【地域を診る】「地方創生」が見当たらない?! 新首相の所信表明 「国」栄えて山河枯れる 京都橘大学学長 岡田知弘氏2025年11月14日
今、地域に何が起きているのかを探るシリーズ。京都橘大学学長の岡田知弘氏が解説する。高市新首相の所信表明では「地方創生」が消え、「地域未来戦略」へと看板が掛け替えられた。大規模投資中心の成長路線は、人口減少や農村の衰退に応えうるのか。その視点と影響を考える。
京都橘大学学長 岡田知弘氏
高市早苗内閣が発足した。就任早々の華々しい外交デビューもあって、ある世論調査によると内閣支持率は80%を超えたという。その中で、高市首相は、10月24日に初の所信表明演説を国会で行った。各政権の政策理念と基本政策を診るために、所信表明演説はとても重要な資料である。私の場合、とりわけ地域経済や社会をどのように捉え、いかなる政策を構想しているかをチェックしてきた。
翌日の新聞で全文を精読してみて、正直、驚いた。なんと「地方創生」という言葉が使われていないのである。前任の石破茂首相の所信表明演説において「地方創生」が前面にでてきていたのとは大違いである。
高市首相は、安倍晋三政権の政策理念や「アベノミクス」政策を踏襲する姿勢だが、その安倍首相が主唱した「地方創生」という言葉を封印したのである。その代わり、吉田松陰の言葉である「事を論ずるには、まさに己れの地、己れの身より見を起こすべし、すなわち着実と為す」を引用し、「地方が持つ伸びしろを生かす」という抽象度の高い言葉を使っている。
具体的には、国の支援による熊本のTSMCや北海道のラピダスといった半導体工場の建設事例をさらに広げ、地域を超えたビジネス展開を図る中堅企業を支援したり、地域ごとに大規模投資を呼び込んで、産業クラスターを戦略的に形成する「地域未来戦略」を推進するとしている。農村では、二地域居住を含む関係人口創出、「稼げる農林水産業の創出」を盛り込んでいる。後者の内実は、「...先端技術も活用し、輸出を促進する」ことにある。これらの個別政策内容は、石破政権の下で具体化していたものであり、私がこのコラムで批判してきた内容でもある。つまり、石破政権の看板であった「地方創生」を高市カラーの「地域未来戦略」に置き換えただけのように見える。しかも、その内容は、旧態依然の「大規模投資を呼び込んで地域活性化」論である。
ところで、従来、地方創生担当大臣とされたポストには黄川田仁志議員が就任したが、政府のホームページにある同大臣の担当領域がすこぶる広い。そこには︿内閣府特命担当大臣(沖縄及び北方対策、消費者及び食品安全、こども政策 少子化対策 若者活躍 男女共同参画、地方創生、アイヌ施策、共生・共助)、女性活躍担当、共生社会担当、地域未来戦略担当﹀とある。同大臣の就任記者会見を見ると、「地方創生」についての発言量はかなり少なく、他の政策分野のなかに埋没していることがわかる。これでは、内閣の特命分野のなかに占める「地方創生」の政策ウェイトは、相対的に圧縮された感が否めない。
他方、高市首相の所信表明演説では、多くのマスコミも指摘するように、「国家」「国家国民」という言葉が目立ち、国の視点から「危機管理投資による力強い経済成長」をめざすという基本姿勢が際立っている。その基本は、高市首相が得意とする経済安全保障だ。AI、半導体、造船、量子、バイオ、航空・宇宙、サイバーセキュリティーなどの戦略分野であり、予算拡大が想定される防衛産業の領域への重点投資である。
さらに、注目したいのは、「危機管理」の観点から「国土強靭化」を重視し、そのなかで「首都の危機管理機能のバックアップ体制を構築する」ために「首都及び副首都の責務と機能に関する検討」を急ぐとしていることである。この「副首都」は、明らかに、公明党離脱後の連立政権の相手として高市総裁が選んだ日本維新の会との合意に基づいて書かれたものであろう。
さて、このような経済成長戦略と地域未来戦略によって、人口減少と労働力不足、地域産業や医療・福祉サービスの後退、クマ被害を含む多重災害に見舞われている、多くの地域の未来に展望はもてるのだろうか。そもそも、高市政権は日米交渉のすえ、約60兆円にも及ぶ「日米間の投資に関する共同ファクトシート」を公表している。いったいどれくらいの期間を想定しているのか不明の点も多いが、インフラを中心にこれだけの将来的な投資が日本国内ではなく、米国で投資されることになるうえ、トランプ大統領によると、その収益の9割は米国が吸収する仕組みを考えているという。
日本国内への再投資は、それだけ圧縮されることになる。しかも、国内投資についても、政府お墨付きの戦略分野や特定地域への投資に重点を置くとしているので、日本列島上でもごく限られた地域にしかその波及効果はないだろう。
新政権には、政策策定の視点を地域の現場においてもらいたいと思う。半導体工場にしろ、広域的な活動をする中堅企業にしろ、本社のある地域には投資の利益は還流するが、分工場や支店が立地している地域への波及効果は極めて限られている。農林水産業も、輸出を中心とした「もうかる」経営体のみを重視すれば、食料安全保障はもとより、圧倒的部分を占める地域農業も地域の国土保全機能も、いままで以上に後退する可能性が大きいように思う。
地域の住民あっての国であることをくれぐれも忘れないでほしい。
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