重要5品目と一部の加工・業務用野菜は「除外」-RCEP協定2020年11月16日
日本と中国、韓国、ASEAN(東南アジア諸国連合)10か国、豪州、ニュージーランドの15か国は11月15日、「地域的な包括的経済連携協定」(RCEP)をめぐるテレビ会議方式の首脳会合で合意し署名式を行った。中国、韓国とは初となるEPAを締結する。農林水産品関連の合意内容は日本側の関税について重要5品目(米、麦、牛肉・豚肉、乳製品、甘味資源作物)について関税削減・撤廃からすべて除外を獲得した。
域内貿易 世界の3割
RCEPは2012年11月に交渉の立ち上げを宣言、インドを含む16カ国で2013年5月から交渉を開始した。昨年11月にインドが離脱を表明したが、首脳会合で2020年中に合意をめざすとされた。交渉立ち上げから8年、4回目の首脳会合で署名に至った。
域内の人口は22.7億人、GDPは25.8兆ドル、貿易総額は5.5兆ドルでいずれも世界全体の約3割を占める。
協定内容は物品貿易のほか、原産地規則や衛生植物検疫措置などのルール分野がある。政府は、地域の貿易・投資の促進、サプライチェーンの効率化に向けて市場アクセスを改善し、発展段階や制度の異なる多様な国々の間で知的財産、電子商取引など幅広い分野のルールを整備した協定だとしている。
農林水産品の合意内容は重要5品目(米、麦、牛肉・豚肉、乳製品、甘味資源作物)について関税削減・撤廃からすべて「除外」した。関税撤廃率はTPP(環太平洋経済連携協定)と日EU・EPAの82%にくらべ、初のEPAとなる対中国では56%、対韓国では49%となった。また、対ASEAN・豪州・ニュージーランドは61%となり、大幅に低い水準に抑制した。
また、鶏肉と焼き鳥、チキンカツなど半製品として輸入される鶏肉調製品についても関税削減・撤廃から除外した。
野菜では中国に対して、生産者団体が加工・業務用で国産品の巻き返しを図りたいとする多くの品目を関税削減・撤廃から除外した。おもな品目はタマネギ(関税率8.5%)、ネギ(3.0%)、ニンジン(3.0%)、シイタケ(生鮮4.3%、乾燥12.8%)、冷凍サトイモ、冷凍ブロッコリー、冷凍ホウレンソウなど。
ただし、国産品だけで国内需要をまかなうことが難しいものや国産品と棲み分けができているものは長期の撤廃期間を確保したものの関税を撤廃する。たとえば、かきあげや、中華丼の具材、ロールキャベツなど冷凍した野菜調製品は9%の関税を11年目に撤廃する。また、カップラーメンなどに使用される乾燥野菜は9%の関税を16年めに撤廃する。
韓国に対しては野菜の関税について、基本的に削減・撤廃から除外するなど対中国以上の内容で合意した。ASEAN、豪州、ニュージーランドに対してはTPP、日EU・EPAよりも大幅に低く、すでに締結しているEPAの範囲内の水準となっているという。
菅総理大臣立ち会いの下、梶山経済産業大臣が他の14か国の代表とともに協定に署名
知財保護でルール強化
一方、中国、韓国への農産物輸出品目で日本は関税撤廃を獲得した。
中国向けではパックご飯と米菓の関税10%を21年目に撤廃する。ホタテ貝は10%の関税を生鮮品は11年目、乾燥や塩蔵品については21年目に撤廃する。中国向けの農林水産品の輸出額は2019年で1500億円でこのうちホタテ貝が270億円でトップ。農林水産省は14億人の人口を抱える巨大市場の中国で関税撤廃を獲得したことを輸出拡大につなげる成果とする。
また、韓国からはキャンディー(8%関税を10年目撤廃)、板チョコレート(8%関税を即時または10年目撤廃)、インドネシアは牛肉(5%関税を即時または15年目撤廃)などを獲得した。
ルール分野では税関手続きでは貨物の到着後、48時間以内の引き取りを許可するとともに、急送貨物は6時間以内の引き取りを許可するなど、貿易の円滑化を規定。衛生植物検疫(SPS)措置でもWTOのSPS協定では義務化されていない通報内容の英語による提供と、30日以内の技術的協議の開催などを規定した。植物品種の保護については国際条約(UPOV)の1991年改正条約の加入に向けての協力(中国は未加入)、GI(地理的表示)保護に関する情報交換、悪意による商標の出願を拒絶したり登録取消しができる権限を各国の当局に付与する義務なども規定した。農水省によるとUPOVへの中国の加盟促進や、商標登録規制などのルールはわが国の種苗の流出等を防ぐ効果に寄与するとしている。
RCEPによる国内農林水産物への影響は重要5品目が関税削減・撤廃から除外されたことなどで「特段の影響はない」(農水省政策課)としているが、中国からの野菜輸入などの動向には注意が必要だ。また、加工・業務用野菜で関税撤廃から除外されたことを受けて国産への切り替えをいっそう進める必要がある。そのための産地づくりも重要になる。
参加15カ国の署名を受けて、各国で国内での承認て手続きを進める。日本は「なるべく早期に承認を得たい」考え。RCEPの発効はASEAN10カ国のうち6カ国、その他、日本をはじめ5カ国のうち3カ国で承認されると発効する。また、発効から5年後に再協議する規定もある。
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