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農政:日本農業の未来を創る元気なJA

【対談】「光り輝く農業を実現するための戦略を考えよう」  村田興文・シンジェンタ ジャパン株式会社取締役会長―谷口信和・東京農業大学教授2013年1月7日

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・選択肢は本来一つではない
・適地適作で収量をあげ、それを支援する
・加工を含めて農産物をトータルで活かす
・食料生産と定住人口の維持が農業の課題

 日本農業のこれからについて、生産者の高齢化や後継者不足、遊休農地の拡大など閉塞感や苦しさを指摘する声は多い。それでは日本農業に未来はないのか? 多様なニーズに的確に応え、誰もがその実現に参画したいと思う10年後を見据えた明確なビジョンを描き、その実現のために行動すれば、「光り輝く素敵な農業が実現できる」と農業の現場をよく知る村田興文シンジェンタ ジャパン会長はかねてからそう主張している。多くのJAや産地の状況をよく知る谷口信和東京農業大学教授と、現在の日本農業の課題とそれを解決し元気な日本農業を創るためには何が必要かを忌憚なく話し合っていただいた。

的確にニーズを把握し農地を有効活用しよう

変化は待つのではなく自分たちで起こすもの

◆選択肢は本来一つではない

 谷口 日本農業の現状を一言でいうと“苦しい”ということになりますが、なぜ苦しいのかというと、私は規模拡大と低価格化(コストダウン)が課題の分野と、高品質化をとげて販売単価を引き上げていくことが課題になっている分野が峻別されないまま、規模拡大して安くすればいいという議論のみが一方的に追求されているからだと思いますが、いかがですか。
村田興文シンジェンタ ジャパン株式会社取締役会長 村田 水稲、野菜、畑作そして果樹、工芸、花卉それぞれの作物の現在おかれている市場環境は異なりますが共通しているのは、どこかの時点で戦略的な選択肢、ビジネスモデルのオプションを絞り込み過ぎてしまったのではないのだろうかという点です。
 特に水稲をみてみると、質を重視することは重要なことですが、過去に分析してきた将来の需要予測に対して、早い段階でもう一つの選択肢である量の拡大についての十分なオプションの議論がなされず、戦略的な選択肢が国内需要に合わせた品質・食味での競争力の高い米それも産地間競争での自然淘汰ということになってきたのではないかと思います。
 これを農地利用という観点でみると、水も土も豊かで気象条件に恵まれた農地を休耕し荒廃させている国は世界を見渡しても私が知る限りありません。
 この農地を有効に活用するためには、グローバルな視点をもって、国内市場・国外市場の需要そしてニーズを今こそ精緻に見直すべき時だと思います。米に限ってみても国内需要では外食・中食がすでに全コメ需要量の30%を超え、近いうちに40%程度になるでしょう。市場は原材料コストに強く反応しますが、そのニーズに現在の国内価格で対応できるのかというと疑問です。食味をあるレベルまで維持しながら単収を増加することで低価格帯の米も並行して供給することが必要となるでしょう。
 谷口 いまご指摘があった米の単収をあげるということは非常に大事なことですが、ひたすらおいしい米をつくるということで、日本ではほとんど無視されています。本当はたくさん収穫できるうえに美味しい品質のものができなければいけないのに、量の問題はおいといて品質ばかり追求していてるのは、技術の本来のあり方からすると歪みがあると思います。これは輸出などの戦略にかかわってきますね。
 村田 他の国と比較してみれば明瞭です。例えば中国の農業・農産物の戦略は、海外からの輸入を基本的には前提にせずに国内農業での完全自給ということでした。ただその中国ですら経済が活発化し国民の生活レベルがあがることで油糧・食肉需要の増大に国内供給・備蓄が追い付かず、特に大豆は輸入筆頭国ですし、更にはトウモロコシまでも輸入が大幅に増大してきております。政府の対応は変わってきてはいますが、基本的には国内の自給力向上を基本にという政策は変わらないと思います。
 少子高齢化という予測は国内の総食料需要の減少を意味します、また世界人口が現在の70億人から90億人に増大する予測に対し農地面積の増大が今後困難であることも明確になっています。経済購買力を背景とした輸入農産物に頼れる時代ではもうなくなるのです。日本の農業は国内需要を満たすことはもちろんですが、輸出という選択肢がなければ農地活用の最大化はできませんし、農業を活性化することも困難となるでしょう。

