農政:世界の食料は今 農中総研リポート
【世界の食料は今 農中総研リポート】米国の鶏肉生産と需給見通し(2)片田百合子研究員2024年4月1日
「世界の食料は今」をテーマに農林中金総合研究所の研究員が解説するシリーズ。今回は片田百合子研究員が「米国の鶏肉生産と需給見通し」をテーマに解説する。
【世界の食料は今 農中総研リポート】米国の鶏肉生産と需給見通し(1)片田百合子研究員 から
3. 米国鶏肉生産の2024年の見通し
(1) 経営環境は改善の見通し
USDAによると、2024年の鶏肉の卸売価格は、海外からの価格面での引き合い減少を国内需要増加が上回り、一方で生産が緩慢なため前年比2.4%の上昇が見込まれる(表2)。飼料価格については、2024/25年度のトウモロコシ価格は4.40米ドル/ブッシェル(前年度比8.3%安)、大豆かすは320米ドル/t(同15.8%安)と予測されている。
このことから、すでに23年後半から改善傾向にあった鶏肉生産の利ザヤ(卸売価格-飼料価格)は、24年も改善すると期待される。
(2) 生産の伸びは限定的か
USDAは、利ザヤの改善はあるが、増産は限定的(前年比0.8%増)とみている(表3)。まず、ブロイラー飼養羽数は23年からあまり増えないと予測される。24年1月の羽数は前年同期比1%増にとどまり、23年4月以降のひなのえ付け羽数(初生ひなの羽数)も前年をおおむね下回っている。これは、鶏肉の冷凍在庫の増加を受け、大手食肉企業が利益確保のために生産調整したことが要因と考えられる。そのため、飼養羽数は24年以降も前年実績付近で推移するとみられる。
ただし、ブロイラーの増体は向上している。23年の出荷時の1羽当たり体重は21、22年を上回り、24年も増加傾向が続くものの、体重の伸び率は縮小すると見込まれる。
従って、鶏肉生産量は、主に体重の増加により前年比0.8%増と予測されている。2010年代に生産量は2割増加したが、ややペースダウンしている。
なお、筆者が確認したところ、23年10月以降のブロイラー飼養施設での高病原性鳥インフルエンザ(HPAI)発生件数は16件で、主産地でも発生しており、HPAIは今後も減産リスクといえる。
(3)国内消費は拡大
鶏肉は安価で健康的との認識から、一人当たり鶏肉消費量は1970年代後半から増加し、90年代以降は牛肉や豚肉を大きく上回っている(図2)。2000年代、また15年以降に鶏肉のみが明らかに増加し、一方で牛肉が減っている。健康志向等で、米国の消費者は牛肉から鶏肉へと置き換えが進展している。
さらに22年以降は、食品価格の高騰に、干ばつによる減産がもたらした牛肉価格の上昇等もあり、安価な鶏肉の需要は拡大している。この傾向は24年も継続し、同年の一人当たり鶏肉消費量は45.4キログラム(前年比0.7%増)と見込まれている。
4. 米国産鶏肉の輸出増加の余地はあるが、国内需要に左右される
米国の鶏肉産業は、2017年から22年にかけて一層規模拡大が進んだ。2000年代以降でみると、一定数の大規模生産者が羽数を増やす傾向がみられたが、シェアの伸び率は縮小傾向にあると評価でき、今後大きなシェア拡大が起こるとは考えにくい。
24年の生産量は、利ザヤの改善が増産をさほど後押しせず、微増と予測されている。大手食肉企業は鶏肉の生産と在庫を調整できる立場にあるため、国内需要が増えても、相場保持のためには必ずしも大きな増産に転じないと想像される。大手企業のシェアの高さから、消費者は市場原理による価格低下の恩恵を受けにくくなっているかもしれない。
24年の輸出量は、価格競争力の低下で前年から0.7%減少すると予測されている。米国は2015年のHPAIのパンデミックをきっかけに国際交渉を進め、より多くの国が感染区域と清浄区域の区分を国や州よりも小さな単位(郡等)で行うようになった。そうした輸出強化の努力があっても、生産量の8割を掌握する大規模生産者が価格競争にさらされる海外向けの増産に応じることはなさそうだ。
米国は国内需要の低いもも肉を主に輸出していることから、米国の生産増に伴い、輸出可能な数量も一定程度増加するだろう。鶏肉は他の食肉より安く、中所得国のタンパク質需要が拡大するなかで、その安定供給が相対的にみて重要になる。しかし、大手企業の寡占が進み、鶏肉の国際価格の動向よりも、企業の論理から供給は動きにくい。
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