農薬:防除学習帖
IPM防除(2)【防除学習帖】第103回2021年5月28日
防除学習帖では、前回から実際の防除技術を取り上げ、現場で有効活用するための留意点を紹介している。その第1弾として、令和3年5月12日に確定した「みどりの食料システム戦略」で、重要な革新的技術として取り上げられたIPM技術について紹介しており、前回はIPMの定義、発生予察との関係について紹介した。
今回から具体的なIPM防除技術について掘り下げていきたい。
1.生物的防除
IPMで使用される防除の1つ目が生物的防除である。
生物的防除とは、文字通り微生物などの生物を利用して病害虫を防除するものである。
現在農薬登録されている生物農薬が効果を発揮するメカニズムは、次のようなものである。
(1)病原菌の生活圏を奪う(養分、生息場所の競合)
(2)病原菌に取り付いて生育の邪魔をする
(3)害虫に取り付いて病気にしてしまう(害虫から養分を吸収し死滅させる)
(4)害虫を食べてしまうこと(天敵による捕食)
(5)害虫のおなかを壊して食べられなくして餓死させる
(6)交尾に必要なフェロモンの働きを攪乱させて交尾できなくなる(幼虫が生まれず幼虫による被害がおきない)
(7)害虫のメスの匂いに誘われてオスが捕殺される(誘因捕殺)
このように、生物農薬は、生物が持つ生き残るための戦略を活用して防除に役立てている。
このため、生物農薬の効果を高めるためには、それらが活動しやすい環境を整えてやる必要があり、一般の化学農薬と同じ使い方をすると十分な効果が得られないことが多い。
このことをよく理解した上で、使用上の注意をよく読み、それに従って正しく使う必要がある。
2.病害防除に使用される生物農薬
生物農薬の有効成分である微生物には、細菌、糸状菌、弱毒ウイルス、在来天敵昆虫といったものがあり、それらが病害の原因となる病原菌に対し、養分の競合、生育場所の競合、捕食・捕殺といった作用によって防除効果を発揮する。どのような農薬があるかは、次表に示したので参考にしていただくとして、以下、種類ごとに概要を紹介する。
(1)細菌が成分のもの
有効成分となる細菌は、バチルス、ラクトバチルス、非病原性エルビニア、バリオボラックス、シュードモナス、アグロバクテリウムといった菌が使われている。
これらは、主として病原菌との競合によって防除効果を発揮する。いずれも、病原菌よりも先に作物に定着し、増殖する必要があるため、病害が発生する前の予防散布か発生はじめの病原菌がごく少ない時期までに使用する必要がある。製品のラベルをよく確認し、使用に適した条件(温度など)をよく守って使用するようにする。
また、同じ菌種であっても、類縁の菌であったり、個性があったりして、製品ごとに効果を示す病害が異なっているので、何に聞くかはラベルをよく確認してほしい。
例えば、バチルス菌には、バチルスズブチリスが一番多いが、その他にはバチルスアミロリクエファシエンス、バチルスシンプレクスといった菌があり、得意とする病害が異なっている。
(2)糸状菌が成分のもの
有効成分となる糸状菌には、トリコデルマ、タラロマイセス、コニオチリウムといったものがある。いずれも、作物には病原性がなく無害で、病原菌にのみ作用し、それぞれで防除できる病害が異なる。
細菌と同様に病原菌よりも先に作物体に定着することで防除効果が高くなるので、農薬ラベルに記載の注意事項をよく守り正しく使用すること。
(3)弱毒ウイルス
人間でいう免疫療法と同じ仕組みである。病害の原因ウイルスに感染する前に、作物に弱毒ウイルス(作物に感染はするが病徴は出ないかごく軽傷で済む)を人工的に感染させ、あらかじめ病原ウイルスに対する免疫を獲得させることで病害を防ぐ。
(4)在来天敵昆虫
「タデ食う虫も好き好き」というが、在来の昆虫にうどんこ病を好んで食べるキイロテントウという虫がいる。うどんこ病は他の病原菌と異なり、主に作物の表面で菌糸を伸ばして生育するため、外部から直接触れることができる。このためかどうかは定かではないが、キイロテントウは、うどんこ病が発生しているナシなどの葉に飛来し、うどんこ病を食べてくれる。
ただし、実際にうどんこ病の防除に活用するためには、ある程度のキイロテントウの個体数が必要なところが難点だ。なぜなら、キイロテントウの必要数を得るためには大量に飼育することが必要で、そのためには、うどんこ病菌が大量に必要なのだが、餌となるうどんこ病は、完全寄生菌であるため生きた植物でのみ生育し、人工培地などで増殖ができず、餌となるほど増やすことが難しいからである。
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