◆適地適作で収量をあげ、それを支援する

 谷口 大豆とか麦などの土地利用型作物は日本に向いていないという議論がありますが、麦の単収では米国は300?いきませんが、日本は400?台はいきます。大豆でも同じことがいえます。問題は日本ではどこでも麦・大豆を作りなさいという指導がされ、大豆や麦の栽培適地に誘導していくという適地適作の指導をしていません。
谷口信和東京農業大学教授 そういう指導に切り換えて、収穫量に対して補助金をだせば、たくさん収穫できれば収入が増えますが、いまは面積当たりの補助金になっているので、収穫量には関係がありません。つまり、食用米を作らなければよいという発想から抜けきれていないわけです。
 飼料用米もその発想の延長線上で取り組まれています。主食用米は作ってはいけないが飼料用米なら作れる、そして作りやすいから作るとなると、本来なら飼料用だから多収穫米がいいのに、面倒だとか技術がないとかいうことで主食用品種を飼料用にしているわけです。これでは収量はあがりません。
 村田 適地での栽培ということでは水田転作地、具体的には大豆等の栽培環境管理、土壌水分管理に代表されますが課題は明瞭ですね。
 飼料用米に関しては農林水産省が中心となって研究機関との連携で研究が進んできていますが円安が進みかつ新興国の飼料需要が旺盛になれば輸入量確保のリスクと同時にコスト上昇のリスクが高まることは明確です。飼料用米の積極導入は必須だと思います。

◆加工を含めて農産物をトータルで活かす

 谷口 オレンジが自由化されていますが、私個人の感覚ではそれほどオレンジを食べていませんが、ジュースとしては飲んでいます。つまり日本の果樹は生食志向に極端に偏っていて、保存や高度化のために加工しているというプラス面を活かしきれていないという感じがします。
 村田 日本人の嗜好トレンドが変化期にきているのではと思います。オレンジ果汁などは国外主産地が最盛期の収穫物を冷凍にして輸出に向けますから日本での海外品のコスト競争力があるわけですが、ここにきて、野菜ジュースの需要が増えてきています。そういう変化を敏感に捉え加工食品分野での原材料供給競争の為の戦略が重要になります、同様に外食・中食向け輸入調理用冷凍野菜への生鮮野菜からのシフト、またその調理用商材の海外品比率が高まってきている状況も注視する必要があるのではないでしょうか。
 谷口 国内大手飲料メーカーに聞いたところ、売れているのは野菜中心のジュースで、トマトジュースの原料はほとんど輸入だといいます。トマトの直営農場もありますが、それは生食用です。
 その一方で、建設業など他産業から参入してくる場合、トマトは有力な作物ですが、意外なことにそこではジュースを想定しているケースが少なくなく、かなり高額のジュースが売れるといいます。
 日本の場合は米も含めて生食用が中心で、加工業者や流通業者とタイアップして、作った農産物を全体としてどう使うかを考えることがやや不足していると思います。これには加工品は裾もの、等級外、二級品という発想できたJAの責任もあるといえます。
 村田 最終的に消費者が食す食事がどういうフードチェーンを経るものなのか、外食・中食・テーブル、さらに商品形態は生鮮なのか、冷凍なのか、あるいは一次加工、最終調理加工されたものなのか。それぞれのセグメントニーズをきちんと理解して、それに対する戦略を個別にたてていく必要があると思います。
 農産物のナショナルブランドを持っているJAや企業は、日本全体を産地そして市場ととらえて計画的な生産を生鮮出荷向け加工向けでできるという強みがあります。製品の差別化が欠けているとコモディティー市場のなかでの価格競争のマイナスのスパイラルにはいってしまいます。

◆食料生産と定住人口の維持が農業の課題

 谷口 規模拡大を推し進めてきた水田農業が一番うまくいっていないことが問題ですが、他方では地域によって大規模経営が育ってきています。そうなっているところとなっていないところの格差が大きく、格差が広がっている現実もあります。水田農業についてはどうお考えですか。
 村田 規模拡大は必要だと思います。ただ規模拡大の農地経営が一農業者具体的には家族経営が担うのか、独立農業法人やJAの農業法人事業として捉えるのかによって考え方は変わると思います。
 農地の集積と並行して、その地域の米をテーブルブランド米として位置づけるのか、加工ブランド米として外食・中食を顧客と位置付けるのではマーケッティングの展開は異なると思います。
 新たな国の補助政策が今後の農地のインフラ整備、当然中山間地の農地活用も含め農家の意思決定には大きく影響するものと思われます。
 谷口 私は農業の底上げをすべきだという考えを持っていますが、平坦地で大規模経営ができるところではそれなりにやってもらい、中山間地などできないところはできないなりに、それぞれの条件のなかで精一杯やり、それを支援していくことが大事です。
 実際問題として平坦地では、集落営農や法人経営で150ha、家族農業経営でも15ha位を一つの単位にして、土地利用型農業においてコストダウンを追求する。それ以外のところは施設園芸をはじめとするいろいろな分野を配置し、全体としては雇用吸収力を高める。その中には従来のような単純な加工だけではなくて、やや高度で高品質な加工も入れる。
 究極の農業の課題として、食料生産とともに定住人口の維持という新しい課題をもつ局面に入ったとみています。つまり、原料農産物をつくってお終いというだけでは、労働力を排除しているわけです。そこで排除された労働力を抱え込むような地域的仕組みをどう構築するかが課題です。

