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大手外食企業のコメ単収倍増計画プロジェクトX【熊野孝文・米マーケット情報】2021年7月27日

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ワクチンを2回接種して晴れてコメの産地に出かけられるようになった。情報の価値は移動した距離に比例すると言った人がいるが、まさにその通りで、驚くような情報がいくつもあった。一つは東北で8月中に刈取り出来る圃場があること。昨年の冬に播種して越冬して発芽、出穂期を迎えている水田があること。直播でコンスタントに反収700㎏以上の収量を上げている生産者がいること。極めつけは外食企業の中にコメの反収倍増計画に取り組んでいた企業があること。

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本来、農産物の生産者にとって最大の目的は単位面積当たりの収量を上げることである。ところがコメは減反政策が始まって以来、それがタブーとなってしまい、産業として成り立つ基盤を失い国際競争力も無くしてしまった。減反政策は終わったのではないかと思われる人もいるかもしれないが、それは認識不足で、単に出口対策(過剰米処理対策)が入口対策(主食用米減らし対策)に変わっただけの話で、投入される税金の額は膨らむ一方で、財務省は破滅的なシミュレーションを示している。なにせ減反政策が始まった当初、主食用米から他作物への転作奨励金の予算額は700億円程度であったが、現在はその5倍近い3300億円にも達している。これはあくまでも直接支払いの税金であり、コメに係る税金を全部合計すると生産額に匹敵する額に膨らむ。

7月21日に秋田県大潟村で開催されたジャパン・パックライス秋田の無菌米飯工場落成式の式典で、生産調整を差配する立場にある新しい農産局長が祝辞で、この事業を推進して来た代表者に対して「これまで需要のある作物への転換など先進的な取組みを率先して行い、その具体的事例として、変化するニーズを的確に捉え、無洗米や発芽玄米、さらには米粉事業、コメパスタ製造販売に取り組まれた」ことなどを紹介、「これらはまさにパイオニアとして新たな市場を開拓されて来たと言え、さらに平成28年には未来共創ファーム秋田を設立、加工業務用玉ねぎの生産に取り組まれ、国が推奨する作物への転換を大規模に行っている」と述べた。

これまでの大潟村の減反闘争を知る者にとっては皮肉かと受け取られない内容だが、ではなぜこの事業の代表者に限らず、かつて減反に反対して来た闘士たちが、国が推奨する高収益作物への転作に取り組むようになったのか? それには大きな理由がある。大潟村は干拓事業で村が発足してちょうど半世紀になる。干拓地では農業用の灌漑用排水路が必要で、これがちょうど更新しなければならない時期に来ている。その予算額は490億円にもなる。

この予算を獲得する際の条件が主食用米から転作だったのだ。八郎潟干拓事業は国家プロジェクトで、大潟村の生産者は半永久的に国家プロジェクトという呪縛から逃れられないのである。

ではそうした呪縛がない他の産地のコメ生産者はどうなのかと言うと、単位当たりの収量アップを低コストで成功させる栽培方法を公にすることはない。その理由は今のコメ政策、生産調整の仕組みを熟知している生産者にとっては当たり前のことである。なぜそういうことになるのか詳しく説明することは控える。農水省がそうした方法を阻止するためにまたわけのわからない法の網掛けをされたら、苦労の末、せっかく画期的な低コスト栽培方法を編み出した生産者の経営を圧迫することになりかねないからである。同じ理由で反収倍増計画に着手した外食企業のことも公にするわけにはいかない。

この事業の目的は、単位当たりのコメの収量を2倍にして生産コストを抑え、自社で使用するコメのうち2000トンを確保するというものであった。ただし、この事業は中断している。

その最大の理由は、反収をアップすることによって地区の生産目標の目安数量が減らされるという懸念を持たれたからである。

膨らみ続ける生産調整の助成金は、その地区に産地交付金がいくら配分されるかが農業者の最大の関心事になっている。なにせ主食用米を生産するより単位面積当たりの助成金額が多いという地区も珍しくないのだから、市場に目を向けず助成金ばかりに目が向いている生産者を責めるのは酷である。

7月29日に食糧部会が開催され、コメの需給見通しが農水省より示されることになっている。この席で出席者の一人からでも今のコメ政策でコメが産業化され、競争力を得て海外にも輸出できるようになるのか? 真正面から糺す人がいれば良いが、おそらくそうした質問は出ないだろう。

本コラムの記事一覧は下記リンクよりご覧下さい。

(株)米穀新聞社記者・熊野孝文氏のコラム【米マーケット情報】

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