敗戦直後の学校給食(1)【酒井惇一・昔の農村・今の世の中】第106回2020年7月9日
先週、このコラム担当の編集者OKさんと事務的な打ち合わせのためのメールのやりとりをしているさい、私の前回の掲載記事に触れて次のようなコメントをいただいた。
「......前略......この原稿にある『米国の小麦と脱脂粉乳』は、私の小学校時代に学校給食として導入されました。脱脂粉乳は今思い出しても不味く飲めたものではなく、どうやって教師の目をごまかして捨てようかと必死で考えたことを思い出します。今でこそ米飯給食が実施されていますが、当時は米国小麦のコッペパンが定番で、米を食うとばかになるとかいって、米文化から粉文化へと強引に引きずり回されました。それが米消費減退につながっていると私は考えています......後略......」
このメールを見てふと思い出した、私も学校給食ではOKさんと同じようないやな体験があると。敗戦直後の話で、OKさんの時代より10年以上も前の話になるのだが。
そこでちょっと脱線して、今回は私の給食体験を話させていただきたい。
敗戦の翌年(昭和21年)、私の小学校5年のときの話である。学校の帰り道にくわご(桑の実)をとって食べた頃のことだから、6月の末頃と思う。毎週一回給食が出ることになった。ただし弁当持参、給食はおつゆだけだということで、ジュラルミンでできた深さ6-7センチ、直径15センチくらいの大きさの分厚くて重い鉛色のお椀を渡された。しかし周辺の農村部の小学校では給食はなかった。山形市は県庁所在地、つまり都市なので食糧不足のはずだということで開始されたのではないかと思う。
楽しみだった。戦前にも何人かの子どもたちが給食を食べており、それを食べてみたかったからである。1、2年生のころ(昭和17~18年)、同じクラスにやせ細った同級生がいた。彼はいつも昼食時になるといなくなる。そしてまた戻ってくる。何でだかわからなかった。何かのときにわかった。小使室でご飯を食べていたのである。彼以外にも他の学年の2-3人が食べていた。いつも昼休み近くになると小使室から味噌汁などのいい匂いがしていたが、それがこの昼食だったのである。これを「給食」ということもわかってきた。そして貧困家庭の児童、欠食児童にだけ出すのだという。それでもあのいい匂いが忘れられない。それが食べられる。しかも東京では米軍の放出物資で給食を始めたというニュースも流れており、食べたことのないアメリカの食べ物が食べられるかもしれない。すごく期待した。
いよいよ給食の日、バケツに入ったおつゆが教室に運ばれてきた。醤油の色をしたおつゆにニンジンとかジャガイモなどが入っている。さらに細かく刻んだ肉を固めたようなサイコロくらいの大きさの得体のしれないものも入っている。何の油かわからないが、表面にギラギラと浮いている。とてもではないが食えない。それは私だけではない。同級生のほとんどがいやな顔をしていた。山形市といっても農村部なので、そんなものを食べなければならないほど飢えてはいなかったのである。それでもみんながまんして食べた。
その夜、突然身体がすさまじくかゆくなり、発疹、下痢、発熱で翌日から一週間くらい休んだ。学校帰りに友だちといっしょに桑の木に登って桑の実をとって食べたとき毛虫に刺されたせいだろうと私は思ったが、それは給食のせいだということになり、担任の先生の配慮で私だけは毎週一回の給食を食べる苦行から解放された。おかげさまで本当に助かった。
ちょっとここで脱線、さきほどジュラルミンと言ったが、これは飛行機の材料として戦時中重要視されたアルミニウム合金の一種であり、戦中の子どもにとってはなじみの深い名前だった。敗戦で要らなくなったのでそれを給食用の食器に利用したのだろうが、まさか戦争用・玉砕用の飛行機の材料が私たちの給食の食器になるとはと、奇妙な気持ちになったものだった。(次回に続く)
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