【浜矩子が斬る! 日本経済】「地経学時代の到来を憂い、拒否しよう」 きな臭い戦略的思惑2025年6月20日
地経学(geoeconomics)という言葉がある。地政学(geopolitics)ではない。地経学である。世の中的に馴染みの薄い言葉だし、定義もかなりボンヤリしている。そもそも、地政学という言葉も、定義はあいまいだ。学術的には厳密な意味内容と使い方があるようだが、その辺がしっかり踏まえられることなく、いつの間にか、我々の日常の中を結構一人歩きしている。こういう言葉は危険だ。同じ言葉を使っていても、使い手によってその意味するところが違う場合がある。この違いに誰も気づかないまま、同じ言葉を使って全く別の話がやり取りされることになりかねない。
 エコノミスト 浜矩子氏
エコノミスト 浜矩子氏
この点に注意しながら進んで行きたいと思う。まず、地政学の方である。「地政学的危機」とか、「地政学的な緊張の高まり」などという言い方がメディア上でしばしば語られる。このように言う時、そこから浮上して来るイメージは、国々がその地理的位置づけとの関わりで国力の強化や領土の拡張を実現すべく、戦略的に立ち回る姿だ。そのような野望国家が出現した時、周辺地域における地政学的緊張感が高まる。
地経学はどうか。これもまた、使い手によってそこに様々に異なる意味が込められている観があって、厄介だ。1990年代に生まれた用語らしいが、実際に使われることはさほど頻繁ではなかった。それが、ここに来てちょっとしたキーワードとなり、論議の対象となっている。そうした論議の中身をざっくり踏まえてざっくり定義づければ、さしづめ、「地政学的野望を持つ者が経済を野望達成の手段として用いる」という感じになるだろう。自分の言うことを聞かないなら、高関税でとっちめるぞ。自分が欲しいものをよこさないなら、経済的に干上がらせるぞ。こうした恫喝を地経学的攻勢と言う。さしあたり、このように考えてよさそうだ。要は経済の武器化だ。
このように言えば、皆さんの脳裏に直ちに一人の男の姿が浮かぶだろう。むろん、その男はドナルド・トランプ米大統領だ。この人の場合には、地経学のみならず、地教学もある。教育の武器化である。教育機関が留学生を受け入れすぎたり、学生たちの反体制的行動を許したりすれば、支援を打ち切るぞ、というわけだ。
思えば、ついこの間まで、我々はアメリカの「新自由主義」を警戒し、その弱肉強食性に眉をひそめていた。なんでも市場任せでいいのか。それがもたらす弱者切り捨てに対して、政策は無関心でいることが許されるのか。そのような思いを抱いていた。ところが、いまや、状況は一変している。政治が経済を振り回す。政治が経済を手段として利用して、地政学的な目的達成を狙う。一転して、そういう時代になった。そういう時代が戻って来たと言った方がいいかもしれない。かつて、帝国同士が地政学的優位を巡って争っていた時、経済的な威嚇は多分に武器として利用されていた。
地政学的乱暴者に対する経済制裁というのも、地経学の一形態だと言えるだろう。経済安全保障という言葉が盛んに使われるようになっていることも、今この時、地経学の時代が到来していることを示唆している。ここで、ある記憶がよみがえる。故安倍晋三元首相が2015年に訪米した際、連邦議会向けの演説の中で、TPP(環太平洋パートナーシップ協定)に言及し、「TPPは経済効果もさりながら、その戦略的価値に驚異的なものがある」と言った。
これを知って、筆者は愕然とした。なぜなら、戦間期の通貨通商戦争とブロック経済化が第二次世界大戦をもたらしてしまったことへの反省の中で、国々は戦後世界において経済関係に戦略性を持ち込まないことで合意したはずだからである。この安倍晋三発言こそ、まさしく地経学を地で行くようなものだった。今にして、改めてそのように思う。
高まる地経学のうねりは、日本をどこに引きずり込ん行くのか。大いに要警戒だ。
重要な記事
最新の記事
- 
            
               (459)断食:修行から管理とビジネスへ【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2025年10月31日 (459)断食:修行から管理とビジネスへ【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2025年10月31日
- 
            
               秋の果実王 旬の柿を堪能 福岡県産「太秋・富有柿フェア」開催 JA全農2025年10月31日 秋の果実王 旬の柿を堪能 福岡県産「太秋・富有柿フェア」開催 JA全農2025年10月31日
- 
            
               「和歌山県産みかんフェア」全農直営飲食店舗で開催 JA全農2025年10月31日 「和歌山県産みかんフェア」全農直営飲食店舗で開催 JA全農2025年10月31日
- 
            
