農薬:防除学習帖
トマトの防除暦11【防除学習帖】第145回2022年4月8日
現在、本稿ではトマトを題材に防除暦の作成に取り組んでいる。病害虫雑草は、地域やほ場単位で発生する種類、程度、時期等が異なっていることを考慮し、できるだけ共通する病害虫や問題病害虫を、栽培開始から発生する順に取り上げながら、活用できる防除法や利用する場合の留意点を紹介している。
今回から、定植以降発生する病害虫の防除についてひも解いていており、今回は、トマト疫病を紹介する。
1.病原と生態
トマト疫病は、「Phytophthora infestans」というべん毛菌類に属する糸状菌(かび)であり、低温(18~20℃)を好み、多湿な環境が重なると多発生する。主に土壌に残っている残渣等から遊走子のうをつくり、直接発芽や関節発芽(遊走子のうから遊走子を放出する)によって作物に感染する。作物に侵入した後は、病斑上に遊走子のうをつくり、降雨や灌水などの水の動きを介して伝染拡大していく。
葉には、はじめ水浸状の不明瞭な灰緑色の斑点を生じ、次第に拡大して暗褐色の大型病斑となる。病斑部には、湿度が高い時には白いかびを生じる。果実には茶褐色~暗褐色の病斑が生じ、やがて腐敗する。葉柄や茎にも暗褐色の病斑をつくり、茎にできた病斑が茎の周囲を取り巻くまでに進行すると、その部分より上位の葉や茎には水分や養分が届かなくなってしおれ、やがて枯れてしまう。葉や茎の病斑の上にも、多湿時には白いかびを生じる。
葉、茎、果実とどの部位にも発生する。果実に発生すると、腐敗するので直接的な被害が大きいし、葉や茎に発生した場合でも、生育不良、枯れあがりの原因となり、収量、品質に大きく影響する。じゃがいもの場合、葉や茎で発生した病斑が塊茎にまで侵入して塊茎腐敗を起こすので、収量、品質に与える影響が甚大である。
2.防除法
(1)耕種的防除
多湿が要因となって発病が多くなるので、できるだけ湿度を下げた栽培を心がける。
また、土壌の跳ね上げや降雨など水の動きにのって感染が拡大するので、水の動きを少なくする。
①密植を避け、葉や茎が密集しないように間隔を空けて風通しを良くする。
②敷きワラ、マルチを行って、土壌からの跳ね上がりを防ぐ。露地栽培の場合は、可能であれば、雨よけ設備を設ける。
③送風や換気を行い、湿度が上がらないように工夫する。
④低湿地での栽培を避け、できるだけ高畝で栽培する。
⑤第一次伝染源を減らすよう、病斑のついた作物残渣はほ場外に出して処分する。(焼却が可能な地域であれば焼却するとよい)
(2)化学的防除
①発生前に予防効果主体の農薬で定期的な防除
疫病は、一旦発生し始めると病勢が早く、一気に蔓延するので、気づいた時には既にかなりの面積で発生もしくは潜伏感染していることが多いので、発生前の予防散布を中心に組み立てる。
そして、1か所でも発生が認められたら、発生が少ないうちに治療効果のある農薬でほ場全体を徹底防除する。
代表的な予防効果の高い農薬は、ジマンダイセンやペンコゼブなどのマンゼブ剤やダコニール、フロンサイド、アリエッティであり、これらを1作期の総使用回数制限に注意しながらで防除を組み立てる。その際、散布回数制限の無い銅剤も定期的に加えると効率的な防除体系が可能となる。
②初発確認後は早期防除を徹底する
初発を確認したら、できるだけ発生が少ない時に、治療効果のある有効成分を含む混合剤を、ほ場全体にまんべんなく散布する。疫病は、初発があった際には、病斑が認められなくともすでに広範囲に病原菌が拡がっている可能性が高く、感染から発病までの時間が数日と早いので、可能な限り早く徹底防除を行う方が良い。
③治療剤は系統の異なる農薬をローテーションで使用する
治療剤には耐性菌がつきやすい傾向にあるので、同一治療剤の連続散布を避け、系統の異なる農薬を輪番で使うようにするとよい。その場合、治療剤単独での使用は避け、治療剤と作用性の異なる薬剤との混合剤の使用を徹底する。
疫病菌にも耐性菌が発生している有効成分、地域があるので、使用の前に地域の指導機関等に有効な薬剤を確認するようにしてほしい。
以下に主な疫病防除剤の予防・治療の区別と残効性について整理したので参考にしてほしい。また、別表に農薬別作物別適用表を添付するので、薬剤選択の際の参考にしてほしい。ただし、その表は選択のためのものに限定し、実際の使用の場合は、農薬ラベルで使用方法を確認するようにしてほしい。
(3)土壌消毒の実施
疫病の第一次伝染源は、作物残渣などに残っている病原菌である。
ほ場から作物残渣を手作業で完全に取り除くことは実際にはかなり骨の折れる仕事であるが、この点、土壌消毒であれば手作業よりも効率よく防除できる。
有効な土壌消毒法は、蒸気消毒、熱水消毒、太陽熱消毒、土壌還元消毒、土壌消毒剤(クロルピクリン、ソイリーン、ガスタード微粒剤など)の使用などである。
土壌消毒は、他の病害虫との同時防除も狙えるので適宜実施すると効果的である。
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