◆組合員が実現に参画したいと思う“夢”を

 村田 農業者、組合員の方々が生き生きとしておられるところには必ず地域農業を活性化させる素晴らしいリーダーやビジョンが存在します。
 現場に根差した活動をしているJAの中堅・若手の職員のみなさん達は日々組合員と向き合いながら仕事をしておられます。
 組合員にとっての夢を知るにはこの職員の方々からアイデアがどんどん湧きでてくるような環境とマインドを構築する事が大切なステップだと思います。
 そして実効性のあるビジョンの策定では提案をJAの経営陣が的確に汲み上げ明確なステートメントとして創り上げることができれば、そのビジョンは組合員の夢が反映された組合員自らも職員と一緒に参画をしたくなるようなものとなるでしょう。
 ビジョン構築は企業では最も重要なプロセスです。
 組織の具体的な戦略・方向性を定め、従業員には夢を与える内容でなければなりません、ただ企業で働いているのではなく、こうなりたいという会社の方向性に共感して社員であることに誇りを持ち自分たちのモチベーションが上がるものが本当のビジョンだと思います。
 よく身の丈にあったものなどと言われますが私は逆だと思っています。JAはもっと大きなビジョンをもっていいと思います。
 谷口 企業に比べて、農業に欠けているものはなんですか。
 村田 企業には常に変革が要求されます。安定を求める企業は逆に存続の危機のリスクと直面することになります。
 また企業は自社の作り出す価値を対価に成長をし続けます、逆に価値を市場に提供できなくなった時に企業はその存在理由を失います。
 農業は安定を要求されます。安定した収穫、安定的な市場への農産物の供給です。その対価としての保証や補助があるわけですが結果的に変革から距離をおくことになります。
 冷めて聞こえることはお許しいただきたいのですが、市場に新たな価値を供給する創造的機能を発揮しなくとも存続ができるということです。ただ、日本の今おかれている現状を考えた時に、これまでの価値観を変える必要が求められる転換期にあると思っています。 自ら価値創造を伴う農業ビジネスのモデルを追求し、規模の拡大にともなうリスクを自らとる決意が必要となるわけです。農産物の生産だけではなく、顧客目線でのビジネスモデルと戦略が農業に要求される時代になったともいえるのではないでしょうか。
 谷口 私は根本的な差は、シンジェンタのような企業は技術開発を自ら行っていますし、何のために技術開発するかが明確です。農業の場合は新しい技術はみんな試験場や国の研究機関がつくり、農業者は開発されたものを利用しているだけというケースが圧倒的です。つまり最終的に売るということを前面にたてた考え方で生産しているとは限らないわけです。
 それは食料が足りない時代の考え方、つまり作れば買ってくれるという発想が、まだ残っているということです。
 村田 農業が食料安全保障上、国としての全体最適を目指す中、起業家マインドを持つ農業者やJAは部分最適を探究するという葛藤があります。 今の流れを見ていますとすでにいろいろな農業者や農業法人が独自のマーケティングを展開し始めて成果をあげておられます。
 JAも既存流通のみに依存するだけではなく独自性を前面に出した販売展開をフードチェーンと積極的に取り組もうとしておられます。
 「生き残るのは変わることのできるものであって強いものではない」はダーウィンの言葉ですが、今まさに市場は変化し始めています、どう農業者が、JAが変わっていけるのかが本当のこれからの挑戦ですね。

