市民と共生 都市農業【農業協同組合研究会・第14回現地研究会】2019年9月5日
農業協同組合研究会は8月31日、東京都練馬区で第14回現地研究会を開いた。練馬区は東京23区内でもっとも広い200ha超の農地を残し、農業体験農園や「果樹あるファーム」など都市住民のニーズに応え、市民生活と融合した農業が営まれている。研究会には30名が参加した。
農業体験農園「緑と農の体験塾」(加藤農園)
◆人気の体験農園
都市農業は地域の人々に新鮮な農産物を供給すると同時に、農業体験の場や災害時の避難場所としても重要な役割を果たしている。都市住民の7割以上が都市に農業・農地を残してほしいと希望していることも明らかとなった(2018年度農業白書)。
こうした都市農業の重要性を一層発揮するため、2018年3月、生産緑地法が改正され下限面積を緩和するなど、国としても都市農業対策を強化している。
練馬区は東京都心にありながら東京23区内の農地の約40%を占め、住民生活と密着した農業が営まれ農産物直売所、農家レストラン、農業体験農園のほか「農の風景育成地区制度」を導入するなど、農業を行かしたたコミュニティーづくりも重視している。
現地研究会では、同区南大泉にある加藤農園を訪れた。農園主の加藤義松さんは全国農業体験農園協会理事長。平成8年度から始まった農業体験農園の発祥の地である。ブルーベリー、柿の栽培をする畑のほかに、現在、70aの農地に152区画の農業体験農園も開設している。
この農業体験農園は1区画30平方㍍で、市民農園や収穫体験農園とは異なり、作付作物の選定や作業計画の策定はすべて農園主が行い、農園主の指導により播種・定植から病害虫防除、除草や施肥などの農作業を行うもので、入園者は自分の好きな作物を勝手に栽培することはできない。この制度は契約した区画で生産した農産物を全量買い取る契約栽培と考えることもできる。
年間5万円の利用料金がかかる。ただし、加藤さんによれば生産物は全部自分のものとなるので、多くの入園者は自家消費だけでなく平均4戸程度の人にお裾分けしているという。それらを合計すると5万~10万円程度になるので(評価はスーパー価格)、十分加入費を賄っているのではないかという。入園者の98%が農業体験は健康増進やストレス解消にプラスになっていると答え、その役割を評価しているところにも表れている
農業とは別に農園では花火大会や収穫感謝祭、スイカ割りなどとともに収穫物の一部を割いて子ども食堂を開催するなど、地域コミュニテーの維持発展にも大きく貢献している実態も報告された。水は井戸水で町内会がポンプを購入し災害時の炊き出しなどもすることになっていて、防災の機能も果たす。
◆市民が農家をサポート
研究会は「練馬区農の学校」も視察。この学校は都市農業の未来を支え担う「新たな支え手」を育成するため、2015年に開校した。コースは初級コース、中級コース、上級コースの三つがあり、講習内容も実技講習、座学講習、農家実習がある。
このうち初級コースを修了した受講生は、区内農家の支え手としての活動や農業イベントのお手伝いをする「練馬農サポーター」として認定され、活動する。
◆攻めの農業にも挑戦
生産緑地の都市農業
練馬区の農業は面積当たりの収入が高く、区によると東京都平均が1haあたり300万円に対し、練馬区は563万円となっている。練馬大根が有名だが、キャベツの一大産地で都内生産量の22%を占めて1位となっている。また、果樹栽培も盛んで「果樹あるファーム」として市民にも親しまれている。
その中で農業者の高齢化と農業者の減少とともに、農地の減少も課題として提起されました。ただ農地減少の実態をみると大幅に減少しているのは宅地化農地で、生産緑地地区や特別区の市街化区域内農地の減少は相対的に減少が低い。これは「市街化区域内農地が減少するなかで生産緑地地区に指定された農地はほぼ維持されている」(2018年度農業白書)のと同じ動向で、生産緑地制度など都市農業政策の重要性を別の面から証明しているといえる。
こうした制度によって農地が守られたことから若い後継者のなかには攻めの農業に取り組む人もいる。加藤農園の加藤義松さんのご子息、義貴さんはオランダ式のトマトの養液栽培を行い、100%自宅前で販売。10月末から翌年7月まで正月休みもなく毎日収穫し販売している。オープン前から列ができて午前中にはほぼ売り切れてしまう。若い世代が買いに来るという。
畑の脇に設置された直売の小屋/コインロッカー式販売機
◇ ◇
練馬区は都市農業の可能性と魅力を世界に発信するため世界都市農業サミットを11月29日(金)~12月1日(日)に開催する。ニュヨーク、ロンドン、ジャカルタ、ソウル、トロントの5市からの参加が予定されている。こうしたサミットはわが国では初めて。多くの人の参加が期待される。
(関連記事)
・11月に「世界都市農業サミットin練馬」開催 海外5都市を招へい 多彩なイベントも準備(19.09.05)
重要な記事
最新の記事
-
【第46回農協人文化賞】資金循環で地域共生 信用事業部門・埼玉県・あさか野農協組合長 髙橋均氏2025年7月14日
-
【第46回農協人文化賞】組合員の未来に伴走 信用事業部門・秋田やまもと農協常務 大鐘和弘氏2025年7月14日
-
【注意報】水稲に斑点米カメムシ類 県内全域で多発のおそれ 三重県2025年7月14日
-
【注意報】イネカメムシ 県内全域で多発のおそれ 鳥取県2025年7月14日
-
主食用米の在庫なし、農機の修理・メンテナンス年3000件 JA常総ひかり2025年7月14日
-
【'25新組合長に聞く】JA岡山(岡山) 三宅雅之氏(6/27就任) 地域を元気にするのが農協の役割2025年7月14日
-
JA全農ひろしまとJA尾道市、ジュンテンドーと 売買基本契約を締結、協業開始2025年7月14日
-
蒜山とうもろこしの宣伝強化 瀬戸内かきがらアグリ事業も開始 JA全農おかやま2025年7月14日
-
酪農の輪 プロジェクト 夏休み親子で「オンライン牧場体験」開催 協同乳業2025年7月14日
-
大阪府泉北郡に「JAファーマーズ忠岡」新規開店 JA全農2025年7月14日
-
食農と宇宙をつなぐイベント あぐラボとMUGENLABO UNIVERSEが共催2025年7月14日
-
岩手県産のお肉が送料負担なし「いわちく販売会」開催中 JAタウン2025年7月14日
-
【今川直人・農協の核心】全中再興(2)2025年7月14日
-
「とちぎ和牛」が7年ぶりに全国最高位 "名誉賞"獲得 「第27回全農肉牛枝肉共励会」2025年7月14日
-
【役員人事】北興化学工業(9月1日付)2025年7月14日
-
第148回秋田県種苗交換会キャッチフレーズ決定 全国906作品から選出2025年7月14日
-
無料でブルーベリー食べ放題 山形・鶴岡の月山高原で地域活性イベント開催2025年7月14日
-
農地調査AI支援サービス「圃場DX」デジタル庁「技術カタログ」に掲載 LAND INSIGHT2025年7月14日
-
クマ対策用電気さく線「ブルーキングワイヤー」販売を本格化 未来のアグリ2025年7月14日
-
屋外作業の暑さ対策製品など展示「第11回 猛暑対策展」に出展 サンコー2025年7月14日