(345)「絹の道」逆流:横浜・八王子・五日市【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2023年8月18日
少し東京の西の方の話をしたいと思います。
江戸・日本橋から全国へ伸びる五街道のひとつに甲州街道がある。読んで字のごとく甲州街道とはかつての甲州(山梨県)へ続く道である。少し調べて見ると、日本橋から、内藤新宿、高井戸、府中、八王子、大月、甲府などを経て、下諏訪で中山道と合流するまでの約53里、200km強の区間に44の宿場があったという。江戸時代のビジネス・パーソンは、この旅程をほぼ1週間で踏破したらしい。
現代の地図に置き換えると、東京から真西に山梨、そして少し北上して長野へと至るルートである。途中最大の難所が笹子峠である。
さて、江戸から下諏訪に行く途中、甲州街道沿いの宿場でビジネス上、恐らく最も重要な機能を担った場所は八王子であった。八王子は意外と横浜に近い...ということを筆者が認識したのは、高校時代、現在のJR横浜線を使って町田方面から通学してきていた同級生達と知り合ってからである。
横浜へ行く場合、それまでの筆者の感覚では、立川から東京へ中央線ルートで移動し、そこから南へ動く...というのが慣れた感覚であった。それが、立川よりさらに西の八王子が直接横浜と繋がっていたことを現実感覚として理解したときの衝撃は今でも覚えている。
後年、そのルートがかつては「浜街道」と呼ばれ、「絹の道」としての重要ルートであったことも知った。明治から大正期の半世紀以上を通じた期間における日本の農産物輸出のNo.1は圧倒的に絹である。輸出構成比でみた場合、現代の機械・機器に相当する水準であり、最盛期の鉄鋼や自動車などでもかつての絹にはかなわない。
八王子は関東周辺の絹の大集積地でもあり、それが現在の町田を経て横浜へ運ばれ、海外へ輸出されていた。このルートの最大の難所は鑓水峠(やりみずとうげ)である。以前、日本の絹輸出を調べた際、「鑓水商人」という言葉に出会い、不思議な感覚に陥ったことを覚えている。八王子から鑓水峠を越えて少し南下すれば、そこは現在の相模原、神奈川県に入る。距離的には八王子から町田までと、町田から横浜までが概ね等しいようだ。最近はこうした旧街道を歩くことを楽しむ人も多いようで、実際に歩いた記録をwebやブログなどで見ることもできるため、関心のある方は探してみると面白い。
ところで、多摩川の支流に秋川という川がある。この川の名前が付いた道に秋川街道がある。これは八王子と青梅を結ぶ全長20km余りの南北ルートである。途中でJRの武蔵五日市駅を通る。
五日市と言えば、筆者などの固定観念では立川から青梅線で拝島まで行き、そこで五日市線で真西に終点まで行った"終着駅"...という印象が強い。これはJRの中央線、青梅線、五日市線という鉄道の路線図が幼少時から無意識にインプットされていたためであろう。
しかしながら、鉄道の路線図を外して純粋に地形図だけで見ると(注1)、南から横浜、八王子、五日市、青梅がしっかりと繋がるから面白い。昔、「五日市憲法」という五日市の地元の人々や五日市に集った人々が作成した民間の憲法草案について聞いたことがあるが、その時は、なぜ、憲法草案が五日市で作られたのかということが腑に落ちなかった。
鉄道は確かに便利だが、考えてみれば当時は中央線など存在しておらず、旧街道が恐らくは唯一のヒト・モノ・カネ、そして情報の流れるルートであった訳だ。海外から入った最新の知識や情報が、政の中心江戸というフィルターを通さず、絹の道を逆流し、八王子を経て五日市で煮詰まったと考えれば納得できる。
* *
この夏は、久しぶりにこうした旧街道を歩いてみたいですが、時間が取れるかどうか。本当にゆっくり歩くのはもう少し先になりそうです。
(注1)この興味深く重要な示唆は、原武史『地形の思想史』(2023)による。
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