コメ高騰と政府の英断【小松泰信・地方の眼力】2025年5月21日
「売るほどある」は古典的なオヤジギャグ。言われたら愛想笑いで応えるレベルだが、今年の流行語大賞の可能性あり。
農林水産大臣の実質更迭
この古典的オヤジギャグを流行語大賞の候補に押し上げた功労者は、江藤拓前農林水産大臣。
5月18日に佐賀市で開かれた自民党佐賀県連が開いた政治資金パーティーでの講演で、価格高騰が続くコメに関し「買ったことはない。支援者の方々がたくさん下さるので、家の食品庫に売るほどある」と発言した。
国会内だけではなく広く国民世論から抗議の声が上がる中、模様眺めのためか、石破首相は19日に江藤氏を続投させる方針を表明していた。しかし怒りの炎は治まらず、21日午前8時頃実質更迭の断を下した。
怒りの声を上げる社説
「江藤農相は農林水産省のトップであり、コメを適正価格で安定供給していく責任がある。その役目を果たせていないのに、コメ不足は問題ないといわんばかりの発言は無神経で、消費者への配慮を欠いている」とするのは北國新聞(5月21日付)の社説。
江藤氏が昨年秋の大臣就任以降、コメ不足を認めず、2月半ばまで「滞留している部分はあるが、総量として足りないとの認識はもっていない」と主張していたことをとりあげ、「そんな認識だから、やること成すことが遅れがちになる。政府備蓄米を放出しても価格が下がらないのは、見通しが甘く、有効な手を打てていない証左だろう」と厳しく迫る。
「農政をあずかる閣僚の言葉とはとても思えない」で始まるのは、中国新聞(5月21日付)の社説。
発言を全面撤回し謝罪したことについても、「政治家がいったん発した言葉が消えることはない。コメの高値に苦しむ国民の感覚からは、懸け離れている」と指弾する。さらに、支持者から「『売るほど』のコメを譲り受けていることを公言する神経も理解できない」「公職を担う者としての自覚さえ欠いている」とあきれ顔。
新潟日報(5月21日付)の社説は、「大変なんですよ、コメをもらうというのも」との発言を取り上げ、「消費者の神経を逆なでするものだ。生活や生産の厳しい実態に目を向けていれば、出てくるはずのない言葉だろう。価格安定化に取り組むべき担当閣僚でありながら、責任感を欠いていると言わざるを得ない」と憤る。
北海道新聞(5月21日付)の社説も、氏が「(もらうコメには)いろんなものが交じっている。石とかが入っている」と発言をしたことに対して「農家を傷つけかねない言葉」と不快感を示す。加えて、2月の国会審議でも、食糧法に明記されている農産物の価格安定について「書いていない」と繰り返すなど、認識不足も露呈していたことを紹介する。
そして、今般の需給逼迫や価格高騰は、政府が生産調整(減反)を廃止後も実質的に続けてきたことの帰結とし、抜本的なコメ政策の見直しを急務とする。
求められる「不足を防ぐ」コメ政策
日本経済新聞(5月21日付)の社説は、「自民党農林関係の2世議員であり、消費者の懸念への想像力を著しく欠いていると言わざるをえない」と、まずは痛いところを突いている。
そして、「2024年に米価が上昇し始めて以降、農政は迷走し続けてきた。新米が出回っても上昇は一服せず、政府備蓄米を放出しても米価は下がらない」ことから、「コメ不足を心配する国民よりも、余剰を避けたい生産者に関心がいきがちな姿勢」を指摘し、対応が後手に回る一因と見ている。「支持者がコメをくれるという江藤氏の不用意な発言」がその根拠。
そしてコメ政策について、短期と中期に分けて処方箋を示している。
短期的には、「コメが十分行き渡るようにして、米価を抑えること」を急務とする。
中期的には、気候変動で生産が不安定になり、需要に合わせて生産を調整することが難しくなっているとして、「政府備蓄の増強や担い手確保、生産インフラの維持など」を提示する。
その基本テーマは、コメの「余剰を防ぐこと」から、「不足を防ぐこと」に重点を移すこと、と極めて興味深い見解を示している。加えて、その実現には「生産者だけでなく国民の幅広い理解が要る」とクギを刺している。総論としては異議はない。
コメ高騰に歯止めを
「コメ行政は失策続きだ」と断じるのは、毎日新聞(5月21日付)の社説。その理由として、「昨年夏の不足を一時的な現象とみなし、新米が出回った秋以降の米価上昇への対応も遅れた」「年明けから備蓄米の放出に踏み切ったものの、高騰に歯止めがかからない」を上げる。そして、「価格を維持するため長年にわたって生産量を抑制してきた農政のひずみ」を指摘する。
「流通に目詰まりが生じている」と説明する農林水産省に対しては、生産量が不足している可能性があることから、政策の見直しを迫っている。また、生産コストが上昇していることから、農家の所得を一定の水準に保つ方策の必要性も忘れていない。
信濃毎日新聞(5月21日付)の社説は、「今回の発言に消費者が敏感に反応した背景にあるのは、高騰の中で有効な手を打てない農政への不満だ。備蓄米放出の効果が出ないのはなぜか、流通のどこに問題があるのかなど、いまは課題を詰めるべき局面だ」として、早急に原因を解明し、有効な政策を打ち出すことを求めている。
生産者には適正価格、消費者には納得価格
青田買いの実態を伝えているのは日本経済新聞(5月19・20日付)の「迫真コメ・クライシス」。生産者の声を紹介する。
「付き合いのなかった本土の業者から頻繁に商談や訪問の連絡が入る。本当にコメがないのだろう」(沖縄県)
「いくらでも言い値が通る状況だ。コメ農家としてこんなにいい年は経験がない」(新潟県)
「商社などはJA全農あきたの水準に金額を上乗せして提示してくる。そうなると農家としては話に乗りたくなる」「JAと商社、それぞれにどれくらい出すか。今年は特に悩ましい」(秋田県)
「これからは農家も知識をつけて、JAや民間業者と交渉することが欠かせなくなる」(秋田県)
高値で仕入れたコメを安く売ることはない。だとすれば、少なくとも銘柄米の価格は下がらない。
主食であるがゆえに、生産者には適正価格を補償し、消費者には納得価格で供給する。政府の英断に期待する。
そうだろ!シンジロウ!
「地方の眼力」なめんなよ
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