農は輝ける
- 著者
- 星寛治(たかはた共生塾顧問)・山下惣一(農民作家)
- 発行所
- 創森社
- 発行日
- 2013年3月15日
- 定価
- 1400円+税
- 電話
- 03-5228-2270
- 評者
- 岸康彦 / 農政ジャーナリスト
農民詩人・星寛治氏と農民作家・山下惣一氏の往復書簡集『北の農民 南の農民』が刊行されてから30年、今度は対談という形で両氏が農の世界を語り合った。対談は東日本大震災の直前と約1年後の2回にわたって行われ、30年を振り返るとともに、グローバリゼーションとTPP(環太平洋連携協定)、大震災と原発事故など、農業と密接に関わるテーマについて縦横に論じている。
改めて「近代化」を問う対談
東北人の星氏と九州人の山下氏は対照的な人柄で知られる。ひたむきに農の理想を追求するロマンチストの星氏に対し、徹底したリアリストで辛辣な皮肉屋の山下氏というように。しかし山下氏は、2人は1枚のコインの表と裏、「登り口が少し違うだけ」で、目指す山の頂上は同じだと言う。
1970年代から有機農業の道をまっすぐに歩み続け、「自覚した市民」との産直提携に日本農業の未来を見出した星氏。一方、「普通の百姓でも一緒にやっていけるような運動」を心がける山下氏は、「自覚的でなく、眠っている普通の消費者」に支えられる地域社会への足がかりとして、地産地消の直売所を開設した。確かに、違うのは「登り口」だけではなかろうか。
話題は地域から国際関係にまで広がりを見せるが、全体を通じて語られるのは近代化批判である。青年時代に情熱を注いだ農業・農村近代化の夢に裏切られた二人は、以後、一貫して農の現場から近代化の本質を問い続けてきた。国を挙げて進められた近代化路線を批判することは、21世紀の今日にあっては、「経済成長を前提としないと、人間の幸せは手に入らないという先入観」(星氏)から抜け出す生き方を模索することに通じる。
困難な時代ではあるが、生き方次第で「輝ける」――そのように2人は読者を鼓舞しているのだと受け止めたい。答えが一様である必要はない。めいめいが自分にとっての「頂上」とは何かを考えるために、本書は良き手引きとなるだろう。
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