輸入依存の肥料・飼料 価格高騰「重大なリスク」 農水省が検証2022年6月21日
農林水産省は6月21日、「食料の安定供給に関するリスク検証2022」を公表した。わが国の食料供給は国産と輸入上位の4か国で9割を占め、「特定国への過度な依存」というリスクがあると指摘したほか、輸入に依存する生産資材の価格高騰は「重大なリスク」と評価した。農水省はリスク検証をふまえ、現行の基本法に基づく食料安全保障に関連する施策が十分かどうかさらに検証し、必要な施策を検討するとしている。
特定国へ過度な依存
農水省は今回、カロリーベースでわが国の食料供給の現状を分析した。
日本の食料自給率は37%で、残り63%は海外から輸入する食料に頼っていることになる。残り63%のうち、米国が23%、カナダが11%、豪州が8%、ブラジルが6%で、国産とこの4か国からの輸入食料で85%となり、約9割を占める。
現在の食生活は6割以上をこれらの国に頼っていることになる。いずれも国土面積が広大で、トウモロコシ、小麦、大豆、なたねなど穀物や油糧種子、飼料作物と、それを使った畜産物を生産している。
トウモロコシは100%輸入で米国が63%、ブラジルが35%となっている。小麦は85%が輸入で米国42%、カナダ31%、豪州13%。大豆は94%が輸入で米国70%、ブラジル13%、カナダ9%。なたねは100%輸入でカナダ97%、豪州3%となっている。
農水省は現在の食生活を前提として食料供給の安定性を維持していくためには「これらの輸入品目の国産への置き換えを着実に進めるとともに、主要輸入先国との関係を維持していくことも必要不可欠となる」と指摘する。
今回のリスク検証は、食料の安定供給に与える可能性があるリスクを洗い出し、労働力不足、農地減少、異常気象など国内におけるリスク10種と、燃油や肥料、飼料などの価格高騰といった海外におけるリスク15種の計25種のリスクを対象に、基本計画で生産努力目標を設定している24品目のほか、食料産業(製造、卸、小売、外食)4業種、林業を合わせた32品目を対象として選定した。平成27年から実施してきたリスク評価では主要6品目にとどまっていたが、今回は供給熱量の98%をカバーするという。
32品目について各リスクの「起こりやすさ」を「リスクが顕在化しつつある」から「極めて稀なリスク」まで5段階(5→1)で評価するとともに、そのリスクによる各品目の生産、供給への「影響度」を「甚大」から「軽微」まで3段階で評価した。
こうした「起こりやすさ」と「影響度」を評価したうえで、「重要なリスク」(影響度が甚大、起こりやすさ5~3)とややリスクが低いと評価さっる「注意すべきリスク」に分類した。
農水省はおもな検証結果を以下のようにまとめている。
飼料穀物など輸入品目は、世界的な食料需要の高まりと昨今の国際情勢で価格が高騰している。とくに飼料穀物と木材の価格高騰のリスクは顕在化しており「重要なリスク」と評価した。
また、小麦・大豆・なたねでは、価格高騰のリスクの「起こりやすさ」は中程度だが、影響度が大きく「重要なリスク」とした。
労働力・後継者不足に関するリスクは、手作業が多い野菜や果実など労働集約的な品目では、「起こりやすさ」が高まっており、畜産物、水産物でリスクは顕在化しつつありこれらの品目では「重要なリスク」と評価した。
一方、米など土地利用型作物で機械化が進んでいる品目については、労働力・後継者不足のリスクは、「起こりやすさ」と「影響度」は比較的低くなると評価した。
ただ、自治体やJAの営農指導員など農業関係人材や、農業施設の減少によるリスクは、多くの品目で顕在化しており「注意すべきリスク」とした。
燃油や肥料、飼料穀物といった生産資材の価格高騰リスクは、飼料穀物では顕在化しつつあり、燃油と肥料では「起こりやすさ」が高まっている。
ただ、影響度はそれらの品目の使用割合によって異なるが、飼料穀物や肥料は生産に必須のため価格高騰は「重要なリスク」と評価。一方、燃油では経営費に占める燃料費の割合が高い野菜、茶、水産物、きのこなどで「重要なリスク」とした。
また、野菜の種子については輸入割合が9割だが、日本の種苗会社が日本の市場向けに海外で生産しており、リスク分散の観点から複数国で生産している実態にあること、さらに約1年分を備蓄していることから、種子や種苗に関するリスクは「起こりやすさ」も影響度も大きくないと評価している。
温暖化リスクについては、サトウキビと飼料作物をのぞくすべての品目で顕在化しつつあり、「注意すべきリスク」としたが、海水温の影響を受ける水産物では「重要なリスク」と評価した。
家畜伝染病のリスクについては、口蹄疫やアフリカ豚熱が近隣諸国で継続的に発生しており、「起こりやすさ」が高まっている。また、発生した場合の影響は大きいことから「重要なリスク」と評価した。
重要な記事
最新の記事
-
「良き仲間」恵まれ感謝 「苦楽共に」経験が肥やし 元島根県農協中央会会長 萬代宣雄氏(2)【プレミアムトーク・人生一路】2025年4月30日
-
【農業倉庫保管管理強化月間特集】現地レポート:福島県JA夢みなみ岩瀬倉庫 主食用米確かな品質前面に(1)2025年4月30日
-
【農業倉庫保管管理強化月間特集】現地レポート:福島県JA夢みなみ岩瀬倉庫 主食用米確かな品質前面に(2)2025年4月30日
-
アメリカ・バースト【小松泰信・地方の眼力】2025年4月30日
-
【人事異動】農水省(5月1日付)2025年4月30日
-
コメ卸は備蓄米で儲け過ぎなのか?【熊野孝文・米マーケット情報】2025年4月30日
-
米価格 5kg4220円 前週比プラス0.1%2025年4月30日
-
【農業倉庫保管管理強化月間にあたり】カビ防止対策徹底を 農業倉庫基金理事長 栗原竜也氏2025年4月30日
-
米の「民間輸入」急増 25年は6万トン超か 輸入依存には危うさ2025年4月30日
-
【JA人事】JAクレイン(山梨県)新組合長に藤波聡氏2025年4月30日
-
【'25新組合長に聞く】JA新潟市(新潟) 長谷川富明氏(4/19就任) 生産者も消費者も納得できる米価に2025年4月30日
-
備蓄米 第3回は10万t放出 落札率99%2025年4月30日
-
「美杉清流米」の田植え体験で生産者と消費者をつなぐ JA全農みえ2025年4月30日
-
東北電力とトランジション・ローンの契約締結 農林中金2025年4月30日
-
大阪万博「ウガンダ」パビリオンでバイオスティミュラント資材「スキーポン」紹介 米カリフォルニアで大規模実証試験も開始 アクプランタ2025年4月30日
-
農地マップやほ場管理に最適な後付け農機専用高機能ガイダンスシステムを販売 FAG2025年4月30日
-
鳥インフル 米デラウェア州など3州からの生きた家きん、家きん肉等 輸入停止措置を解除 農水省2025年4月30日
-
埼玉県幸手市で紙マルチ田植機の実演研修会 有機米栽培で地産ブランド強化へ 三菱マヒンドラ農機2025年4月30日
-
国内生産拠点で購入する電力 実質再生可能エネルギー由来に100%切り替え 森永乳業2025年4月30日
-
外食需要は堅調も、物価高騰で消費の選別進む 外食産業市場動向調査3月度 日本フードサービス協会2025年4月30日