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70年代の麦作奨励と「うどんの花」【酒井惇一・昔の農村・今の世の中】第212回2022年9月1日

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今年の仙台の夏はほぼ毎日曇天、そして雨、まさに冷夏だった。「暑い」と思う日は何日あっただろうか。これが20世紀であれば今年は冷害かと大きなニュースになったことだろう。ところが、大雨、洪水、崖崩れ注意のニュースはあってもそうした農業関連のニュースは聞かなかった。外国産小麦値上げ・コロナ不景気の話しはあったが。世の中変わったものだ、何か淋しい、いや悲しい。
それはそれとして、話をまたそうした状況ではなかった頃、「その昔」に戻らせていただく。

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日本の麦作・大豆作が壊滅状態になったころの1972~73(昭47~48)年、前にも触れたように、世界的な食糧危機、輸入穀物等の価格暴騰、アメリカの大豆輸出禁止措置等々で日本国内も大混乱に陥った。それを契機に、政府は麦・大豆・飼料作物等の国内での生産の復活、増産に取り組むようになった。特に減反した水田への麦作付けが奨励された。

これはきわめてけっこうなことだった。そして農家も取り組んだ。

しかし容易ではなかった。何しろ20年近くも栽培したことがなく、農業青年たちの中には初めて麦を見るなどというものも多かったからだ。その技術は低く、反収はあがらない。宮城県のある集落に行ったとき、転作水田に植えた大豆を見せてもらったら、葉や幹は見事に青々と茂っていたが、実はろくに生っていなかった。麦も同じようなものだった。技術が低いどころか作り方すらわからなくなっていたのである。

20年も栽培せず改めて麦、大豆をつくろうと思っても、20歳代はもちろん40歳代も作り方がわからない。50歳代以上は栽培の経験はあるがうろ覚えになっている。技術が身に染みつく前にやめてしまっているからである。若者のなかには麦を生まれて初めて見るものすらいた。当時の私の研究室の3年生数人に聞いたら全員麦を見たことがないと答えた、農家出身であってもだった。私にはショックだった、続く言葉が出なかった。

ある村にいったときこんな話を聞いた。

農水省の若いキャリアが当時の減反政策にもとづく水田転作の視察に来たのでソバの転作田を見せた。そこで初めてソバの花を見たらしいそのキャリアは感激して言った。

「きれいなものですね」

ここまではよかった。続けてこう言った。

「来年は『うどんの花』を見たいですね」

冗談で言ったのか、本気で言ったのか、一瞬みんなで彼の顔を見たという。

麦とうどんの関係もわからないほど麦栽培は国内で縁遠くなっていたのである。

約20年にわたって麦作の技術、技能の継承がなされてこなかったことがこの結果だった。このことは、農業の場合、一度生産が途切れるとその復活は容易ではないことを教えるものである。当然のことながら、この間地域に適した技術の開発もなされてこなかった。これがまた低収量をもたらす。

そこで必要となるのが普及所による栽培技術の指導である。しかし普及員だって忘れているし、若い普及員などはまったく知らない。それなら県の農業試験場が普及員を指導すればいい。ところがその試験場もほとんど麦、大豆の試験研究はやらなくなっていた。

国立の農業試験場も同様であった。たとえば、麦の栽培の研究室は中国農試に一つ、研究員は四人だけにされてしまっていた。麦作が畑作の一つの中心をなしていた北海道農試の研究室すら廃止されたのである。これでは世界に誇ったわが国の麦作技術、その研究の発展どころか、継承すら十分にできない。一定の研究蓄積のもとに新たな発展があり得るのだが、その蓄積が途切れさせられたのである。

さすがに政府も世界的食糧危機、転作対応のために70年代後半から麦、大豆の試験研究にも力を入れるようになった。しかし、20年間のブランクは大きかった。もしも研究が継続されていたら、もっと事態にきちんと対処でき、現在よりも技術は発展していたのではなかろうか。

このことは研究の継続、継承、蓄積の重要性、試験・研究機関の重要性を教えるものである。経済的に引き合わなければ農家が栽培をやめてしまうのはやむを得ないが、経済性を考えなくともいい国公立の大学、試験研究機関はそれができるし、やるべきなのである。

ところがそれは容易ではなくなっている。最近の政財界は、大学や試験研究機関に今すぐ役にたつ(カネになる)研究教育を要求しているからである。そしてそういうところだけを重視し、基礎研究や継承・継続のための研究などいま目立たない研究にかかわる人員や研究費を減らそうとする。もしも科学技術立国をいうならばこれは大きな誤りである。もちろん、学問の発展や社会の要請に対応して新しい学問分野を創出することが重要であることはいうまでもない。それをスクラップアンドビルドでやろうとしていることに問題があるのである。困ったものだ。

学者の我田引水の話しになってしまったが、麦の話の続きは次回とさせていただく。

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