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アメリカ型機械化と選択的拡大の推進【酒井惇一・昔の農村・今の世の中】第157回2021年7月29日

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「山麓に住むあるお百姓、棚田にある自分の田んぼの枚数を数えるのが楽しみ、あるとき一服するために蓑(みの)笠をとって畦道に座り、いつものように一枚。二枚と田んぼを数えていった、ところが31枚(だったと記憶しているが、地域によってこの枚数が違うようである)あるはずの田んぼが1枚足りない。もう一度数えてみた、やはり30枚しかない。青くなってまた数え直して見た、しかし何度やっても同じである。どうしたのだろう、青くなって立ち上がり、蓑笠をつけて歩きながら数え直してみた。あった、31枚あった。何てことはない、一枚は脱いだ蓑の下に隠れていただけだった。」

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これは有名な民話。若い方も聞いたことがあるだろうが、これは山間傾斜地の田んぼの零細区画を笑い話にしたもの、全国各地にあり、私も小さいころ聞いて笑ったものだった。といっても、私たちの地域の田んぼも、蓑に隠れるほどではないが小さく、盆地の傾斜にあわせた大小形状さまざまの田畑を耕作していた。とりわけ田んぼは水を湛えておかなければならないので地表面は均平でなければならず、そうした圃場を人力でつくらなければならせないのだから、広く真っ平らにするのは限界があり、どうしても零細不整形区画にならざるを得なかった。

しかしそれでは畦畔にとられる面積が多くなり、ましてや牛馬で耕起するのは大変である。それで牛馬耕が普及した明治以降、5アール区画、10アール区画にする区画整理が全国各地で行われるようになった。しかしそれは相対的に平坦な地域であり、費用の多くかかる傾斜地の水田ではなかなか進まなかった。私の故郷の山形県でいえば庄内平野では10アールの区画整理が進んだが、内陸部の盆地はまったく進まず、まさに零細分散耕地のまま、耕耘機の導入すらままならない状況にある田畑も多かった。

これでは大型農業機械の導入などできるわけはない、水田であればせめて100メートル×30メートル=30アール区画に整備しなければならない。また機械が入りやすいように暗渠排水もしなければならない(これは増収にもつながる)。

そして理想とするアメリカのように、大型トラクターを導入して耕起・代掻きをしよう。しかし問題は田植え、これに対応する機械は欧米にはない。アメリカでは田植え、苗代はなく、田んぼに種を直接撒いている、それもヘリコプターを使ってだ。そうだ、それでいこう、直播でいこう。

防除=薬剤散布もヘリコプターで行い、そのまま育てて収穫すればいい。

稲刈りは、大型コンバインを導入する。ただしそうすると乾燥ができなくなる、稲わらが使えなくなるという問題が起きる。それは安い石油を燃やし、その熱て乾燥させれば解決できる。その火力乾燥と貯蔵、籾摺りもいっしょにできる共同利用施設=ライスセンターをつくり、みんなで利用すればいい。そしてそこで脱穀、調整して販売すれば省力化も可能となる。

稲わらは、縄を始めとするこれまでの藁工品のプラスチック製品による代替、堆厩肥も化学肥料による代替でいらなくなっているし、籾殻も石油燃料による代替で不要になっているので、捨てても問題はない。

こうした理想の稲作の実現で農業構造の改善、労働力の農外流出、農産物の価格低下を図っていこう。

同時に、低価格の麦・豆などに替わるものとして野菜、果樹の生産を拡大していこう。また、役畜に替わるものとして肉、乳、卵等の生産、つまり用畜の導入と拡大を図っていこう。これらの作目・部門は「成長農産物」であり、この「選択的拡大」を図っていこう。

高度経済成長下での都市勤労者の増加、肉体労働が少なくなり、狭い場所で一部の神経のみを酷使させるように変わってきた労働様式、厳しい通勤ラッシュ、狭い住宅と軽労働化した家事、そして所得水準の上昇等々は、野菜、果実、畜産物等の需要を増加させるものなので、それに応えていく必要があるからだ(畜産物については、前にも述べた食の欧米化の推奨、欧風化しなければ文化にあらずというような風潮、欧米式の生活スタイルへのあこがれ等も需要増の一因とはなっているが)。

そのために、畜産・園芸の導入と規模拡大・施設化、産地形成を図り、稲作と同様にその生産構造を大きく改善していこう。

こうした農業構造改善の実現のために、国公立の農業試験研究機関が研究開発に取り組むと同時に、その先頭を切って取り組む地域(パイロット地域)を選定し、そこに補助融資を集中して全国の模範としていこう。

こうした考えのもとに実施されたのが、農業構造改善事業だった。

本コラムの記事一覧は下記リンクよりご覧下さい。

酒井惇一(東北大学名誉教授)のコラム【昔の農村・今の世の中】

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