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農政:自給率38% どうするのか?この国のかたち -食料安全保障と農業協同組合の役割

提言・食料難の経験 きちんと伝える【鈴木 宣弘・東京大学教授】2018年7月20日

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JAは国民理解へ行動を

 自給率の向上と食料安全保障の確立を強調すると日本では農業保護論だと的外れな批判をする向きもあるが、実際、欧米諸国は農業保護を国家安全保障の要として位置づけている。国民にその重要性への理解をどう広めるべきかも含め、鈴木宣弘東大教授に提言してもらった。

◆欧米の手厚い農業保護 補助金100%の国も

鈴木 宣弘 東京大学教授

 国民の命を守り、国土を守るには、どんなときにも安全・安心な食料を安定的に国民に供給できること、それを支える自国の農林水産業が持続できることが不可欠であり、まさに、「農は国の本なり」、国家安全保障の要(かなめ)である。そのために、国民全体で農林水産業を支え、食料自給率を高く維持するのは、世界の常識である。食料自給は独立国家の最低条件である。
 例えば、米国では、食料は「武器」と認識されている。米国は多い年には穀物3品目だけで1兆円に及ぶ実質的輸出補助金を使って輸出振興しているが、食料自給率100%は当たり前、いかにそれ以上増産して、日本人を筆頭に世界の人々の「胃袋をつかんで」牛耳るか、そのための戦略的支援にお金をふんだんにかけても、軍事的武器より安上がりだ、まさに「食料を握ることが日本を支配する安上がりな手段」だという認識である。
 欧州では幾度の戦争を経て国境防衛と食料難とに苦労した経験から、農林水産業で国土と食料を守るという国土と食料の安全保障の視点が当たり前だが、日本はそうなっていない。カロリーベースで日本の食料自給率は4割弱だが、低いとされる英国でも6割以上ある。農家の農業所得に占める国の補助金の割合は16年の統計で日本が30%。13年のスイス(100%)、ドイツ(70%)、英国(91%)、フランス(95%)に比べても、食料安全保障のために国が責任を持つ視点が欠落しているのがわかる。


◆食料危機の記述 教科書から消える

 のように食料・農林水産業を守る政策に大きな差が生じる背景として、欧米のほうが日本よりも農業・農村に理解や共感が深いとの指摘があり、それはなぜか、との疑問もよく寄せられる。教科書で食料・農業・農村の重要性を説明する記述の分量が大幅に違うとの指摘もあるが、具体的には十分に検証されてこなかった。
 食料・農業・農村の重要性といってもいろいろある。その中で、欧州の教科書の日本との決定的に重要な違いは「食料難の経験」の記述である。「食料安全保障の重要性は、大きな食料危機がこないと日本人にはわからない」というのは間違いなのである。日本も戦争などで食料難を経験している。
 なぜ、日本人はそれを忘れ、欧州は忘れないか。それはもう一度大きな食料危機が来ていないからでなく、欧州では、食料難の経験をしっかりと歴史教科書で教えているから認識が風化せずに人々の脳裏に連綿と刻み続けられているのである。
 例えば、薄井寛『歴史教科書の日米欧比較』(筑波書房、2017)は英独の歴史教科書が「イギリスの海上封鎖によって、ドイツでは重要資源の海洋からの輸入が止まり、食料も例外ではなくなった。......キップ制度による配給が1915年1月から始まったが、キップはあっても買えないことがしばしば起こる。こうしたなか、それまでは家畜の餌であったカブラが、パン用粉の増量材やジャガイモのかわりとして、貴重な食料となった。多くの人びとが深刻な飢えに苦しんだ。特に、貧しい人びとや病人、高齢者などは、乏しい配給の他に食料を得ることができない。このため、1914~18年、栄養失調による死亡者は70万人を超えた」(『発見と理解』)など、多くの紙幅を食料難の記述に費やしていることを紹介している。

