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予算が現場に届かない~繰り返される悲劇【鈴木宣弘:食料・農業問題 本質と裏側】2020年6月25日

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【鈴木宣弘・東京大学教授】

今に始まったことではない。2008年の食料・飼料危機でも、2011年の東日本大震災でも、予算がなかなか現場に届かなかった。過去の失敗を教訓にしないと改善しない。

困っている人にすぐ届かない

2008、2009年のエサ危機に、筆者は食料・農業・農村審議会の畜産部会長だった。テレビで「乳価は10円/kg程度の引上げが必要ではないか」と発言し、酪農家から「それでは足りない」と叱られ、役所からは「そんなに上げる根拠はない」と、双方から叱られた。
それでも、畜産・酪農の緊急予算は3000~4000億円(「真水」ではないが)手当てされた。それを、そのまま緊急的な乳価補填に使えば、機動的に酪農所得を支えられたが、乳価補填には100億程度しか使われなかった。「その他の大部分はどこへ行ったのか。なぜ、もっと直接的に農家の所得補填ができなかったのか。」この指摘は、審議会の畜産部会や農畜産業振興機構の第三者委員会において消費者側委員からなされた。
我が国の農業政策には、様々な政策メニューがあるが、それらを集約して、シンプルに、ピンポイントに、より直接的に農家の所得形成につながるような政策に集中的に予算配分することが検討される必要があると思われる。特に、緊急時にはそうだ。
また、めざすべき方向で大枠の予算がとれても、それを現実的にそれぞれの施策に落としていくと、非常に細かくなり、それが現場に行くと、その市町村で一手にそれを引き受けて、似たような事業がまた錯綜したり、書類は多いが使いづらい、効果が実感できないという指摘が相変わらず多い。
この辺りは農水省等も相当に改善に努力しているが、さらに、わかりやすさ、使いやすさ、迅速化、ポイントを押さえて所得形成に届く重点化という点で改善がないと、結果的に現場で使いにくいという点を打破できない。
「財務省がわざと使いにくくする要件を付けてきて、現場で使用できずに財務省に返還されるように仕組んでいるのでは」という指摘もある。農水省も、とりあえず予算がつけばよし、となると、結局泣かされるのは現場の農家である。この問題を何とか改善しないといけない。
また、我が国では、そもそも「緊急対策」というのは政治家が自身の力で実現したぞと誇示するための一過性の対策で、すぐ消える。しかも、既存の施策を○○対策として括り直して看板を付け替えた部分が大半で実際に新たに使える部分は少ないというのが常である。政策に曖昧さを維持し、農家を不安な状態に置き、いざというときに存在意義を示すための日本的制度体系である。この対極が、対策の発動基準が明確にされ、農家にとって予見可能で、それを目安にした経営・投資計画が立てやすくなっている欧米型のシステマティックな政策である。緊急時にも即応できる。

条件が厳しかった復興予算

2011年の大震災から何ヶ月も経っても、各地の現場は言葉を失うような大変な苦難の状況が続いている一方で、現場から遠く離れたところ(東京)で、机上の空論のような10年、20年先の長期復興プランが飛び交っていた。
予算の執行には、現行の法律・規則で何ができるかといった解釈や手続きに時間を取られて、現場に必要な手だてが遅れた。日本の組織は、既存の枠組みや前例の範囲で何ができるかといった解釈論は得意だが、不測の事態になると、従来の枠を超えて機動的に動くことができない。
法律や制度は現場を救うためにある。法律解釈や手続きに時間をとられて現場を救えないのなら一体何のための法律か。法律や制度が金科玉条なのではなく、現場の必要性こそがすべての出発点である。つまり、非常時には弾力的な運用をするのが当然だ。
しかも、条件の厳しい復興予算は、申請してもなかなか受け付けられず、現場で使えず、財務省に戻っていった。当時の政府の対応には、機動性、即応性、責任ある約束が欠如していた。
コロナ・ショックで国民が苦しむ中、過去の失敗がどれだけ教訓として活かされ、改善されているだろうか。


 
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