農政 シリーズ詳細

シリーズ:時論的随想 ―21世紀の農政にもの申す

【梶井 功 東京農工大学名誉教授】

2016.07.07 
(106)どう恒久化する? 水田フル活用政策一覧へ

◆自民の参院公約

 今回は、参院選の自民党公約で私がとくに気になっている一点を問題にしたい。選挙後も安倍内閣が本当に選挙公約を掲げたことを実行するかどうか、不断の注視を皆さんにもお願いしたいからである。

  ◇    ◇

 特に気になっている一点というのは飼料米政策に関してである。公約にはこう書いてある。
「飼料用米の生産努力目標を確実に達成し、飼料米生産の持続的な拡大が食料自給率の向上と畜産のブランド力強化につながる理想的なサイクルを実現します。水田フル活用の予算は責任をもって恒久的に確保します」
 "恒久的に確保"するのにどういう法的裏づけを考えるのか、何も書かれていない。自民党が恒久的に政権を握っていることを前提にしているのかもしれないが、とすれば思い驕りは許されないとしなければならない。3年前に政権に復帰できたのだということを忘れてはいないとすれば、"恒久的に"予算を確保するための法的措置はどうすべきかを考えるのが当然だろう。

◆米国が問題視?

 "恒久的"政策たり得るかを問題にするのは、この問題は国際問題として圧力を受ける可能性があるからである。4月14日付け日本農業新聞「今よみ」に「飼料用米の振興 米国注視 不安要素も」と題した山田優氏の次のような一文があった。些か長文になるが引用させていただく。
「東京の米国大使館は1ケ月前にまとめた日本の穀物事情報告の中で、飼料用米政策の内容を詳しく分析している。10アール当たり10万5000円の補助金を支払っている事実などを並べ、今年の生産量が54万トン(玄米換算)に達すると独自に予測した。
 報告書は、日本の飼料米増産によって米国産トウモロコシの飼料向け輸出が減る可能性に触れた。今の時点で米国政府や業界団体が、飼料用米をやり玉に挙げる兆候は見られない。日米間は不思議と静かだが、2月にはワシントンまで出向いて『私が米国政府の役人ならWTOに飼料用米の補助金を提訴する。そうすれば日本政府は負ける』と講演で語った農水省のOBもいるから、油断はならない。
 本気で怒る米国政府を前に『飼料用米は必要だから拡大します』と突っぱねることが、日本政府にできるだろうか」

◆国内にも異論

 とんでもない"農水省OB"がいるものだが、"農水省OB"すらがそんなことをしているのなら、俺たちもという財務省筋の人が出ないとも限らないだろう。政権復帰後の自民党が農政改革と称して打ち出したのが、民主党の看板政策、米の直接支払い交付金廃止、それと並んで飼料用米に特別措置を講じるとした生産調整政策転換だった。(安倍首相だけは転換と言わず廃止と言っていた)。その転換政策の柱になっている飼料米特別措置に最初から難癖をつけていたのが財務省だからである。14・4・10本欄(90)で紹介したことがあるが、3年前の10月21日付日本農業新聞は次のように報道していた。
「財務省は20日、財務省の諮問機関である財務制度等審議会の分科会で、米の生産調整について、飼料用米や麦などの転作助成が『需要より、補助金単価が作物の選択に大きな影響を与えている』と指摘した。食料自給率の面からも『いたずらに財政負担に依存した助成措置だけの向上は困難』と財政支援が増えることに慎重な姿勢を示した」 これに"自民党の農林議員らに困惑が広がった"し、"「今回の農政改革は飼料米が柱。改革の初年度に後から鉄砲を撃たれたようなものだ」とある自民党農林幹部は財務省の指摘に憤る"と日本農業新聞は解説していた。流石にこのときは財務省の指摘を押し返したのだが、その後も財政的見地から飼料用米助成削減を求める意見表明は続き、15年1月19日には産業競争力会議が"飼料用米の本作化は「補助金に依存することなく」進めるよう提起し、コスト削減の道筋を明確化するよう求め"ている(15・1・22日本農業新聞)。

◆障碍を乗り越えよ

 "日米間は不思議と静かだ"と山田氏は言っているが、それは参院選が終わるまでは、と米政府が我慢しているからではないのか。飼料用米増産によって米国産トウモロコシの輸出が減る可能性を問題にした大使館報告書を目にしている米政府がこのまま黙っている筈はないだろう。WTO提訴を言ってくれた農水省OBや、飼料用米生産のための財政支出削減を求める財務省や産業競争力会議のメンバーなど、飼料用米増産を問題視し米政府の要求支持に廻るであろう人達が日本国内にもいる。"水田フル活用の予算"を"恒久的に確保"するために超えなければならない障碍は大きい。どういう政策を用意しているのか。

一覧はこちら

このページの先頭へ

このページの先頭へ