農業所得に占める補助金の割合


◆食料難の歴史引き継ぎ JAも情報取集強化を

 一方、戦中・戦後の食料難が日本の高校歴史教科書に登場するのは、1950年代初めからで、90年代なかばまでの歴史教科書は、食料難に関する記述をほぼ改訂ごとに増やしていたが、2014年度使用の高校歴史教科書『日本史B』19点を見ると、「食料生産は労働力不足のためいよいよ減少し、生きるための最低の栄養も下まわるようになった」といった形で、多くの教科書がこうした簡潔な記述で済まし、戦後の食料難を4~5行の文章に記述する教科書は7点あるが、他の12点は1~3行、あるいは脚注で触れているのみである。人々の窮乏を思い起こさせる写真も減少している、と薄井氏が指摘する。
 戦後の日本は、ある時点から権力者に不都合な過去を消し始めた。過去の過ちを繰り返さないためには過去を直視しなくてはならない。過ちの歴史をもみ消しては未来はない。筆者の指摘にfacebookを通じて下記のコメントが寄せられた。
 「農村では権力的にコメが収奪され、農家である我が家でも私の一番上の姉は、5歳で栄養失調で亡くなりました。...... 4歳?の私も弟も栄養失調でした。母が「カタツムリを採っておいで」とザルを渡してくれました。カタツムリを食べる習慣のない当時、グルメやゲテモノ食いとしてではなく、生き残るためとして母はそう言ったのです。 ......弟と河原で数十個採ってきました。母はそれを煮つけてくれました。全身に染み渡ってくれたあの味は、今でも忘れません。1950年ころのことです。」
 こうした重い過去を若い世代に引き継ぐための情報収集と普及活動をJA組織としても大々的に強化して展開すべきである。


◆食の外国依存とは命を握られること

 欧州は「予防原則」(疑わしきは規制する)に基づき、食の安全に関する情報を国民に共有し、米国に何を言われても、遺伝子組み換えや成長ホルモン入りの米国などからの輸入農畜産物を排除している。日本は米国の「科学主義」(死人が出ていても因果関係が完全に特定できていないなら規制してはいけない)の圧力に抗せず、国民への情報提供にも慎重になり過ぎてしまっている。
 輸入農産物は、成長ホルモン(エストロゲン)、成長促進剤(ラクトパミン)、遺伝子組み換え、除草剤(グリホサート=ラウンドアップ)の残留、収穫後農薬(防カビ剤のイマザリルなど)などのリスクがある。このような健康リスク(病気が増え、命が縮む)を勘案すれば、実は、「表面的には安く見える海外産のほうが、総合的には、国産食品より高い」ことを認識すべきである。
 確かに貿易自由化によって関税が下がれば、さらに安い農水産物が入ってくるから、例えば牛丼や豚丼は安くなる。しかし、各国からの輸入農水産物の検疫違反事例を調べてみてぞっとするのは、O157をはじめ様々に汚染された食品が山のように検疫で摘発されているが、水際での検査率はわずか7%だから、大半は検疫をすり抜けている。
 日本の消費者が安さを求めるから輸入業者が現地に徹底した低価格での納入を無理強いする。現地は安全性のコストを切り詰めてしまう。気付いたら安全性のコストを極限まで切り詰めた輸入農水産物に一層依存して国民の健康が蝕まれていく。 すでに、牛肉・豚肉の自給率も5割を切っている。さらに、安い牛丼・豚丼をありがたいと言っているうちに、健康を害して、やはり、安全な国産が食べたいと思ったときには自給率が1割になっていたら、選ぶことさえできないことを今気づかないといけない瀬戸際まで来ている。


◆身内の結束固めより国民の「うねり」を

 筆者が講演で食の安全性の危機を含めて「地域の住民の命と生活を守っているのは農家でありJAである」との話を農家中心のセミナーですると、会場から、この話を聞いてもらうべきは地域住民、消費者であり、そのための機会を増やす必要があるとの指摘が多くある。
 一般の消費者を集めたセミナーを企画しても資金力の不足のために開催できないことも多い。JAに相談しても、職務の範囲外とのことで協力が得られないことが多いという。
 本来、生産者サイドこそが、こうした消費者側の企画を裏面から支援して、できるかぎり多くの機会を創出すべきである。JA組織が直接関与しにくいとしても、消費者との情報共有促進のための基金を造成するなどの工夫をして、地域住民セミナーを徹底的に増やすことが、実はJA自己改革の大きな鍵になると思われる。
 「食を外国に握られることは国民の命を握られ、国の独立を失うことである」ことを常に念頭に置いて、安全保障確立戦略の中心を担う恒久的な農林水産業政策を、政党の垣根を超え、省庁の垣根を超えた国家戦略予算として再構築するためにも、この機運を押し上げるための国民の声を生産者サイドがもっと動いて大きな「うねり」にしなくてはならない。

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