農薬:防除学習帖
IPM防除(1)【防除学習帖】第102回2021年5月25日
防除学習帖では、前回までに作物全般の基礎的な防除技術を解説し、防除とは何かの概略を紹介した。作物についても、水稲から野菜、果樹と、ひと通り紹介したので、今回からは、作物別ではなく、実際の防除技術を取り上げ、現場での実務レベルにまで掘り下げて解説していきたい。
その第1弾はIPM防除である。その具体的な技術内容は既に水稲、野菜等の項でそれぞれ紹介したので、どのような技術であるかはご承知いただいていると思う。ただ、最近話題の「みどりの食料システム戦略」が令和3年5月12日に確定し、その中でIPM防除が重要な革新的技術として取り上げられた。このことを受け、今一度、現在普及しているIPM技術を一つ一つ掘り下げ、現場で導入する際の参考となるように紹介していきたい。
1.IPMとは
IPM(Integrated Pest Management)とは、総合的病害虫・雑草管理と訳される技術で、生態系や環境に配慮しながら、利用し得る様々な防除技術を駆使し、組み合わせて行われる防除である。このIPMは、大きく分けて4つの防除戦略(生物的防除、物理的防除、化学的防除、耕種的防除)で構成されており、これらをフル活用して防除を組み立てることになる。その4つの防除戦略の具体的な内容は次のとおりである。

IPMが栽培を行う上での、病害虫雑草(Pest)の管理手法であるのに対し、その一つ上の概念には、作物(Crop)を管理するICM(Integrated Crop Management・総合的作物管理)があり、さらにその上の概念には、生物多様性/生態系(Biodiversity/Ecosystem)を管理するIBM/IEM(Integrated Biodiversity/Ecosystem Management・総合的生物多様性/生態系管理)がある。つまり、IBM/IEMの中にICMがあり、ICMの中にIPMがあることになる。このことから、IPMは、生物多様性や生態系への影響を配慮しつつ、作物栽培を管理するためにある病害虫雑草管理手法といえる。
2.発生予察との関係
IPMを組み立てるにあたっては、病害虫雑草の発生状況に応じて、最適な組み合わせを選んで組み立てる必要がある。例えば、病害であれば、できるだけ発生前に予防的に防除する方が効果も高く安定する。つまり、病害が発生する直前(作物が感染源に接触する直前)に薬剤を散布して作物表面に十分に付着させ、薬剤のバリアを作ることが最も効率よく防除できる。その時にどうしても必要になるのが、病害の発生する時期を知ることである。では、どうやって知ればいいのか? その答えの1つが発生予察情報の活用である。
発生予察情報は、地方における植物の検疫及び防除に資するため都道府県が設置する病害虫防除所(植物防疫法)が行う発生予察事業によって実施される。
発生予察情報は、JAなど指導機関からの指導の他、農林水産省や各都道府県のホームページに掲載されるので、定期的にチェックするようにすると良い。
その発出される情報の種類と内容は次のとおりである。

これらの発生予察情報は、例えば病害の場合であれば、温度や湿度、降雨日数などから病原菌が発病するのに適した日(感染好適日)や、糸状菌であれば胞子が飛散するのに適した日の出現回数などから、感染リスクの高まりを調べたり、定点調査によって病害の発生状況を把握したりして、病害の発生の可能性を予測し、「注意報」が発出される。
あちこちで発生が多くなり、気象状況も蔓延を助長する気候が続くと予想される場合には「警報」が発出され、緊急防除の実施が促される。
害虫についても、害虫の生態に合わせて発生が多くなる気象条件の出現数や定点観測で捕獲状況などを加味しながら各種情報が発出されている。
つまり、何等かの発生予察情報が出された場合は、「病害虫雑草の発生リスク」が高まっていると考えてよく、速やかに対応した方が良い。なぜなら、発生前の予防防除が一番効果の安定する方法なので、発生する可能性のある病害虫雑草については、きちんと対処しておくことが、被害を回避するための第一歩だからである。
ただし、この発生予察情報は万能ではなく、注意報や警報が出ても、病害虫雑草の発生がそのとおりにならないこともある。これは、注意報や警報を発出したあとに気象など変化があり、病害虫雑草の発生好適条件が無くなってしまうことが主な原因である。
煙がないところに火は起こらないというが、病害虫雑草も同じで、注意報や警報が出るということは、確実に発生源が存在することを示している。なので、注意報や警報が出たら、外れてくれたらありがたいが保険をかけるような気持ちで、確実に防除を実施することをお勧めする。
化学的防除以外の防除手法は、発生が確実視されてからでは間に合わない方法も多いので、毎年発生している病害虫雑草については、今年も出るぞという気持ちで、確実に防除対策を実施するようにしてほしい。
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