               カゴメ、旭化成とコラボ「秋はスープで野菜をとろう!Xキャンペーン」実施 JA全農2025年10月31日 カゴメ、旭化成とコラボ「秋はスープで野菜をとろう!Xキャンペーン」実施 JA全農2025年10月31日
- 
            
               【スマート農業の風】(20)GAP管理や農家の出荷管理も絡めて活用2025年10月31日 【スマート農業の風】(20)GAP管理や農家の出荷管理も絡めて活用2025年10月31日
- 
            
               農業経営効率化へ 青果市況情報アプリ「YAOYASAN」に分析機能追加 住友化学2025年10月31日 農業経営効率化へ 青果市況情報アプリ「YAOYASAN」に分析機能追加 住友化学2025年10月31日
- 
            
               利用者が有機野菜の生産状況を確認 生産者と消費者が二者認証 パルシステム群馬2025年10月31日 利用者が有機野菜の生産状況を確認 生産者と消費者が二者認証 パルシステム群馬2025年10月31日
- 
            
               夜間稼働・24時間稼働へ AI搭載の自動収穫ロボット「Q」リリース AGRIST2025年10月31日 夜間稼働・24時間稼働へ AI搭載の自動収穫ロボット「Q」リリース AGRIST2025年10月31日
- 
            
               鳥インフル 米ミシガン州からの生きた家きん、家きん肉等 輸入を一時停止 農水省2025年10月31日 鳥インフル 米ミシガン州からの生きた家きん、家きん肉等 輸入を一時停止 農水省2025年10月31日
- 
            
               数量限定 ネット限定で大特価「酉の市 コメリドットコム大感謝祭」開催2025年10月31日 数量限定 ネット限定で大特価「酉の市 コメリドットコム大感謝祭」開催2025年10月31日
- 
            
               クリスマス限定「ハッピーターンズ シュトーレン仕立て」新発売 亀田製菓2025年10月31日 クリスマス限定「ハッピーターンズ シュトーレン仕立て」新発売 亀田製菓2025年10月31日
- 
            
               JA全農と共同開発 オリジナル製菓・製パン用米粉「笑みたわわ」新発売 富澤商店2025年10月31日 JA全農と共同開発 オリジナル製菓・製パン用米粉「笑みたわわ」新発売 富澤商店2025年10月31日
- 
            
               2025年度研修No.9「温室環境の計測とデータ活用」開催 千葉大学植物工場研究会2025年10月31日 2025年度研修No.9「温室環境の計測とデータ活用」開催 千葉大学植物工場研究会2025年10月31日
- 
            
               11月3日から7日は「いいさかなの日」水産物の持続的利用を推進 水産庁2025年10月31日 11月3日から7日は「いいさかなの日」水産物の持続的利用を推進 水産庁2025年10月31日
- 
            
               「第4回全国りんご選手権」最高金賞は山形県上山市「香るシナノゴールド」2025年10月31日 「第4回全国りんご選手権」最高金賞は山形県上山市「香るシナノゴールド」2025年10月31日
- 
            
               「安全」「正確」ナンバーワンは? 綾瀬市でドライバーコンテスト開催 パルライン2025年10月31日 「安全」「正確」ナンバーワンは? 綾瀬市でドライバーコンテスト開催 パルライン2025年10月31日
- 
            
               「ヒト・動物・環境の健康に通ずる、農業・食料システムにおけるワンヘルス」セミナー開催 FAO 駐日連絡事務所2025年10月31日 「ヒト・動物・環境の健康に通ずる、農業・食料システムにおけるワンヘルス」セミナー開催 FAO 駐日連絡事務所2025年10月31日
- 
            
               商系に撤退の動き、集荷競争に変調 米産地JA担当者に聞く(中)【米価高騰 今こそ果たす農協の役割】2025年10月30日 商系に撤退の動き、集荷競争に変調 米産地JA担当者に聞く(中)【米価高騰 今こそ果たす農協の役割】2025年10月30日
- 
            
               再生産可能なコメ政策を 米産地JA担当者の声(下)【米価高騰 今こそ果たす農協の役割】2025年10月30日 再生産可能なコメ政策を 米産地JA担当者の声(下)【米価高騰 今こそ果たす農協の役割】2025年10月30日
- 
            
               生産者が将来見通せる政策を 鈴木農相を表敬訪問 山野JA全中会長ら2025年10月30日 生産者が将来見通せる政策を 鈴木農相を表敬訪問 山野JA全中会長ら2025年10月30日























 
      
     
      
     
      
    

 
      
     
      
     
      
     
      
    
 
                                   
                                  
 
      
     
      
     
      
     
      
    
 
      
     
      
     
      
     
      
     
      
     
      
     
      
     
      
     
      
     
      
     
      
     
      
     
      
     
      
    





 
      
     
      
     
      
     
      
     
      
     
      
    
