農政:自給率38% どうするのか?この国のかたち -食料安全保障と農業協同組合の役割
飽食追求のいまだからこそ必要な飢餓の歴史教育(1)【薄井 寛(元JC総研理事長)】2018年10月4日
「食料自給率38% どうするこの国のかたち…」では歴史的な教訓にどう学び、今日に生かすのかを追求しているが、今回は世界の歴史教科書に詳しい薄井寛元JC総研理事長に、ドイツなどヨーロッパと日本の歴史教科書で「飢餓の歴史」がどう記述されているのを比較していただいた。薄井氏は飢餓の時代を風化させようとする日本で「飢餓の歴史教育こそ食育の大事な要素」だと強調する。
「クリスマスのこの日、私は国民の皆さんに何も贈ることができない。ツリーを飾るための一本のローソクも、一片のパンも、部屋を暖めるための一塊の石炭も、それに(空襲で)壊わされた窓を直すための一枚のガラスも、贈ることができない。私たちには今、何もない。私ができることは、皆さんがこのオーストリアという国を信じてくれるよう願うだけだ」。1945年12月、オーストリアのフィグル首相が国民向けに行った演説の冒頭だ。深刻な飢餓に直面した同国の戦後史。高校の歴史教科書は首相の悲痛なメッセージから始まっている。
◆飢餓の歴史を忘れないヨーロッパ諸国
2008年から毎年5月、アイルランドでは全国の小中学生が、170年近くも前に起こったジャガイモ飢饉の100万人にも及ぶ犠牲者を悼み、一分間の黙祷をささげる。「大飢饉のすべての犠牲者に対し尊敬と追憶の気持ちを示し、また、今日の世界中の飢餓問題に改めて認識を深める」。国家的な行事に対する同国政府の考え方だ。
ドイツの歴史教科書には「飢餓の冬」が二度登場する。第一次大戦敗北前の食料危機と第二次大戦後の食料難だ。飼料用のカブラ(かぶはぼたん)が主食のかわりとなった最初の「飢餓の冬」は、「カブラの冬」と今に伝わる。高校の歴史教科書『発見と理解』はこう解説する。「(イギリスの海上封鎖で食料の輸入が途絶し)、それまでは家畜の餌であったカブラが、パン用粉の増量材やジャガイモのかわりとして、貴重な食料となった。多くの人びとが深刻な飢えに苦しんだ。特に貧しい人びとや病人、高齢者などは、乏しい配給の他に食料を得ることができない。このため、1914~18年、栄養失調による死亡者は70万人を超えた」。
二度目の「飢餓の冬」について、別の高校歴史教科書はこう解説する。「一般の消費者は薄切りのパン2枚と少量のマーガリン、一杯の牛乳入りスープ、それにジャガイモ2個で一日の食事としなければならなかった。(中略)占領軍による食料と石炭の援助がなかったなら、事態は劇的に悪化していたにちがいない。(中略)米国やカナダの市民からも食料などの救援物資が西ドイツ側へ送られてきた。その数は950万箱を突破し、現在の価格にして1億7700万ユーロに達するほどであった」。
2世代あるいは3世代を遡る家族たちが実体験した過酷な飢餓を、自分たちの今の世代で風化させてはならない。その体験を歴史の教科書を通じて若い世代へ語り継いでいく。ヨーロッパの国々では今でも、そのことの価値を多くの人びとが共有しているように思える。
重要な記事
最新の記事
-
「良き仲間」恵まれ感謝 「苦楽共に」経験が肥やし 元島根県農協中央会会長 萬代宣雄氏(2)【プレミアムトーク・人生一路】2025年4月30日
-
【農業倉庫保管管理強化月間特集】現地レポート:福島県JA夢みなみ岩瀬倉庫 主食用米確かな品質前面に(1)2025年4月30日
-
【農業倉庫保管管理強化月間特集】現地レポート:福島県JA夢みなみ岩瀬倉庫 主食用米確かな品質前面に(2)2025年4月30日
-
アメリカ・バースト【小松泰信・地方の眼力】2025年4月30日
-
【人事異動】農水省(5月1日付)2025年4月30日
-
コメ卸は備蓄米で儲け過ぎなのか?【熊野孝文・米マーケット情報】2025年4月30日
-
米価格 5kg4220円 前週比プラス0.1%2025年4月30日
-
【農業倉庫保管管理強化月間にあたり】カビ防止対策徹底を 農業倉庫基金理事長 栗原竜也氏2025年4月30日
-
米の「民間輸入」急増 25年は6万トン超か 輸入依存には危うさ2025年4月30日
-
【JA人事】JAクレイン(山梨県)新組合長に藤波聡氏2025年4月30日
-
【'25新組合長に聞く】JA新潟市(新潟) 長谷川富明氏(4/19就任) 生産者も消費者も納得できる米価に2025年4月30日
-
備蓄米 第3回は10万t放出 落札率99%2025年4月30日
-
「美杉清流米」の田植え体験で生産者と消費者をつなぐ JA全農みえ2025年4月30日
-
東北電力とトランジション・ローンの契約締結 農林中金2025年4月30日
-
大阪万博「ウガンダ」パビリオンでバイオスティミュラント資材「スキーポン」紹介 米カリフォルニアで大規模実証試験も開始 アクプランタ2025年4月30日
-
農地マップやほ場管理に最適な後付け農機専用高機能ガイダンスシステムを販売 FAG2025年4月30日
-
鳥インフル 米デラウェア州など3州からの生きた家きん、家きん肉等 輸入停止措置を解除 農水省2025年4月30日
-
埼玉県幸手市で紙マルチ田植機の実演研修会 有機米栽培で地産ブランド強化へ 三菱マヒンドラ農機2025年4月30日
-
国内生産拠点で購入する電力 実質再生可能エネルギー由来に100%切り替え 森永乳業2025年4月30日
-
外食需要は堅調も、物価高騰で消費の選別進む 外食産業市場動向調査3月度 日本フードサービス協会2025年4月30日