なぜ日本の食の安全基準だけが緩められてしまうのか【鈴木宣弘:食料・農業問題 本質と裏側】2020年8月20日
世界的に農薬や添加物の使用・残留規制が強化されているのに、それに逆行するかのように、日本だけがむしろ緩められているものもある。それは、日本人がラスト・リゾートとして危険な輸入食品の標的にされることを意味する。各国と日本の違いはどこにあるのか。
国際的な食の安全基準はコーデックス委員会などで決まっている。そして、米国のFDA(食品医薬品局)、日本の食品安全委員会など、安全基準を審査・設定する組織がある。そうした組織で「安全」とされても、EUなどを中心に、使用禁止が増加している農薬などがある。なぜか。市民・国民は、公的な「安全」証明を信用していないのではないか。
販売する企業は、何とか政治と専門家を取り込んで、「安全」を取り付けようとする。コーデックス委員会では、米国などのグローバル企業が強力なロビー活動を展開し、投票にもつれ込んだ安全基準策定で「安全」を勝ち取っている現実がある。
コロナ禍で、日本の「専門家」への信頼も、ますます揺らいでいる。「専門家」には、政治やカネと「独立」した知見の述べられない人も多いようだ。食品安全委員会の専門家にも、そうした「専門家」がいるかもしれない。消費者も委員に入っているではないか、というが、最近は、「科学的」消費者といわれ、「無知なために不安になっているだけの従来の消費者」と違って正しい知識を備えているとして、すべて安全だと主張する「消費者」が委員になったりしている。結局、ほとんど議論にならず、販売したい企業寄りの決定がされるストーリーが出来上がっている。
各国の消費者・国民は黙っていない。公的に「安全」とされていてもEUなどは独自の予防原則を採る。採らざるを得なくなる。消費者・国民が黙っていないからだ。消費者が拒否すれば、企業をバックに政治的に操られた「安全」は否定され、危険なものは排除できる。米国でも、FDAがいくら安全と言って、表示もできなくされても、消費者は牛乳の遺伝子組み替え成長ホルモンを拒否する運動を展開して、それを容認している企業の牛乳・乳製品を買わないと抵抗し、ダノン、ウォルマート、スターバックスなどが「うちは使用していない」と宣言した。もうからないと判断したM社は牛成長ホルモンの権利を売却した。
どんな裏工作で「安全」が歪められても、表示もできなくされても、最終的には、消費者・国民の行動には勝てない。安全を評価するのは消費者・国民である。最終的な決定力は国民にある。日本はなぜそれができないのか。消費者・国民の声と動きが小さいからだ。小さくさせられているからだ。何とか客観的情報をしっかり共有して、各国のように、国民がもっと存在感を示そうではないか。
本コラムの記事一覧は下記リンクよりご覧下さい。
重要な記事
最新の記事
-
「良き仲間」恵まれ感謝 「苦楽共に」経験が肥やし 元島根県農協中央会会長 萬代宣雄氏(2)【プレミアムトーク・人生一路】2025年4月30日
-
【農業倉庫保管管理強化月間特集】現地レポート:福島県JA夢みなみ岩瀬倉庫 主食用米確かな品質前面に(1)2025年4月30日
-
【農業倉庫保管管理強化月間特集】現地レポート:福島県JA夢みなみ岩瀬倉庫 主食用米確かな品質前面に(2)2025年4月30日
-
アメリカ・バースト【小松泰信・地方の眼力】2025年4月30日
-
【人事異動】農水省(5月1日付)2025年4月30日
-
コメ卸は備蓄米で儲け過ぎなのか?【熊野孝文・米マーケット情報】2025年4月30日
-
米価格 5kg4220円 前週比プラス0.1%2025年4月30日
-
【農業倉庫保管管理強化月間にあたり】カビ防止対策徹底を 農業倉庫基金理事長 栗原竜也氏2025年4月30日
-
米の「民間輸入」急増 25年は6万トン超か 輸入依存には危うさ2025年4月30日
-
【JA人事】JAクレイン(山梨県)新組合長に藤波聡氏2025年4月30日
-
【'25新組合長に聞く】JA新潟市(新潟) 長谷川富明氏(4/19就任) 生産者も消費者も納得できる米価に2025年4月30日
-
備蓄米 第3回は10万t放出 落札率99%2025年4月30日
-
「美杉清流米」の田植え体験で生産者と消費者をつなぐ JA全農みえ2025年4月30日
-
東北電力とトランジション・ローンの契約締結 農林中金2025年4月30日
-
大阪万博「ウガンダ」パビリオンでバイオスティミュラント資材「スキーポン」紹介 米カリフォルニアで大規模実証試験も開始 アクプランタ2025年4月30日
-
農地マップやほ場管理に最適な後付け農機専用高機能ガイダンスシステムを販売 FAG2025年4月30日
-
鳥インフル 米デラウェア州など3州からの生きた家きん、家きん肉等 輸入停止措置を解除 農水省2025年4月30日
-
埼玉県幸手市で紙マルチ田植機の実演研修会 有機米栽培で地産ブランド強化へ 三菱マヒンドラ農機2025年4月30日
-
国内生産拠点で購入する電力 実質再生可能エネルギー由来に100%切り替え 森永乳業2025年4月30日
-
外食需要は堅調も、物価高騰で消費の選別進む 外食産業市場動向調査3月度 日本フードサービス協会2025年4月30日