農薬:防除学習帖
みどり戦略対策に向けたIPM防除の実践(91)ビスグアニジン【防除学習帖】第330回2025年12月27日
令和3年5月に公表され、農業界に衝撃を与えた「みどりの食料システム戦略」。防除学習帖では、そこに示された減化学農薬に関するKPIをただ単にクリアするのではなく、できるだけ作物の収量・品質を落とさない防除を実現した上でKPIをクリアできる方法を探っており、そのことを実現するのにはIPM防除の活用が重要だ。そこで、防除学習帖では、IPM防除資材・技術をどのように活用すれば防除効果を落とさずに化学農薬のリスク換算量を減らすことができるのか探りたいと考えている。
IPM防除では、みどり戦略対策に限らず化学的防除法以外の防除法を偏りなく組み合わせ、必要な場面では化学的防除を使用して防除効果の最大化を狙うのが基本だ。その際、農薬のリスク換算量を減らせる有効成分や使用方法を選択できればみどり戦略対策にもなるので、本稿では現在、農薬の有効成分ごとにその作用点、特性、リスク係数、防除できる病害虫草等を整理し、より効率良く防除できてリスク換算量を減らすことができる道がないかを探っている。そのため、登録農薬の有効成分ごとに、その作用機構を分類し、RACコードの順番に整理を試みている。現在FRACコード表日本版(2023年8月)に基づいて整理し紹介しているが、整理の都合上、FRACコード表と項目の並びや内容の表記方法が若干異なることをご容赦願いたい。
42.ビスグアニジン
(1)作用機構:[M]多作用点接触活性化合物
(2)作用点:多作用点接触活性
(3)グループ名:ビスグアニジン/FRACコード[M7]
(4)殺菌剤の耐性リスク:不明(ほとんど無いと考えられている)
(5)耐性菌の発生状況:無し
(6)化学グループ名/有効成分名(農薬名):
このグループには現在のところ1つの化学グループに2つの有効成分名、農薬名がある。
このうち、イミノクタジン酢酸塩(ベフラン)は主として果樹分野で使用されてきたが、農薬の再評価制度の影響で2025年に登録失効するため、本系統は近い将来イミノクタジンアルベシル酸塩(ベルクート)のみとなる。
[1]:ビスグアニジン/イミノクタジン酢酸塩(ベフラン)
[2]:ビスグアニジン/イミノクタジンアルベシル酸塩(ベルクート)
(7)グループの特性:
本グループの活性主体であるイミノクタジン基が病原菌の細胞膜機能や脂質生合成に作用し、胞子発芽や発芽管伸長、付着器形成、侵入糸形成などを阻害して防除効果を発揮する。
予防効果、残効性に優れ、生育期のみならず休眠期でも安定した効果を発揮する。
イミノクタジン酢酸塩(ベフラン)は作物に薬害を起こすことが多いことから使用場面が限定的であったが、塩の種類をアルベシル酸塩に変えることでイミノクタジンの薬害軽減に成功したベルクートについては、果樹、野菜、小麦、特用作物、樹木類等の幅広い作物に使用できるようになった。
(8)リスク換算係数とリスク換算量削減の考え方:
この化学グループに属する有効成分イミノクタジン酢酸塩のリスク換算係数は1と大きいが、基準年のリスク換算量は16.5トンと基準年のリスク換算量合計の約0.1%に過ぎず、同じくイミノクタジンアルベシル酸塩のリスク換算係数も1と高く基準年のリスク換算量は55.9トンであるが、基準年のリスク換算量合計の約0.2%とウエートは低い。
加えて、耐性菌発達の恐れがない貴重な保護殺菌剤であり、ベフランが登録失効となった後にも使用できるイミノクタジンアルベシル酸塩が幅広い作物の重要な基幹保護殺菌剤であることから、本系統の削減は基本的に考えず、従来どおり使用した方が良いと考えられる。
(9)ビスグアニジンの農薬登録がある主要病原菌一覧
ビスグアニジンの主要作物・病害名・病原菌別有効成分の一覧を次表に示した。
イミノクタジン酢酸塩(ベフラン)は、2025年に登録失効し、既に販売された製品は、製品に記載の有効期限までは使用できることになっている。下表では、同剤が登録を有していた作物・病害と、販売が継続されるイミノクタジンアルベシル酸塩剤(ベルクート)が登録を有している作物・病害も同列に表記しているので、イミノクタジン酢酸塩(ベフラン)代替を考える際の参考にしてほしい。
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