由な意見交換を行った。
同ビジョンは、これらの議論をまとめたもので、現状と課題について次のような指摘とともに、今後行う施策の方向性を示している。
食品製造業は労働生産性が低く、製造業平均の約6割と製造業の中で最も低い業種の一つとなっている。このため、食品製造業は給与水準も低い。これは、自動化が進まない中、デフレ経済の下で給与を低く抑えられることが可能な労働者に大きく依存してきたことが背景にある。食品産業においては、非正規労働者やパートタイム労働者の割合が高い。より良い待遇の雇用への移動が生じ、人材確保が困難になっている。
食品の製造段階では、ある程度目視・手作業によらざるを得ない側面があり、これまでは労働集約的な作業への依存度が高かったが、食品製造業において生産現場の労働力不足が課題として浮かび上がってくるとともに、機械化によりこれを克服しようという意識が高まっている。
(一社)日本食品機械工業会の29年度食品機械調査統計資料によると、食品機械の国内販売額は27年の5175億円が29年には5760億円と11%増加。近年の機械化の進展は、食の簡便化や外部化志向が進む中で、特に中食の製造業者による加工場の新設や設備増強等の大型投資が増加していることや、人手不足が深刻化する中、生産性向上や省人化のための加工場の新設や設備増強等の大型投資が増加していることが主な要因である。
ところが食品製造事業者の多くは中小企業であり、確保できる予算の制約もあって設備投資に慎重である。
とはいえ深刻化する労働力不足への対応が迫られる中、IT・機械設備の導入による生産性向上は不可欠である。
このため、同ビジョンでは、それぞれの企業がバラバラに開発を行うのではなく、基礎的・基盤的な研究領域などの共通領域で企業間の協調が必要であること、また、機器・装置をつなぐロボットやアタッチメントの開発や共通規格化、自動搬送装置の導入などの推進を提案している。
ただし、食品製造分野の機械化には限界があるため、今後も「人」がいなくなることはない。したがって「人」の力を最大化していくことが重要である。
近年では、世代間の違いにより、それぞれの仕事への意識などに少なからず影響が見られる。このため、現場で起こるコンフリクトを認識し、次世代の従業員をどのように巻き込み、やる気を育てるかという視点が必要である。このため、組織における人間関係の質を向上させることや、チームとしての生産性を高めるためには、心理的安全性(職務上どのような行動をしても、このチームなら受け止めてくれると信じられる環境)を作ることが必要であることなどについても提言している。また、人手不足を解消するためには、「いかに人を増やすか」だけでなく、「いかに人を減らさないか」が重要であると指摘する。
食品製造業は、地域経済の観点からも雇用と生産を支える産業である。さらに国産農林水産物の仕向先の7割が食品産業であり、食品製造業における原材料(農林水産物・加工食品)のうち7割は国産農林水産物である。したがって、地域食品企業の人材確保に向けた地方自治体の役割が大きいことも指摘している。
同会議の委員は次のとおり。
▽中嶋康博・東京大学大学院農学生命科学研究科教授<座長>
▽大塚万起子・(株)ワーク・ライフバランス パートナーコンサルタント
▽加藤孝治・日本大学大学院総合社会情報研究科教授
▽川名秀明・味の素(株)執行役員 食品生産統括センター長
▽桒田行男・(株)明治執行役員 生産副本部長
▽篠崎聡・(株)前川総合研究所代表取締役社長
▽藤本誠・サントリー食品インターナショナル(株)ジャパン事業本部品質保証・技術部長
▽宮川由紀夫・宮川製菓(株)代表取締役社長
▽山口龍一・マルハニチロ(株)執行役員生産管理部部長
同会議における会議資料および議事概要などについては、食品産業戦略会議(農林水産省)で閲覧できる。
重要な記事
最新の記事
-
シンとんぼ(148)-改正食料・農業・農村基本法(34)-2025年6月28日
-
みどり戦略対策に向けたIPM防除の実践(65)【防除学習帖】第304回2025年6月28日
-
農薬の正しい使い方(38)【今さら聞けない営農情報】第304回2025年6月28日
-
【特殊報】ウメにクビアカツヤカミキリによる被害 県内で初めて確認 三重県2025年6月27日
-
【サステナ防除のすすめ2025】連作障害"待った" 野菜の土壌消毒編(1)2025年6月27日
-
【サステナ防除のすすめ2025】連作障害"待った" 野菜の土壌消毒編(2)2025年6月27日
-
大人の食育を推進 官民連携食育プラットフォームが設立総会 農水省2025年6月27日
-
全農 備蓄米 出荷済み20万t超える 進度率7割2025年6月27日
-
食品ロス 国民1人当たり37kg 3万1800円損失 2023年度2025年6月27日
-
5月の米の家庭内消費、前年同月比で減少幅拡大 米価高騰が消費冷ます 米穀機構2025年6月27日
-
(441)「とんかつ」はなぜ各国で愛されているのか?【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2025年6月27日
-
【JA人事】JA松山市(愛媛県)阿部和孝組合長を再任(6月20日)2025年6月27日
-
【JA人事】JAめぐみの(岐阜県) 新組合長に渡邉健彦氏2025年6月27日
-
【JA人事】JA木曽(長野県)新組合長に亀子宗樹氏(5月29日)2025年6月27日
-
【JA人事】JAおちいまばり(愛媛県)渡部浩忠理事長を再任(6月25日)2025年6月27日
-
【JA人事】JA仙台(宮城県)藤澤和明組合長を再任2025年6月27日
-
果樹王国和歌山から旬を届ける「みのりみのるマルシェ」東京・大阪で開催 JA全農2025年6月27日
-
伊藤園と共同開発「ニッポンエール 栃木県産にっこり梨SODA」新発売 JA全農2025年6月27日
-
【役員人事】農協観光(7月1日付)2025年6月27日
-
【生乳需給で中酪要請】酪農9700戸割れ 家族経営支援に重点、離農高止まりに危機感2025年6月27日