飢えるカムJAPAN!【小松泰信・地方の眼力】2023年5月17日
先進7カ国(G7)広島サミットが5月19日(金)から21日(日)に開催される。
「G7農業大臣声明2023」と「宮﨑アクション」の注目点
4月22、23日には、G7農相会合が宮崎市で開かれ、「G7農業大臣声明2023」と「宮﨑アクション」を採択した。
「G7農業大臣声明2023」(仮訳)は、無題のIから、Ⅱ現在及び将来世代のニーズに即した強じんで持続可能な農業及び食料システム、Ⅲ持続可能な生産性向上のための実践的な措置、Ⅳ強じんで持続可能な食料システムのための更なるイノベーションと投資の重要性、民間セクターや関係者も取り込む必要性、Ⅴ国際的な展開と将来的な連携に向けて、これら5節が28のパラグラフから編まれている。
「強じん」「食料システム」そして「持続可能」が複数回用いられていることから、「食料システム」の脆弱化が地球規模で進み、持続可能性に赤信号が点滅していること、そしてそれへの危機感が伝わってくる。
大臣声明を踏まえての「宮﨑アクション」は、「より生産力が高く、強じんで持続可能な農業・食料システム」の達成を目指し、12の行動を整序している。
なかでもつぎの2項目に注目した。
「木材やその他産品のための持続可能な森林経営やアグリツーリズムといった、農業に付随する収入の多様化の促進、公共インフラの改善を通じて農村の活性化を支援する」
「持続可能な農業サプライチェーンへの継続的な移行を促進するとともに、農業生産によって森林減少・劣化が起こらない持続可能なサプライチェーンへの支援を強化する」
農業と林業、農地と森林の間にある「親和的関係性」と「排他的関係性」の両面への配慮が求められており興味深い。
農業問題は「命を守る」問題
宮崎日日新聞(4月22日付)の社説は、「家畜のふん尿や焼酎かすなど未利用資源が大きな可能性を秘める。新富町内では家畜ふん尿を用いた発電と肥料生成のシステム構築に向けて、新たな動きが芽生えている。全県的な広がりへのターニングポイントであり、この節目に農相会合が開かれる意義とメッセージ性は大きい。次代の農業づくりにつなげたい」と、開催県ならではの期待を寄せる。
さらに、「気候変動による災害の激甚化、人口膨大といった地球規模の課題の中で食糧危機が深刻化している。さらに新型コロナウイルス禍や紛争で世界の飢餓人口が増大していることは国際社会の懸念材料だ。農業の維持と発展はもはや『食卓を彩る』以前に『命を守る』問題でもある。こうした世界的な課題を背景に開催される農相会合では、解決に踏み出す国際連携の力を示してもらいたい」と、世界的視点からも期待を寄せている。
軍事費増えて国民飢える
南日本新聞(4月26日付)の社説は、「自国生産の拡大を意味する『生産性の向上』を打ち出した」点を評価する。これまで、各国が補助金による農業保護に動く懸念があったことから、国際的な場で生産拡大を狙う議論は避けられてきたからだ。
また、「世界の食料価格が1%上昇するごとに、1000万人近くが1日1.9ドル(約248円)未満で暮らす「極度の貧困」に陥るとの世界銀行の試算がある。グローバルな食料危機に共同で行動することが必要だ」と訴えるとともに、「今回の農相会合声明が提示した処方箋の即効性は乏しい」との批判を紹介し、さらに踏み込んだ可及的速やかな対応を求めている。
秋田魁新報(4月26日付)の社説も、「G7の中で最も食料安保に不安を抱えているのが議長国である日本だ。足元の食料自給率向上を図ることも急務だろう」とする。
「もはや『カネさえ出せば食料を買える』時代ではない」にもかかわらず、日本の食料自給率は38%と「異次元」の低さ。「危機意識が足りな過ぎるのではないか」と怒りを隠さない。
そして、「いざというとき、急に国内生産を高めることは難しい。耕作放棄地、生産者の高齢化や減少などの課題は急に解決できるものではない。燃料や肥料、飼料などの農業資材の確保にも不安が残る」として、「日本は各国と足並みをそろえるだけでなく、先行き不安な自国農業の現状にしっかり目を向けるべきだ。国民が飢える懸念を放置し、防衛予算増額に注力する国であってはならない」と急所を衝く。
対抗アクションを開催した農民連
農民運動全国連合会(農民連)の機関紙「農民」(5月15日付)は、農民連が、4月22、23日開催のG7農相会合には、市民や農民の声が反映される仕組みがないとして、23日に宮﨑市内で対抗アクション(スタンディング宣伝とオンライン学習交流会)を開催したことを伝えている。
学習交流会で、内田聖子氏(アジア太平洋資料センター共同代表)は、「持続可能な農業や、貧困・飢餓をなくすことにG7が真剣に取り組むならば、農業や農地を金融化し、世界の食料生産と消費のバランスを支配するアグリビジネスへの規制を本気で行わなければならない」と訴えた。
松平尚也氏(有機農家、AMネット代表理事)は、「共同声明では小規模や小農、アグロエコロジーという言葉が使われているが、自由貿易主義や新自由主義路線から脱却できない、本来の持続可能な農業とは真っ向から対立するものだ」と厳しく批判した。なお氏は、同紙への寄稿で、「アグロエコロジーは、農民がその主権を求めてボトムアップで構築してきた実践であり、G7のようなトップダウンの発想とは真逆にある考え方」であり、言葉の「簒奪(さんだつ)」と糾弾している。
そして、長谷川敏郎氏(農民連会長)は「食料・農業危機の問題を乗り越えていくための運動として、世界の仲間たちが実践と研究を重ねて作ったアグロエコロジーという言葉と意義を大切にして、広げていきたい」と決意を表明した。
この危機感をどう伝える
食料や農業が、地球規模で危機的な状況であるにもかかわらず、メディアの関心は乏しい。社説に限って言えば、G7農相会合を取り上げた全国紙は無かった。無い物ねだりをする気はないが、これが食料後進国日本の現実。まさに、飢えるカムJAPAN!
「地方の眼力」なめんなよ
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