農薬:現場で役立つ農薬の基礎知識2023
【現場で役立つ農薬の基礎知識2023】環境調和型農業の施肥と土づくり 持続性の確保を前面に グリーンメニュー推進(1)2024年2月13日
立春が過ぎ寒さもやわらいでくる。農家にとっては春耕の季節が間近に迫る。農作物にとっては品質や収量を左右する土づくりが気になるところだ。今は地球温暖化など環境問題にも関心が集まる。そこで持続可能な農業に向け、「環境調和型農業における施肥と土づくり」をテーマにJA全農耕種資材部肥料課肥料技術対策室長の小宮山鉄兵氏に寄稿してもらった。
1.情勢
みどり戦略視野に スマート化を絡め
JAグループは国による「みどりの食料システム戦略」の策定を受けて令和3(2021)年10月開催の第29回JA全国大会において、「環境調和型農業」の推進について決議した。「環境調和型農業」とは、農業の持続性の観点から、組合員の便益と食料安全保障を確保しつつ、自然環境への付加の緩和と適応をはかる農業と定義づけられている。とくに、組合員の便益については、環境に配慮した農業生産は重要ではあるものの、新たな労力やコスト負担は農業生産現場の実態を踏まえ、経済合理性に配慮した対応が取り組みの持続性を確保する上でも重要であるとしている。
全農においても、化学肥料・化学農薬の低減や温室効果ガス削減といった環境的要素だけではなく、農業の生産性向上や生産コスト削減等の経済的要素、さらには生産基盤の維持等の社会的要素を考慮し、技術や資材を体系化した「グリーンメニュー」を作成し、環境調和型農業の取り組みを進めている(図1)。令和5年度は48のモデルJAを設定し、地域の実情を踏まえたメニューの選定(186メニュー)を行い、実践と検証に取り組んでいる。今後は実例をもとにグリーンメニューを全国に水平展開する予定である。
【図1】「グリーンメニュー」取り組みの流れ
2.施肥と土づくり
「みどりの食料システム戦略」においては2050年までに目指す姿として、輸入原料や化石燃料を原料とした化学肥料の施用量(窒素、リン酸および加里の成分量の合計)を2016年対比で30%削減すると掲げており、また2030年中間目標としては20%削減としている。また、その方法として、堆肥などの国内肥料資源の活用や施肥の効率化および施肥のスマート化などを進めることとしている。
【図2】みどりの食料システム戦略における化学肥料の削減目標
https://www.maff.go.jp/j/kanbo/kankyo/seisaku/midori/attach/pdf/index-55.pdf
化学肥料の使用量について、長期的な推移をみたのが図3である。30年の間(1990年~2020年)に窒素、リン酸および加里肥料の使用量はそれぞれ36%、51%および44%減少している。リン酸および加里肥料の減少割合が大きいのは2008年の肥料高騰を機に土壌診断に基づく減肥が進んだためと推定される。同期間において農耕地面積の減少割合は17%であったことから、単位面積当たりの窒素肥料の施用量も大きく減少していることが分かる。
この要因として、良食味米生産や特別栽培が広がり窒素肥料施用量が減少したことや、被覆肥料の普及による肥料利用効率の向上も大きく貢献していると考えられる。化学肥料を減らすことに焦点が当たりがちであるが、食料自給率の目標値を踏まえ、日本における農業生産に必要な肥料量をしっかり議論する必要がある。
【図3】1975~2020年における化学肥料の使用量の推移
(窒素、リン酸、加里の成分量の合計)FAOSTATより全農作成、2030年および2050年の数値はみどりの食料システム戦略の目標値
(1)土壌診断による適正施肥
2021~22年度にかけて肥料価格が高騰し、土壌診断に基づく減肥(リン酸、加里の成分量を落とした低成分肥料)が進んだ。全農では急激な土壌診断の需要に対し、分析項目の絞り込み(減肥対象であるリン酸、加里に絞った分析)や過去分析値および地域平均値を活用した減肥、簡易土壌分析キット(富士平工業(株)みどりくん®など)による診断により対応した。
