【座談会:どうする農政】食農クライシス過去・現在・未来(上)「米・水田農業」2026年3月6日
今、農政は大きな転換点に立っている。政府は農業の構造転換を5年間で集中的に進めるとし、水田政策は2027年度からの抜本的な見直しに向けての検討を本格させる。座談会ではJA陣営で長く農政に携わってきたJA全中の冨士重夫元専務を中心に米と水田農業、貿易自由化、農政・農協改革の3テーマについてこれまでを振り返り、今後を展望してもらった。
【出席者】
冨士重夫元JA全中専務
加藤純JA全中参事
伊本克宜・農政ジャーナリスト(進行)
冨士重夫元JA全中専務
総選挙での自民「グライダー型圧勝」
伊本 まずは、日本中に衝撃を与えた衆院選の結果から分析を始めたいと思います。一言でいうと、今回の自民党の勝機は「熱なきグライダー型圧勝」だったのではないでしょうか。グライダーというのは、自力でエンジンを回して飛ぶのではなく、上昇気流という「風」がなければ遠くへは飛べません。今回は「高市人気」という強風が自民党を高く、そして遠くに運び、316議席という驚くべき議席数につながった。この結果をどう見るか。
政権が安定するのは一つのメリットですが、一方で中道改革連合が大敗し、かつての「民主党」のような"自民対抗軸"の存在が事実上消滅してしまいました。これで本当に、国会のチェック機能が働くのか。危惧しています。
加藤 選挙期間中、各地を回っていても、高市人気で自民党に吹く風は確かに感じました。農政連で推薦した多くの自民党議員が当選を果たしましたが、これは我々にとっても重い責任を伴うものです。2027年度の水田・畑地フル活用のコメ政策見直しという、非常に重要な時期が迫っています。自民党が安定多数を得た中で、しっかり与党としての力を発揮してもらい、JAグループが求める必要予算の獲得、そして何より農業者への持続可能な経営支援を、形として進めてほしいと強く願っています。
冨士 確かに衝撃の結果ですが、我々はこれを冷静に見極める必要があります。自民大勝となると、良い面と同時に懸念も出てくる。巨大与党になると、一部の議員による「官邸主導」の政治が強まる傾向があるからです。10年前の「官邸農政」がまさにそうでした。一部の意見だけで、生産現場の実態を軽視した農政が展開されないか、そこは厳しく注視していく必要があるでしょう。
特に高市政権が掲げる「責任ある積極財政」を踏まえ、我々も農業振興策の具体的な提案をすべきです。「コスト高」はもはや一過性の現象ではなく、元には戻らない構造的なものです。それを踏まえた農政転換の財政的裏付けを、いかに国として担保させるか。そこが問われています。
伊本 一方で、新自由主義的な側面を持つ与党・日本維新の会の動きも警戒が必要ですね。
加藤 維新は、かつて主張していた「地域農協からの金融部門の分離」などを今回の公約からは削除していますが、油断はできません。JAグループが地域で果たしている多角的な役割を、彼らにも正しく、深く理解してもらう不断の努力が必要です。
冨士 総合事業を特色とする日本のJA事業において、信用・共済分離論は、准組合員問題の権利付与と表裏一体の関係にあります。赤字部門である営農経済事業を、信用・共済事業の収益で補いながら地域の農業振興とくらし、生活を守るという仕組みは、外部から見ると非常に分かりにくいのも事実です。我々としても、もう少し実態に即した組織対応のあり方を整理し、発信していく必要があるでしょう。
どうする「コメ・水田農業」
伊本 本題の「コメ・水田農業」に入りましょう。まず、世間を驚かせた「令和のコメ騒動」をどう捉えるべきか。
加藤 需給の見通しに、確かに甘さがあったことは認めざるを得ません。猛暑による精米歩留まりの低下は予想を超えていました。加えて、外食・中食、そしてインバウンド需要が思った以上に強かった。農政はこれまで「需要最重視のマーケットイン」を強調してきましたが、農家戸数が急減している生産現場の実態をもっと見るべきだった。
2027年度にはコメ政策の抜本見直しが行われます。これは、水田・畑地をフル活用して自給率を上げる政策への大きな転換です。転作助成金の単価のあり方や、政策要求をさらに具体化したい。また、不測の事態に備えたセーフティーネットの拡充も喫緊の課題です。JAグループとしては、国産米の安定供給という公的な役割を果たすために、「需要に応じた生産」をどう進めていくかが、すべての基本となります。
冨士 今回の「コメ騒動」は、これまでの農政のあり方そのものを根底から見直すきっかけとすべきです。かつて食管法時代には「二重米価」という仕組みがありました。生産費所得補償方式を通じて、一定規模以上の農業者のコストをカバーしながら所得を確保し、一方で消費者には安定的な米価を維持した。しかし、結果として在庫が膨れ、政府は財政負担に耐えきれず、55年前に「生産調整」に踏み出したわけです。
その後、ガット交渉やWTO(世界貿易機関)規律を踏まえ、食管法は廃止され、食糧法施行によって政府は徐々にコメの関与から手を引いていきました。しかし、今回の騒動は主食としてのコメの重要性と、それを支える産地の脆弱な実態を改めて浮かび上がらせました。あらためて産地振興、そして持続可能な水田農業の確立を、国を挙げて加速すべきでしょう。
脱「WTO呪縛」を
冨士 過去の経験は、今後の農政方向の展開に必ず役立ちます。私は、今の農水省はWTO規律に拘束されすぎているのではないか、と感じています。価格は市場に任せ、ある基準価格を下回れば一定比率で補填する。しかも、その財源は農業者自身も拠出している。こうした仕組みは、現在の世界的なインフレ時代にはもはや機能していません。
欧米で行っているような「直接支払い」も含め、しっかりとした所得補償の仕組みを構築する時期です。コメ備蓄についても、現行の100万トンからもっと増やすべきです。政府の責任で主食米以外に米粉、加工用米など多用途で保管し、状況に応じて柔軟に提供できるように変えるべきでしょう。
加藤 26年度は、食料システム法によるコスト指標を踏まえた「適正な価格形成」がどう実現するかが重要です。国民の主食であるコメの安定供給を図るためには、長期安定的な契約栽培や、系統集荷の維持・拡大を進めていくことが何より重要です。
将来にわたり生産基盤を維持するためには、平地を中心に圃場の大区画化をさらに進め、多収・省力栽培技術を普及させるなど、生産性向上を着実に進めることが不可欠です。その一方で、地域経済の安定という観点からは、中山間地の振興や家族農業など、多様な農業者の維持も絶対に欠かせません。この両輪のバランスが重要です。
冨士 日本は「瑞穂(みずほ)の国」です。訪日外国人が増え、インバウンド需要が高まる中で、食と農の"メイド・イン・ジャパン"でこれをしっかり取り込む。コンビニおにぎりだけでなく、パンも麺も米粉入りで国産米をしっかり売り込む戦略が必要です。
需要面では、米粉が非常に有望です。輸入小麦との価格差はまだ3倍程度ありますが、先端技術開発によって製粉コストを劇的に下げ、競争力を高められないか。また、画期的な多収米開発も加速させ、主食米だけでなく加工用米、酒米、輸出用、さらには畜産の輸入飼料依存を是正する飼料用米やWCS(稲発酵粗飼料)用稲など、日本の誇る「水田」という素晴らしい生産装置をフル活用した、多様な用途需要に応じた産地づくりが必要なのです。
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