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農政:どうするのか?この国の進路 高市政権を考える

「swing voters」という存在 武道家・思想家 内田樹氏2026年2月24日

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自民党の圧勝となった先の衆院選結果について内田氏は「swing voters」の増加があると見る。その存在はこの国の政治と社会に何をもたらすのだろうか--。

武道家・思想家 内田樹氏武道家・思想家 内田樹氏

衆院選の総括をいろいろな媒体から求められた。同じ話を繰り返すのも退屈なので、そのたびに違う話をした。こういう生々しい出来事については、思いついたアイディアを片っ端から開陳しておいて、経時的な淘汰圧にさらすのが一番合理的である。うっかり「これしかない」というような断定的解釈を採用してしまうと、反証事例が次々と出て来てもつい目を背けて自説に固執してしまう。
そういうのはよろしくない。解釈の仮説は思いつく限り並べておいた方がいい。

どの論者も今回の自民党の地滑り的勝利は無党派・浮動票の動きによるという点では一致している。どの政党も基礎となる組織票が削られてきて、浮動票頼みになる。どうやって彼らの関心を惹きつけるか、それにどの政党も腐心している。SNSを活用すべきだとか、いや新聞テレビのようなオールドメディアへの露出度の方が有効だとか、とにかく女性を前面に出せとか、ポピュリズム的な口当たりのよい公約を嘘でもいいから掲げておいて後で知らん顔をすればいいとか、いろいろ。どれも一理あるけれども、それは「前の選挙で有効だった手」である。そして、たぶん「次の選挙」では使えない。

それは選挙の帰趨を決するのが、「揺れ動く有権者(swing voters)」だからである。アメリカの大統領選挙ではペンシルベニア州、ジョージア州、ノースカロライナ州などの「揺れ動く州(swing states)」七州を制する候補者が大統領選を制すると言われている。swing statesは「接戦州」と訳されるけれど、ことの本質は「接戦」にあるのではなく、「ころころ変わる」点にある。

swing states の投票結果が全体の勝敗を決するということになると、メディアや大統領候補者がここを繰り返し訪れ、有権者の歓心を買おうと必死になり、全世界の耳目がここに集中する。その特権を選挙のたびに享受できるのは、これらの州が共和党にも民主党にも決して安定的に帰属しないで「ころころ変わる」からである。だから、「オレたちも注目されたい」ということで七州に加えてミネソタ、ニューハンプシャー、オハイオなどが近年になってswing states 化している。

日本にはswing states に相当する地域が存在しない。代わりに、選挙のたびに投票行動を変えるswing voters 「ころころ変わる有権者」が存在するというのが私の仮説である。

彼らは「ころころ変わる」ことによって「注目され、『次はどう動くか?』とその関心のありかを知られたがる」という利益を得ている。だから、彼らは石丸伸二に投票し、参政党に投票し、国民民主党に投票し、自民党に投票するというように投票行動を「ころころ変える」。1年3か月前の衆院選で、自民党の比例得票数は1458万票だったが今回は2103万票の645万票増。一方前回「風が吹いた」はずの国民民主党は617万票から557万票に60万票の減。参政党は前回参院選の742万票から426万票に316万票の減。参政党も国民民主党ももう一時の「勢い」がないが、それは彼らの政策や運動のありようが選好されたというより、「ここに投票したら、何かがひっくり返る」という期待感がswing voters たちを惹きつけたからである。

この有権者集団を突き動かしているのは、アメリカのswing states の有権者たちのそれとたぶん同じである。「今の秩序をひっくり返して、みんなを驚かせること」である。

私はこういう有権者集団があまり大きくなることを良いことだとは思わない。もちろん組織票をがちがちに固めた政党がつねに安定的に議席を確保するというだけでは、政治は流動化しない。かといって選挙のたびに上から下まで「総とっかえ」というのでは統治機構の安定性が保てない。その中ほどが民主政の「よい湯加減」である。

日本の有権者は1億350万人。総選挙での投票率は56%、投票者総数は5800万人。そのうちの800~1000万がswing voters である。

この数はだんだん増えつつある。この集団があまり大きくなることを良いことだと思わないのは、この集団が政党の掲げる政策にはあまり(ほとんど)興味を持っていないからである。彼ら自身の生活を脅かすリスクの高い政党にも、それが「今の秩序をひっくり返す」ことが期待できるなら投票する。

高市自民党に投票するということは、インフレ、円安、中国との対立、社会福祉の削減に「同意する」ことである。その結果、彼ら自身の生活が苦しくなったり、勤務先が倒産したり、病気になっても高額療養費の支給が減額されたりしても、それは別に構わないのである。というのは、彼らは自分たちの投票行動と、その帰結の間に相関関係があると思っていないからである。彼らの投票行動は「自分たちの生活を少しでもよいものにする」ためではなく、「秩序が壊乱して、人々がびっくりする」ところを見たいという動機に駆動されている。

気持ちはわかる。でも、「政策なんか気にしない」有権者が国の未来を決める国に未来はない。

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