農政:時論的随想 ―21世紀の農政にもの申す
水田フル活用の法整備を2017年12月6日
10月に行われた衆議院総選挙の際、日本農業新聞が各党に求めた農政に関しての公開質問に対する自民党の回答のなかに、米政策についてだが次のような文章があった。
「米の需給と価格の安定を図るため、飼料用米をはじめ水田フル活用の予算(産地交付金を含む)を恒久的に確保します。引き続きナラシ対策を安定的に実施します。米の需給見通し等を踏まえ、関係者の主体的な取組を促す全国的組織の立ち上げを支援します(17・10・9付「日本農業新聞」)
自民党が、民主党政権下で始まっていた10a当り1万5000円の直接支払交付金を、2015~17年産は半減、18年産から廃止とか、"行政による...生産数量目標の配分に頼らずとも、生産者や集荷業者・団体が中心となって円滑に需要に応じて生産"するようにするとかといった生産調整政策の大転換を打ち出したのは13年12月だった。それを踏まえて、安倍総理が翌年の1月24日通常国会冒頭の施政方針演説で"40年以上続いてきた米の生産調整を見直す。いわゆる「減反」を廃止する"と発言し、この首相発言に"減反廃止"ではなく生産調整の"手法見直し"だと、党幹部が"困惑"し訂正するという一幕があった。
先の回答文は、18年を目前にしての党公約といっていいだけに、"フル活用の予算...を恒久的に確保する"ために、或は"全国的組織...支援"にどういう施策が用意されているか、問題にする必要があろう。
◆予算の恒久確保
11月28日の自民党農林合同会議でどうやらその対応策をきめたようだ。翌29日の日本農業新聞の報道を拝借しておこう。
「自民党は28日の農林合同会議で、2018年産からの米の生産調整の見直しへの対応方針を決めた。民間主体の生産調整を促すため、国が、米関係団体でつくる全国組織の立ち上げを支援し、米の安定取引に向けた産地と中食・外食事業者を結びつける取り組みを後押しする。飼料用米の本作化などを進める水田フル活用予算は『恒久的に確保』と明記した。全国組織は年内に発足させ、政府の18年度予算や17年度補正予算に具体的な支援策を盛り込む方針だ。」
米の直接支払い交付金の廃止についての"対応方針では、産地で使い道を決められる「産地交付金」を含めた予算確保を明記。政府に対し、①戦略作物などの生産拡大②米の新市場開拓③畑地化――に充てられるよう同交付金の拡充を要請"している。そして"収入保険制度の加入促進と、生産基盤強化に取り組む生産者や産地への支援策を明記。産地の自主的な需給安定に向けた取り組みを支援する米穀周年供給・需要拡大支援事業の活用や輸出対策も盛り込んだ"そうだ。
ところで、8月に公表された農水省の「平成30年度農林水産予算概算要求の概要」の"水田のフル活用と経営所得安定対策の着実な実施"と題された"重点事項"の概算要求額を今年度予算額と較べてみると、18年度から始まる"収入保険制の実施"予算531億円は別としても、対前年増15億円の水田活用の直接支払交付金3304億円、70億円増の収入減少影響緩和対策交付金816億円、34億円増の畑作物の直接支払交付金、6億円増の農業再生協議会の活動資金等89億円、1億円増の米粉の需要拡大・米活用畜産物等のブランド化等2億円が概算要求額として組まれている。飼料用米についても10年後の平成37年110万トンにする政策目標のもとに奨励策がたてられている。
こう見てくると、自民党の"米の生産調整の見直しへの対応方針"の内容は、党独自の対応方針ではなく、概算要求として示されている農水省の対応方針にそったもの、と言えるのではないか、と私は思う。"水田フル活用の予算...を恒久的に確保する"とは作文の中には入っているが、そのための施策は何も無いといっていいだろう。
◆農家の信頼得られるか?
米の生産調整の必要を公式に初めて取上げた1969年の農政審答申「農政推進上の基本的留意事項」は、構造的過剰対策として、稲作の転換ないし休耕の奨励等をあげるとともに"生産調整措置が有効に行われるためには...これを裏付ける生産調整のための法的措置を考える必要があろう"と指摘していたが、"法的措置"は今日までとられなかった。これまでの生産調整政策の最大の問題点だと私は考えるが、"水田フル活用の予算...を恒久的に確保"することを本当にやるつもりなら、水田フル活用法ぐらいを自民党は提起すべきなのではなかろうか。
予算獲得に自民党の先生方もこれから奮闘はされるのだろう。期待したいところだが、財政当局からは水田フル活用予算、とくに飼料用米のための予算削減が求め続けられている。毎年の予算折衝の結果を見るまで施策の効果がはっきりしない、ということでは生産のあり方をきめるのにどうしても3年とか5年の見通しを必要とする農家の信頼は得られないことをよくよく考えるべきだ。
重要な記事
最新の記事
-
シンとんぼ(146)-改正食料・農業・農村基本法(32)-2025年6月14日
-
みどり戦略対策に向けたIPM防除の実践(63)【防除学習帖】第302回2025年6月14日
-
農薬の正しい使い方(36)【今さら聞けない営農情報】第302回2025年6月14日
-
群馬県の嬬恋村との国際交流(姉妹)都市ポンペイ市【イタリア通信】2025年6月14日
-
【特殊報】水稲に特定外来生物のナガエツルノゲイトウ 尾張地域のほ場で確認 愛知県2025年6月13日
-
【注意報】りんごに果樹カメムシ類 県内全域で多発のおそれ 岩手県2025年6月13日
-
SBS輸入 3万t 6月27日に前倒し入札2025年6月13日
-
米の転売 備蓄米以外もすべて規制 小泉農相 23日から2025年6月13日
-
46都道府県で販売 随意契約の備蓄米2025年6月13日
-
価格釣り上げや売り惜しみ、一切ない 木徳神糧が声明 小泉農相「利益500%」発言や米流通めぐる議論受け2025年6月13日
-
担い手への農地集積 61.5% 1.1ポイント増2025年6月13日
-
【鈴木宣弘:食料・農業問題 本質と裏側】生産者米価2万円との差額補填制度を急ぐべき2025年6月13日
-
井関農機 国内草刈り機市場を本格拡大、電動化も推進 農機は「密播」仕様追加の乗用田植え機「RPQ5」投入2025年6月13日
-
【JA人事】JA高岡(富山県)松田博成組合長を新任(5月24日)2025年6月13日
-
【JA人事】JAけねべつ(北海道)北村篤組合長を再任(6月1日)2025年6月13日
-
(439)国家と個人の『食』の決定権【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2025年6月13日
-
「麦とろの日」でプレゼント 東京のららぽーと豊洲でイベントも実施 JA全農あおもり2025年6月13日
-
大学でサツイマイモ 創生大学と畑プロジェクト始動 JA全農福島2025年6月13日
-
JA農機の成約でプレゼントキャペーン JA全農長野2025年6月13日
-
第1回JA生活指導員研修会を開催 JA熊本中央会2025年6月13日