◆10年後をイメージし実現するシナリオを描く

 谷口 例えば御社ではどの分野が欠けているかについて相当に緻密に分析され、そこでこういう商品を使ってもらおうという目的と手段が明確だと思います。そういう観点から日本農業はどこをめざしどういうニーズに応えるべきなのか…。自分の住んでいる地域での地産地消、国内そして海外へというそのあたりについてはどうですか。
 村田 私どものようなグローバルでアグリビジネスを行っている企業では、5年後、10年後の市場をとりまく状況予測・仮設前提の策定が極めて重要です。
いま必要とされている技術も10年後には必要がなくなるかもしれません。
 自然環境の変化、地球の年間平均温度がわずか0.5度上昇するだけで天候・気象傾向が変わりそれによって生態系が変わります。そのために作物の栽培適性の対応が要求され、環境対応型品種、次世代品種の開発が計画されます。作物の育成を保護する農薬の開発も今後10年の間の病害虫の発生消長変化や薬剤に対する抵抗性や耐性をも想定した化合物の研究開発が必要になります。
 10年後の農業を考える時には世界の農業、食料需給の状況を前提に、光り輝くすてきな日本の農業がどういうものなのか、そのイメージを出来るだけ具体的に描き出し、そこから現在を見ることでギャップがどこにあるのかが分かります、そのギャップを埋めるために何が必要か、そういった戦略的思考が今求められていると思います。
 谷口 地産地消、国内、海外というマーケットを考えた場合、地産地消が重要な方向であり世界的にも注目されています。そのときに、在来型品種が見直されなければいけませんが、一方で、他国で作っている最先端の野菜を食べてみたいという需要もあると思います。そうなると農薬の開発戦略も変わってくると思いますが、いかがですか。
 村田 核心に迫るご質問ですね。 具体的には作物ごとに3つから4つのシナリオを持っています。そのシナリオのなかでいまある製品群、パイプラインにある製品群の優先順位をどうきめるかはそのシナリオの確実性の高さから決まっていきます。
 谷口 そのシナリオというのは…
 村田 なんどか水稲に関して言及させていただきましたが、将来の多収米栽培のニーズはローコスト資材そして技術です、いまのような高付加価値をつけた製剤技術をもった資材ではなくもっとも単純で、極端ないい方をすれば収穫に影響のない雑草はある程度でてもいい。そして直播に必要とされる栽培品種は、そして技術は…となります。
 逆に高品質なものについては、さらなる技術開発で栽培品種は夏季の高温耐性を持つ品種に変化していくでしょう。病害虫の発生傾向も変化していきます。米の品質を維持するための最適な防除も変わる、というようなオプションシナリオが存在します。園芸・野菜・果樹でも畑作でも同じように天候気象条件が変化することで栽培適地が移動することもシナリオでは重要なポイントとなります。

◆輸出こそ積極的に取組むべき戦略

 谷口 農産物の輸出についても可能性は高いといえますか。
 村田 極めて高いと思います。
 すでに政府も積極的な展開を開始しておられますが輸出は日本がもっと精力を傾け具体的に取り組むべきものだと考えています。
 どうしても中央主義に偏りますが、今後農産物の輸出は何も東京や大阪から行う必要はないと思います。
 プロセスとしては地域から直接またはハブ経由で海外へ輸出するロジスティックスの構築と並行して加工技術や鮮度保持技術とそれに適合した作物そして品種の選択が検討するべき課題となるでしょう。海外市場を目指すには国別消費者ニーズごとのセグメンテーションを行うことが必要です。そして選定したセグメントに需要を顕在化させるプログラムを集中的に投入することが出来れば前に進むことが容易になるでしょう。成功のためには自分たちで完結しようとせずに、連携するべき産業・業界・団体・官公庁との関係構築をすることが重要だと思います。
 谷口 合理的なことを選択していこうということですね。シンプルで分かりやすい、実際に品目とニーズにきめ細かく対応するということですね。
 村田 輸出先向けの仕様のものを計画的に栽培すべきであって、余剰農産物があれば加工や輸出に回すという考えでは成功は望めません。さらに必要なことは非関税障壁の打開を行政の支援主導でより積極的に進めていただく事だと思います。交渉ポイントは植物防疫、また特にインポートトレランスの設定が主となりますがこれは各国別の食生活の作物摂取量から逆算される使用農薬の残留基準値の設定が異なることからくる障壁や日本国内では一般的に使用されている農薬でも輸出相手国で使用されていない場合も多くこのプロセスを避けて通ることはできません。ただ十分な情報収集と分析がされれば対応策の準備は可能です。
 果樹・工芸作物や一部野菜のように付加価値をつけた日本の品質で輸出販売のできる作物群とそうでない作物群とは選択するべき戦略が異なることはすでにもうしあげました。
 米の場合には、高品質で付加価値を受け入れる国・マーケットではニッチブランド市場を創造・構築すること。
 さらに中国やアジア主要都市で量的潜在需要があるがコストを下げることが必要な市場セグメントではすでに申し上げましたが多収化により価格競争力をつけ、将来的には日本国内市場の外食・中食産業でのニーズと需要を満たすという二つの目的が達成できると思います。
 谷口 ドイツは白ワインやソーセージ・ライ麦パンをセットで輸出していて、単品の食品ではなくドイツの食文化を輸出しています。日本まだ単品輸出に止まっていますから、これからは一皮も二皮もむけた戦略性が求められてくると思います。
 村田 おっしゃる通りですね。日本も農林水産省、経済産業省、ジェトロが中心となって日本食文化を輸出する戦略を文化遺産としての日本食文化の登録やさらに需要創造の活動を積極的に展開していただいておりますね。

