【浜矩子が斬る! 日本経済】愚者の三段論法が巻き起こす消費税減税の大音声:犬を猫だと思い込むなかれ2025年5月8日
日銀の植田和男総裁は今、さぞや、苦渋の時を過ごしていることだろう。就任以来、彼はお手玉師を演じることを強いられてきた。三つのお手玉を落とすことなく、空中で躍らせることを求められてきた。だが、ここに来て、第4のお手玉が勝手に割り込んで来た。
エコノミスト 浜矩子氏
世の中、消費税減税論の旋風が吹き荒れている。なぜだろう。
参院選が近い。だから、政治家たちが点数稼ぎに突っ走り始めた。これがシンプルな答えだ。一応の正解だとも言えるだろう。だが、なぜ消費税減税が政治的点数稼ぎにつながるのだろう。そもそも、政治的点数稼ぎとは何か。人気取りか。世論調査の数値を上げることか。それとも、世のため人のために役に立つことか。
政治家たちが世のため人のためになることを忘れて、単に支持率アップを目指す時、必ず出現する妙な論法がある。それは次のように進行する。
・今すぐ、何かをやらなければならない。
・ここに、今すぐやれることがある。
・だから、これが今すぐやるべきことだ。
筆者は、これを愚者の三段論法と名付けたい。実際に、そう名付けられているのだと、どこかで読んだことがある気もする。
愚者の三段論法は、別名、「犬は猫論法」とも言える。その流れは次のようになる。
・我が家の犬は四つ足である。
・猫は四つ足である。
・だから、我が家の犬は猫である。
こんな具合に、とんでもない思い違いがまかり通ってしまうことがある。政治家たちが成果を急ぐ時、集票を追い求めて焦る時、愚者の三段論法が彼らを虜にし、翻弄する。
消費税減税ブームも、この愚かな論理の産物だ。そのように思えてならない。今すぐ、何かを打ち出さなければならない。今すぐ、手っ取り早く打ち出せるのが消費税減税だ。だから、消費税減税を今すぐ打ち出すべきだ。誰もが、この論理の通底音に押し流されて消費税減税の大合唱に参加してしまっている。かねてより、一貫して消費税廃止を主張して来たのが日本共産党だが、他の政党たちは、概ねにわか消費税減税論者だ。
消費税減税に対しては、諸々の世論調査上の支持率が高い。それは無理もないと思う。物価が高騰し続けている。お米の値段が下がらない。トランプ関税で景気の先行きが危うくなるかもしれない。こんな心配事の山が迫って来ていれば、多少とも、生活上の負担の軽減につながるだろうかと思われる消費税減税は歓迎したくなるだろう。
だが、愚者の三段論法タイプの政治家たちは、本当に人々の生活苦を軽減したいと考えているのか。現行の消費税がどれほど人々の生活を圧迫しているかについて、しっかり検証した上で、消費税減税を唱えているのだろうか。弱者救済に注力しようとしているなら、どこにどんな弱者たちがいて、彼らを苦しめているものが何であるのかを、しっかり突き止めなければならない。この探求作業の結果が示すのが、消費税減税だということなのか。
はたまた、愚者の三段論法政治家たちは、消費税減税が即効的な個人消費の喚起につながると考えているのか。消費をけん引力として、彼らが大好きな経済成長率が高まることに期待をかけているのか。人々を減税に引っ張られてのうかれ消費に誘導しようというのか。そうだとすれば、そこには、どうしても一定のよこしまさを感じてしまう。
さらに言えば、消費税減税にどこまで実際に消費喚起効果があるのか。消費税減税がいつから実施されるのかが判明すれば、何が起こるか。それは、その時点に向かっての幅広い買い控えだ。その上、減税の時が来たからと言って、それまでの買い控え分の穴埋め的に消費ブームが盛り上がるとは限らない。せいぜい、買い控えによる落ち込み前のレベルに戻る程度に過ぎない可能性が大きい。
この厳しい世の中の荒波から、人々を本当に守りたいと思うなら、政治家たちは愚者の三段論法と思い切って決別すべきだ。トランプ関税が最悪の形で実現してしまった時、どこで誰がどのように最も傷つくのか。米不足問題の本質はどこにあるのか。腰を据えて調査するべきだ。犬は決して猫じゃない。
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