農協は地域に何ができるか

- 著者
- 石田正昭
- 発行所
- 農山漁村文化協会(農文協)
- 発行日
- 2012年10月
- 定価
- 2730円(税込)
- 評者
- 仲野隆三(JA富里市元常務理事)
新たな協同づくりに光を当てる
◆現地調査から課題を探る
農業協同組合は戦後65年を経過、組織数も807JAと大規模化が進んだ。大規模化は事業効率のため組合員拠点の統廃合をもたらした。地域は当然のことながら事業、組織、ヒトの関係が希薄となり組合員との距離が遠のき、その地域の多様な利用者との結びつきにも影響を与えたと考える。
本書巻頭で協同組合は組合員ニーズや願いをかなえる共助・共益の組織ではあるが、そればかりでなく「それがよって立つ地域社会の再活性に取り組み」公益に配慮することであり、その観点は協同組合と地域社会は分かちがたく結びついており、地域社会の発展なしに協同組合の発展はないと農業協同組合の本来の役割を説いている。
著者は執筆にあたり「事例に即し・批判はきちんとする・営農販売をどう立て直すか」をふまえ、担い手経営体のみならず多様な担い手によって形成される農家組合、さらに女性農業者たちの期待にどのように応えるかなど研究者の立場を超えて「組合員、役員、職員の各層が気づいていないこと、あるいは気づいてはいるが言えないこと」など現地調査(全国15JA)からえた知見をもとに農協の課題と可能性について提言している著書である。
◆指導者を生むための組合員
本書は「農協は地域に何をなすべきか」序章にはじまり第1部で農業を基軸としたJA組織の連携やマーケティングに基づく営農経済事業の取り組みを事例に「農をつくる」、第2部は都市農協の取り組みとして信用・共済事業を生活文化事業の中核に据えた地域に根ざした農協づくり「地域をつくる」、第3部は支店を基点としたJAの大変革について「JAをつくる」、終章は「農協は地域で何ができるか」など3部十四章により論点がまとめられている。
本書を何回となく読みかえしたが、役職員や青年部、女性部など将来の指導者とならん組合員にとって大いに参考となる。
そのひとつが「合併しないで合併効果を生みだす」事例分析である。合併より先に経済連携をして組合員の営農経済支援をする方が先だとするトップリーダーの考え方の具現化など。また米や野菜の無条件委託販売方式からマーケティング手法を取り入れた契約取引などワンランクアップの産地づくりと地域の活性化の取り組み。都市化が進み農地が減少するなか組合員の農地面積要件を変更して多くの組合員が生活文化事業として活動できる新たな協同づくりをしている例などが詳細にまとめられている。
最も印象に残ったのはJAを変革するトップをつくる項で「偉大なる素人(指導者たる)」と「経営の専門家(実務経験者たる)」の二人がいて農業協同組合のバランスがとれるという部分である。そのために組合員教育をかかさず指導者を輩出するために何をするなど示唆を与えてくれる。
◆JAの「自己決定」の促進を
読後、著者が「農をつくる」でいうように総合農協といえども、規模の違い、地域環境の違い、経営資源の違いなどが高まる現状をとらえると、全国一律の規制を設け、信用・共済事業分離を強制することは適当ではない、協同組合が民主の学校であれば、自らが自らにふさわしい道を選択するという「自己決定の促進」を図るべきだ。という考え方は正しいと考える。昨今の財界からの農協批判に対する論拠を示したものだが、この考え方は農協人にも言えることだと考える。信用共済事業だけで農業協同組合の経営が成り立つとは思えない。農業を営みながら一人の組合員として本書に多くを学んだこと感謝したい。
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