◆アグリ業界や研究機関が情報を共有し連携すること

 村田 EU・米国のスーパーに日本産の農産物を棚に並べて売る為には第三者国際認証であるグローバルGAPを取得することが必要条件です。今回、日本の米で初めてJA北魚沼がグローバルGAPの認証を取得しましたが、素晴らしいことです。
 さらに欧米に先行されましたがフードクラスターのように学術、研究開発組織と加工食品業界に代表される企業体そして農業者との新たな製品開発そして需要創造での連携が日本でも始まっています。
 谷口 そうなれば後継者も増えてくる…
 村田 農業自体が変化するなかで、JAそしていろいろなビジネスモデルからなる農業法人や新規事業で働く人たちが増えていく可能性は現実的なものだと思います。
 谷口 かつて農業は3Kといわれましたが、いまはそういう感覚は薄れたと思います。しかし、志を続けさせるほどの収入がないので、次の世代に農業をつないでいくことは困難ですね。
 村田 利益を生むビジネスモデルの成功事例があらゆる作物群や地域で増えれば確実に次世代への継承がおきるのではないでしょうか。
 ここで忘れていただきたくないのはビジネス環境の整備や行政による支援の仕組みは重要ですが、需要を満たす単収増大、作物保護、品質維持さらには新たな需要創造や変化を生んできたものは、技術革新だということです。
 将来の需要や嗜好に合わせた作物の開発や品種改良が必要ですし、作物を保護する農薬の開発、より効率的に作業を進める環境技術・農業機械技術、おそらくIT技術も入るでしょうね。
 谷口 そういう意味ではますます知識を得て、適用して開発し発展させていく人材が必要ですし、大学や研究機関も協力しいくことが大事ですね。
 村田 おっしゃる通りです。「人材の育成は現場から」といわれます。農業者・農業法人そしてJAがより主体的に農業・食料ビジネスを展開できるように、研究機関そしてアグリ業界全体が連携しクラスターとして、情報を知恵にそして成果に結び付けることが大事だと思います。

◆どういう需要を作り上げていくのか徹底した議論を

 谷口 最後に原発事故による放射能問題もあって苦労しているJAと生産者にメッセージをお願いします。
 村田 日本はすでに放射線量について相当に厳しい基準値を定めています。その基準を満たした農産物のみが市場に出荷されているという情報を行政各機関が積極的に海外市場にPRし交渉を重ねてきた成果だと思われますが、海外での風評被害の消え方は国内より早いというのが私の印象です。
今後さらに日本の農業者が努力をして農産物を作っている姿を国内そしてグローバルに知らしめる継続的広報活動が必要だと思います。
 自分たちのJAが10年後に、組合員からも、フードチェーン顧客からもそして消費者からも。信頼できるJAそして農業者だといわれる為のビジョンを創造され、実効性のある戦略を構築し、着実に成功に向け一歩一歩歩んで行かれることを切に望んでやみません。
 谷口 ありがとうございました。

 

対談を終えて
 単なる野球人の域を超え、哲学者の境地に達しているイチロー選手の言葉にはいつも驚かされる。“ヤンキースは自分の野球選手としてのキャパシティの大きさを評価したのではない。いかに努力しているかを知っているから受け入れたのだ。”
 村田さんとの対談はこれが二度目だが、いつも新鮮な言葉に驚かされる。“企業には常に変革が要求される。だから、安定を求める企業は逆に存続の危機のリスクに直面する。”
 何よりも現場の事情に精通しているから、現場目線でグローバルな話しができる。ここが単なる「財界人」の域を超えたところだ。だから、変化期にさしかかっている日本人の嗜好トレンドにきめ細かく対応したセグメントニーズを大切にすることと、農産物輸出の意義を強調することが無理なくつながっている。
 放射能汚染に関わる風評被害の消え方は国内より海外での方が早いという印象だとの指摘は日本のマスコミ報道のあり方に一石を投じた慧眼であろう。
谷口信和

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