(243)インドのコメ輸出【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2021年8月6日
コメの種類は複数ありますが、とりあえず世界の年間生産量は5億トン強(精米ベース)と理解しておきましょう。米国農務省の公表数字を見ると、2021/22年度のコメの年間貿易量は約4700万トンであり、生産量の約1割が貿易に回ります。さて、そこでインドのコメです。
世界のコメの生産量は年間約5億トン強だが、最大生産国は中国(1.49億トン)である。次いでインド(1.21億トン)があり、この2か国で世界の総生産量の53%を占めている。ちなみに、生産量第3位と第4位はバングラデシュとインドネシアであり、各々3533万トンと3530万トンで拮抗しているが、両国を合わせてもインドや中国には遠く及ばない。計算上は上位4か国の合計で3.4億トン、総生産量の約3分の2を占めている。
ところで、マクロで見た場合、生産国の国内需要が9割というコメにおいて、現在の輸出最大手はインド(1550万トン)である。この後にタイ(650万トン)とヴェトナム(630万トン)、そして第4位のパキスタン(430万トン)が続く。上位4か国の輸出合計は3260万トン、総輸出量の約7割(69%)を占めている。
もしかすると、多くの日本人は現在インドがコメ輸出で世界1ということを認識していないかもしれない。コメ輸出は過去20年間で大きく変化した。簡単に言えば、タイやヴェトナム、パキスタンなどの伝統的な輸出国は今でも健在だが、国際市場への参加という面ではインドの輸出の伸びが著しい。そのきっかけと動きを振り返ると、日本のコメ輸出に必要な何かが見えてくるかもしれない。
世界で栽培されているコメには大別してジャポニカ米とインディカ米がある。日本人にとってコメとは丸みがあり粘り気の元となるアミロペクチンが豊富なジャポニカ米のことを示すことが大半だが、世界ではやや異なる。ざっと言って85%程度がインディカ米と考えれば良い。つまり、我々は圧倒的少数派と認識しておくことが重要である。
日本や韓国はほぼ100%がジャポニカ米だが、世界最大のコメ生産国である中国はどうか。地方にもよるが全体としては3分の2がインディカ米と考えて良い。これはコメ消費の面で見た場合、中国市場は内部で「好み」が異なることを意味している。
さて、インディカ米とは、インド料理店などでよく出される細長く、比較的サラッとしたコメである。この中でも最も香りが良いとされているコメがバスマティ(basmati)米であり、最近では日本でも知られている。
国際市場におけるインドのコメ輸出は、筆者が穀物取引の現場を離れた15年ほど前には年間200~300万トン程度であった。その後、2000年代の終わりにインド政府は非バスマティ米の輸出を解禁し、国際市場で一定のポジション獲得に動く。インドはそれまでも輸出を積極的に指向したことがあり、これはいわば再参入のような形であった。
その結果、2011年から2012年にかけてインドにリードされた形で世界のコメ相場は大きく下落する一方、インドのコメ輸出はわずかの期間に1000万トン水準にまで到達したのである。この段階でコメの輸出市場は一度、大きく再編成されたと言っても良い。
市場での新たなポジションを獲得した後、インドのコメ輸出は2000年代を通じて概ね年間1000万トン以上を継続してきた。さらに2019年以降は1500万トン水準となり、今や国際コメ輸出市場の最大手の地位を揺るぎないものにした訳である。
思い起こせば20年ほど前、古巣である先輩が「これからはインドだ!」と何度も強調していた。人口や市場の面で潜在性は理解しつつも、現実の日々の取引においては極めて規模の少ないインド産穀物に興味を示した関係者は一部の技術者を除けば非常に限られていたと記憶している。どこまで先を見れば良いか、の議論は難しいが、この15年を振り返るとインドはまさに多数派としてのコメ輸出戦略を仕掛け、地位を確立してきたということになろう。
* *
世界のコメの中でジャポニカ米はあくまでも少数派ですが、少数派には少数派の戦い方がありますし、やり方をうまくすれば単位当たりの収益性はむしろ少数派の方が高い仕組みを実現可能なはずです。あとはそれをビジネスとして、どう仕掛け、確立できるかどうか、ここも知恵の絞りどころですね。やってはいけないことは、多数派の真似をすることです。
本コラムの記事一覧は下記リンクよりご覧下さい。
三石誠司・宮城大学教授のコラム【グローバルとローカル:世界は今】
重要な記事
最新の記事
-
米粉で地域振興 「ご当地米粉めん倶楽部」来年2月設立2025年12月15日 -
25年産米の収穫量746万8000t 前年より67万6000t増 農水省2025年12月15日 -
【年末年始の生乳廃棄回避】20日から農水省緊急支援 Jミルク業界挙げ臨戦態勢2025年12月15日 -
高温時代の米つくり 『現代農業』が32年ぶりに巻頭イネつくり特集 基本から再生二期作、多年草化まで2025年12月15日 -
「食品関連企業の海外展開に関するセミナー」開催 近畿地方発の取組を紹介 農水省2025年12月15日 -
食品関連企業の海外展開に関するセミナー 1月に名古屋市で開催 農水省2025年12月15日 -
【サステナ防除のすすめ】スマート農業の活用法(中)ドローン"功罪"見極め2025年12月15日 -
「虹コン」がクリスマスライブ配信 電話出演や年賀状など特典盛りだくさん JAタウン2025年12月15日 -
「ぬまづ茶 年末年始セール」JAふじ伊豆」で開催中 JAタウン2025年12月15日 -
「JA全農チビリンピック2025」横浜市で開催 アンガールズも登場2025年12月15日 -
【地域を診る】地域の農業・農村は誰が担っているのか 25年農林業センサスの読み方 京都橘大学学長 岡田知弘氏2025年12月15日 -
山梨県の民俗芸能「一之瀬高橋の春駒」東京で1回限りの特別公演 農協観光2025年12月15日 -
迫り来るインド起点の世界食糧危機【森島 賢・正義派の農政論】2025年12月15日 -
「NARO生育・収量予測ツール」イチゴ対応品種を10品種に拡大 農研機構2025年12月15日 -
プロ農家向け一輪管理機「KSX3シリーズ」を新発売 操作性と安全性を向上した新モデル3機種を展開 井関農機2025年12月15日 -
飛翔昆虫、歩行昆虫の異物混入リスクを包括管理 新ブランド「AiPics」始動 日本農薬2025年12月15日 -
中型コンバインに直進アシスト仕様の新型機 井関農機2025年12月15日 -
大型コンバイン「HJシリーズ」の新型機 軽労化と使いやすさ、生産性を向上 井関農機2025年12月15日 -
女性活躍推進企業として「えるぼし認定 2段階目/2つ星」を取得 マルトモ2025年12月15日 -
農家がAIを「右腕」にするワークショップ 愛知県西尾市で開催 SHIFT AI2025年12月15日



