データ化欠かせず
全農の肥料供給価格は2023年はほとんどの品目で値下がりしたものの、環境調和型農業における化学肥料使用量の削減を進めるためにも引き続き土壌診断による適正施肥を進める必要がある。今後、土壌診断を有効に活用するためには土壌診断値のデータベース化とともに診断値と位置情報をひもづけて管理していくことが重要である。
全農兵庫県本部では国の肥料コスト低減体系緊急転換事業も活用しながら、県内の土壌診断値の見える化を進めた。リン酸、加里といった肥料の三要素に加え、pHや腐植、ケイ酸といった土づくりの指標となる項目についても見える化し、JAや組合員に提供している。(図4)
地域単位で土壌状態を把握することで、土づくりや適正施肥を効率的に進めることができる。近年、マップ化ツールであるGISシステムは使いやすいシステムが増えており、全農でもほ場管理システムZ―GISの普及を進めている。全農では今後、土壌診断値のデータベース化やマップ化を進め、土づくりおよび適正施肥の取り組みを加速していく。
【図4】兵庫県の土壌診断マップ(土壌腐植含量の例、Z-GISを用いてマップ化)
1年目、800点のマッピング。2022~24年度にかけて2,400点の診断、マップ化を行う予定。
【現場で役立つ農薬の基礎知識2023】環境調和型農業の施肥と土づくり 持続性の確保を前面に グリーンメニュー推進(2)へ続く
重要な記事
最新の記事
-
「良き仲間」恵まれ感謝 「苦楽共に」経験が肥やし 元島根県農協中央会会長 萬代宣雄氏(2)【プレミアムトーク・人生一路】2025年4月30日
-
【農業倉庫保管管理強化月間特集】現地レポート:福島県JA夢みなみ岩瀬倉庫 主食用米確かな品質前面に(1)2025年4月30日
-
【農業倉庫保管管理強化月間特集】現地レポート:福島県JA夢みなみ岩瀬倉庫 主食用米確かな品質前面に(2)2025年4月30日
-
アメリカ・バースト【小松泰信・地方の眼力】2025年4月30日
-
【人事異動】農水省(5月1日付)2025年4月30日
-
コメ卸は備蓄米で儲け過ぎなのか?【熊野孝文・米マーケット情報】2025年4月30日
-
米価格 5kg4220円 前週比プラス0.1%2025年4月30日
-
【農業倉庫保管管理強化月間にあたり】カビ防止対策徹底を 農業倉庫基金理事長 栗原竜也氏2025年4月30日
-
米の「民間輸入」急増 25年は6万トン超か 輸入依存には危うさ2025年4月30日
-
【JA人事】JAクレイン(山梨県)新組合長に藤波聡氏2025年4月30日
-
【'25新組合長に聞く】JA新潟市(新潟) 長谷川富明氏(4/19就任) 生産者も消費者も納得できる米価に2025年4月30日
-
備蓄米 第3回は10万t放出 落札率99%2025年4月30日
-
「美杉清流米」の田植え体験で生産者と消費者をつなぐ JA全農みえ2025年4月30日
-
東北電力とトランジション・ローンの契約締結 農林中金2025年4月30日
-
大阪万博「ウガンダ」パビリオンでバイオスティミュラント資材「スキーポン」紹介 米カリフォルニアで大規模実証試験も開始 アクプランタ2025年4月30日
-
農地マップやほ場管理に最適な後付け農機専用高機能ガイダンスシステムを販売 FAG2025年4月30日
-
鳥インフル 米デラウェア州など3州からの生きた家きん、家きん肉等 輸入停止措置を解除 農水省2025年4月30日
-
埼玉県幸手市で紙マルチ田植機の実演研修会 有機米栽培で地産ブランド強化へ 三菱マヒンドラ農機2025年4月30日
-
国内生産拠点で購入する電力 実質再生可能エネルギー由来に100%切り替え 森永乳業2025年4月30日
-
外食需要は堅調も、物価高騰で消費の選別進む 外食産業市場動向調査3月度 日本フードサービス協会2025年4月30日