農薬:防除学習帖
みどり戦略に対応した防除戦略(3)【防除学習帖】第209回2023年7月22日
令和3年5月に公表され、農業界に衝撃を与えた「みどりの食料システム戦略」。防除学習帖では、そこに示された減化学農薬に関するKPIをただ単にKPIをクリアするのではなく、できるだけ作物の収量・品質を落とさない防除を実現した上で、みどりの食料システム法のKPIをクリアできる方法がないかを探ろうとしている。
現在、水稲栽培を種子消毒、播種・育苗期、移植、生育期、収穫期の5つに分け、その時期の農薬の使用場面ごとにみどり戦略対策の方向を探っている。前回は種子消毒における対応方向について検討したので、今回は、次の播種・育苗期について検討する。
1.播種・育苗期における農薬の使用場面
播種・育苗期における農薬の主な使用場面は、苗立枯病対策剤(床土混和剤、育苗箱灌注剤)、育苗箱処理剤の播種時処理あいになる。育苗箱処理剤は、田植3日前~当日処理、田植え同時処理など移植時での使用の方が多いので次回以降に回すこととし、今回は苗立枯病対策剤について検討する。
2.苗立枯病対策剤の使用場面別リスク換算値の算出
苗立枯病対策剤は、床土に混和するタイプと育苗箱に希釈薬液を灌注するタイプの2つがある。
いずれの場合も、10aあたり20枚の育苗箱を植え付けると仮定して10aあたりのリスク換算量を算出する。また、候補にあげた有効成分は全て、ADIが中グループであったので、換算係数は0.316となった。
(1)床土混和の場合
苗立枯病は、培土に山土を使う場合や育苗資材の洗浄・消毒が不十分な場合など培土にまぎれ込んだ病原菌が、芽出し時の高温多湿状態で増殖し、被害を起こす。病原菌の増殖を抑えるために、育苗箱に詰める培土にあらかじめ薬剤を均一に混和し、病原菌の増殖を防ぐものだ。
培土に市販の粒状培土を使用する場合は、造粒過程で高温乾燥されているので苗立枯病の発生リスクはかなり低いが、山土などを自家で用意し培土として使用する場合は、床土混和剤が必須となる。
床土混和剤は粉剤タイプのもので、培土5?あたりに薬剤3~8gを均一に混和する。経営面積が大きく、使用する移植箱枚数が多い場合は、大量の培土に薬剤を均一に混和しなければならず、あまり大規模経営には向かない処理法だ。混和にはコンクリートミキサーなどが使用されることが多い。
代表的な有効成分AとBで算出した結果は表のとおり。
(2)育苗箱灌注の場合
この方法は、通常の培土に播種した後に一定量の薬剤希釈液を灌注処理するものである。灌注の方法は、育苗ライン上で灌注処理する場合が多いが、小規模であればジョロを使って処理する場合もある。代表的な有効成分C,D,Eで算出した結果は表のとおり。
3.播種・育苗期におけるみどり戦略対策の方向
種子消毒の分野でもコメントしたが、みどり戦略ではリスク換算量の総量なので、実際にどの分野のどの農薬を減らして、どの農薬を温存するかといったことは、全ての分野の数値を算出してからでないとわからないので、以下の対策は「この分野で減らそうと思えばこのような方法がある」程度のとらえ方に留めておいてほしい。
(対策1)有効成分使用量(リスク換算量)の小さい薬剤へ変更する
対象の病原菌が同じであれば、リスク換算量が小さい方に切り替えれば減らすことができる。例えば、表の例で、有効成分AとBを比較すると、もしBを使っている農家がAに切り替えればリスク換算量を半分にできる。ただし、その逆はAをBに切り替えるのは、リスク換算量が増えることになるのでNGである。また、育苗箱に灌注処理して使用する有効成分C,D,Eの場合も同様でDからCやEに切り替えれば、理論的にはリスク換算値を減らすことができる。
ただし、有効成分によっては、効果を示す病原菌が異なるので、くれぐれも、対象の病原菌と効果を最優先で考えるようにしてほしい。
(対策2)化学農薬から生物農薬や物理的防除に変更する
苗立枯病防除剤を化学農薬から生物農薬に変更すれば、リスク換算量は0(ゼロ)にできる。ただし、生物農薬の場合、対象病害が限られたり、防除効果が不十分な場合があるので、その病害発生のリスクを考慮する必要がある。
また、あらかじめ蒸気消毒を施して培土自体を熱殺菌することで、リスク換算値をゼロにできる。ただし、この方法は、蒸気消毒機など保有している場合に有効な方法であり、別に蒸気を発生させる設備が必要になることに注意が必要である。
一方、培土をロールケーキ状に山積みしてシートをかぶせ、太陽熱で消毒する方法もあるが、前年の夏場に消毒を実施するなど、温度と日照が確保できる時期にあらかじめ実施し、培土内の温度が十分に高温になったかどうか確認しておく必要がある。
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