(461)小麦・コメ・トウモロコシの覇権争い【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2025年11月14日
国際政治の世界では新世界秩序という言葉がよく聞かれます。この観点から食料を見ると面白いことがわかります。
英語のコード(code)には、プログラミングの文章、暗号、法典など多様な意味がある。例えば、モールス信号はMorse codeであり、民法典はCivil codeである。
それでは、文明のコードは何かといえば、「食」である。世界中どこに居ようが人は何かを食べるが、場所や時期により食べるものは異なる。試みに世界を穀物中心に簡単にまとめれば、小麦、コメ、あるいはトウモロコシ、に大別できる。
西欧は小麦社会である。アジア、とくに東アジアはコメ社会、アメリカ大陸はトウモロコシ社会である。こう考えると現代社会の構造がよくわかる。
誤解を恐れずに言えば、世界史は小麦を主食とする文化圏の拡大・攻勢に対する他の文化圏の抵抗と言ってよいかもしれない。とくに大航海時代以降、「パン食」が文明化の象徴のように扱われてきたとしたら、それは小麦文化圏がその製品としての「パン食」を用いて世界標準化を拡大してきた流れと考えることもできる。
では、小麦文化圏に攻められた他の文化圏はどうなったか。
東アジアのコメ文化圏では、稲作が継続してはいるが、既に日常の食の中に小麦製品が溢れている。小麦は粉化が容易であり、さらに製品用途が広く食べやすい。パンだけでなく、パスタ、クッキー、ケーキなど現代人の食生活には欠かせない食材となっている。
農水省の食料需給表(令和5年度概算値)における国内消費向け仕向量は、コメが824万トン、小麦が631万トンである。現代の日本人は平均すれば1年にコメを56kg、小麦を41kg消費すると考えてもよい(供給粗食料)。今やコメ文化圏においても小麦は食の重要な柱であることがわかる。今後、外食・中食などの産業が拡大するにつれ、日本に限らずアジア全域で小麦製品への指向は強くなる可能性が高い。
一方、文明論的観点から戦略的抵抗を見せたのがトウモロコシ文化圏である。トウモロコシの原産地は周知のとおりメキシコである。そしてメキシコの国民食はトウモロコシの粉から作るトルティーリャ(tortilla)である。
米国農務省によればメキシコのトウモロコシ消費量は年間約5千万トンである。人口が1.3億人のメキシコでは、一人当たり年間80~90kgのトルティーリャを食べるとの報道もある。それ以外の関連消費も合わせると、食品用消費は年間2千万トン近くになるようだ。ここでは、まだトウモロコシ文化が依然として強さを保っている。ただ、最近のメキシコは年間700万トン近くの小麦を輸入している点を考えれば、日本同様、生活の隅々まで小麦製品は普及している可能性が高い。
以上を踏まえると、コメとトウモロコシの両文化圏に対し、小麦は着実に浸透している。しかし、それは人々が加工も味も良い小麦製品を望んだ結果でもある。
それにしても、3つの文化圏のうちトウモロコシ文化圏だけは、もともとの地域食材であるトウモロコシを、食品に加え、家畜飼料用、さらにバイオ燃料用にまで活用している点に注目したい。アメリカ大陸の食文化のコードでもあるトウモロコシを世界的な商材として生き残らせる異なる道を選択したのである。
主力は原産地のメキシコから米国にシフトしたが、トウモロコシ自体は今や世界最大の穀物商品であることを考えれば世界レベルでの市場開拓・市場創造の代表例と言える。
日本を含むコメ文化圏では、今後、地域食材としてのコメをどう活かし、残すか――これは単なる食の問題ではなく、文化と歴史の存続をかけた問いでもある。
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