農政 シリーズ詳細

シリーズ:時論的随想 ―21世紀の農政にもの申す

【梶井 功 / 東京農工大学名誉教授】

2014.06.06 
(85)「和食」の現実から食料政策を考える一覧へ

・基本計画の課題
・「おせち」はどこに?
・「基本計画」の課題

 前々回の本欄で、私は「基本計画」の見直し審議に入った農政審でぜひとも究明してもらいたい重要問題の一つとして、PFC栄養バランスの問題をあげておいた。現行「基本計画」が脂質摂取改善を言っているのに、現実はすこしも改善されていないからである。

◆基本計画の課題

 昨年の農業白書は、1965年、80年、90年、2011年のPFCバランスの数字を示した上で、“米を中心として、水産物、畜産物、野菜など多様な副食から構成され、栄養バランスに優れた「日本型食生活」が実現していた昭和55(1980)年度と比較すると、(2011年度は)脂質の割合が3.1ポイント上昇する一方、炭水化物の割合が3.1ポイント低下しており、栄養バランスの崩れが見られます”と指摘していた。そして野菜の摂取量が厚労省「健康日本21(第2次)」の示す摂取目標値の79%にとどまることを問題とし、“PFCバランスの崩れのみならず、野菜不足による健康面における影響も懸念されます”と警告していた。
 白書でのこうした分析を踏まえてであろうか、白書と同時に示された「平成25年度食料・農業・農村施策」の「2食料自給率向上に向けた施策」のところでは“一方、消費面からは…消費者や食品産業事業者に国産農畜産物が選択されるような環境を形成します。特に朝食欠食の改善による米の消費拡大や、健康志向の高まりを受けた脂質の過剰摂取抑制策に取り組みます”と宣言されていた。それらを踏まえて、“『和食』が無形文化遺産になったいまこそ、明確な改善指針を示すことを、基本計画の重要課題とすべきではないか”と私は前々回の本欄で要望したのだった。

 

◆「おせち」はどこに?

 その『和食』については、今年の農業白書は“『和食』のユネスコ無形文化遺産登録〜次世代に伝える日本の食文化〜”を全体のトップに据え、この登録を契機として、多くの日本人が日本食文化を見つめ直す”ことを“期待”し、「和食」の特徴を“以下の4つ”にまとめている。“1つ目として、新鮮で多様な食材と素材を用い、またその持ち味を尊重する工夫が施されている点”、“2つ目は、栄養バランスに優れた、健康的な食生活を形成している点…動物性油脂の少ない食生活を実現…”、“3つ目は、食事の場において自然の美しさや季節の移ろいを表現した盛り付けを行う点”、“4つ目は、食が正月行事等の年中行事等と密接な関わりを持っていること”の4つである。
 が、われわれ日本人の現実の食生活では、この4つの特徴点は無くなりつつあることを白書は指摘する。昭和40(1965)年度を100にしての比較だが、“米は平成24(2012)年度には50まで半減している一方、肉類・鶏卵、牛乳・乳製品、油脂類は、それぞれ228、239、216まで大きく増加”しているし、“食料支出額に占める…生鮮食品の割合は一貫して減少している。”正月におせち料理を食べた人の割合が平成4(1992)年86.6%だったのに平成24(2012)年には75.8%に下がったという民間での調査を紹介し、“近年では、この日本の食文化の慣習が薄れつつある”ことも指摘している。
 「和食」は無形文化遺産に登録はされたものの、現実の日本での食生活はそれと離れつつあるということである。白書はその事実を指摘するとともに、民間での“日本食文化の保護・継承の取組”を紹介し、“次世代に向けた保護・継承につなげていくことが重要”という。が、そこには国としてどうするのか、一つも政策提示がない。こんなことでいいのだろうか。

 

◆「基本計画」の課題

 こんなことでいいのか、は最初に問題にしたPFCバランスの崩れ問題の扱いの変更について、もっと厳しく言わなければならない。今年の白書はPFCバランスそれ自体に触れていないからである。
 今年の白書も去年の白書と同じように“食料自給率(供給熱量ベース)の品目ごとの推移”という図を掲げてはいる(但し、去年は65年度80年度90年度2011年度と4年度にわたって示されていたが、今年は80年度と2012年度のみ)が、去年はその図の下にPFCバランスに関する数字が書かれていたが、今年は無い。これはどうしたことだろう。
 農水省が農政審企画部会に提出した「現行の食料自給率目標などの検証[1]」という資料には、“総供給熱量とPFC熱量比率の進捗状況とその要因”と題して平成24年度のPFC比率が示され“現在は脂質の摂取割合が高めな状況”と説明されていた。P13.1F28.7C59.2というその数字がなぜ白書から落とされてしまったのかだろうか。PFCバランスのこの崩れを問題にする記述も無論ない。“栄養バランスに優れた、健康的な食生活を形成している”「和食」の国として国際的に認められたのに栄養バランスの崩れをいうのは問題、としたのだろうか。都合の悪いことには目をつぶるようなことで、適正な食料政策がたてられるのだろうか。

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