農薬:防除学習帖
有機防除暦1【防除学習帖】第126回2021年11月19日
みどりの食料システム戦略では、有機農業の普及拡大や化学合成農薬のリスク換算値で50%削減が目標として示されている。これらの目標が現実的かどうかは別問題として、防除学習帖では、前回同様にホウレンソウを題材に有機JAS栽培規格で示されている有機栽培に使用できる資材を活用した防除暦の作成を考えてみたい。
1.圃場の準備
一般栽培と同様に有機栽培でもほ場の準備が重要である。ホウレンソウの場合、畝=播種床になるので、土づくりを含め、ほ場の準備は丁寧に行いたい。以下、作業ごとに有機栽培防除法を紹介する。
(1)除草作業
ホンレンソウは、栽培期間が短いとはいえ、やはり雑草があると養分の収奪や微小害虫の住処になったりして、収量や品質に悪影響があるので、できるだけ綺麗に除草した上で播種したいものである。しかしながら、有機栽培では除草剤が使用できないのでほ場準備段階での除草は、耕うんなどの物理的防除に限られる。作型にもよるが、厳冬期に作付けしない時期があるのであれば、その時期に荒起こし(耕転)して、地中にある雑草種子等を寒さに当てると密度を減らすことができる。
(2)土壌消毒
ホウレンソウには、萎凋病やホウレンソウカナガコナダニなど土壌に由来する病害虫が発生する。有機農業では使える防除資材が少ないため、これらの土壌病害虫は、は種前にできるだけきれいにしておきたい。有機栽培で使用できる土壌消毒法は、太陽熱消毒や土壌還元消毒の他、熱を使う熱水消毒や蒸気消毒がある。これらの方法は、一年生雑草を対象とした除草効果もあるので、雑草密度が多い場合などに適宜土壌消毒を実施するとよい。
ただし、太陽熱消毒は日照が少ない地域では十分な消毒効果を得ることができない場合があるので注意が必要だ。
1) 太陽熱消毒
十分な水分を入れ、ビニールなどで被覆した土壌に太陽の熱をしっかりとあて、被覆内の温度を上昇させて蒸し焼き状態にすることで、中にいる土壌病害虫を死滅させる方法である。
連作障害を起こすたいがいの病害虫は、およそ60℃の温度で死滅してしまうため、原因病害虫の潜む土壌深度までこの温度に到達させることができるかどうかで成否が分かれる。太陽光でこの温度まで上昇させるためには、施設を密閉して十分な太陽光を当てる必要があり、夏場にカンカン照りになる西南暖地などの施設栽培向きの消毒法といえる。夏場でも日射量が少ない地域では、地中温度を60℃に到達させることができない場合もあるので、そのような地域には、次の土壌還元消毒法の方が向いていることが多い。
2)土壌還元消毒法
この方法は、フスマや米ぬか、あるいはアルコールなど、分解されやすい有機物を土壌に混入した上で、土壌を水で満たし(じゃぶじゃぶのプール状)、太陽熱による加熱を行うものである。これにより、土壌に混入された有機物をエサにして土壌中にいる微生物が活発に増殖することで土壌の酸素を消費して還元状態にし、病原菌を窒息させて死滅させることができる。この他、有機物から出る有機酸も病原菌に影響しているようだ。このため、有機物を入れない太陽熱消毒よりも低温で効果を示すので、北日本など日照の少ない地域でも利用が可能な方法である。還元作用により悪臭(どぶ臭)が発生するが、この臭いがするまで十分な期間をおく必要があるので、近隣に住居があるような圃場では臭いの発生に注意が必要である。
また、有機JAS規格では、ふすまなどの有機物資材も有機JAS規格によって生産されたものでなければならないので、使用するふすまの生産過程をよく確認しておく必要がある。
(3)蒸気・熱水消毒
文字通り、土壌に蒸気や熱水を注入し、土壌中の温度を上昇させて消毒する方法である。病害虫を死滅させる原理は太陽熱と同じで、いかに土壌内部温度を60℃にまで上昇させるかが鍵である。この方法を実施するには、お湯や蒸気を発生させるためのボイラーや土壌に均一に注入するための設備や装置が必須である。このため、導入のための設備投資と大量に消費する燃料のコストを考慮する必要があるので、個人での導入というより、地域一体となった共同利用といった大掛かりな取り組み向けの技術といえるだろう。一方、この熱水・蒸気を使用する方法はお湯を沸かすために重油等を燃料にして燃焼させることから大量にCO2を発生することになるため、地球温暖化防止・脱炭素の観点からはこの方法は使いづらい。また、近年の燃油高騰の際には、燃料代が経営を圧迫するため、コストと効果を考慮するとホウレンソウ栽培では採用しづらい方法である。
次回は、播種時~生育期の有機栽培における防除法を検討する。
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