どこまで理解しているのか小泉大臣【小松泰信・地方の眼力】2025年6月25日
「農家で東京のど真ん中に農協がビルを持っていることを求める人は誰もいない」とは小泉進次郎農林水産大臣。
不遜な発言を許すな
6月19日に発せられたこの不遜極まりない発言は、JA全中が業務管理システムの開発の頓挫で発生する200億円規模の損失を穴埋めするため、東京・大手町の本部ビルに所有する6フロアを手放すことを検討していることに関して記者団に語ったもの。
低レベルの発言に低レベルのツッコミを入れるのは本意では無いが、とりあえず「どこの農家さんに聞いたんですか。誰もいないということは、日本中の農家さんにヒアリングをされたんですか」「東京のど真ん中がダメなら、どこならいいとお思いなのですか。あなたが考える相応しい物件があればご紹介ください」、てな所かな。
相手するのもばかばかしい。苦労知らずの四世議員に付ける薬はないようだ。
「概算金」にまで口を出すとは
小泉農相は20日、山野徹JA全中会長らJAグループ代表と会談し、コメの集荷に当たり、JA側があらかじめ設定した仮の価格で農家に代金を前払いする、委託販売方式に基づいた「概算金」の制度を廃止し、一括で買い取るいわゆる買い取り販売への切り替えを要請した。JAが卸売業者などに販売する際の価格によって農家への最終的な支払額が増減するため、収入の見通しが立たないとの課題などを意識してのもの。小泉氏は会談後、記者団に「農家の経営見通しが立つ方向に一致することができた。米価高騰の局面を改革の好機にしたい」と述べている。
日本農業新聞(6月21日付)によれば、山野氏は「最終的には生産者が判断するが、買い取り方式というのも一つの選択肢だと理解している」と記者団に語ったそうだ。
ちなみに24年産を巡る集荷競争において、コメ価格の高騰で卸売業者などはJAの概算金を上回る価格を提示した。結果、JAは買い負ける場合が多く、JAの集荷率は26%にまで低下した。
そもそも農業協同組合であるJAは、コメに限らず農家が収穫した農産物を共同で販売する事業方式を基本としている。個々の農家組合員が個別で販売するのではなく、共同で販売することによって「規模の経済」(スケールメリット)が実現するからである。ただし、委託を受けたコメの販売が終了し精算するまでには時間がかかるため、仮払いとしての「概算金」が支払われている。もちろん、販売努力を重ねたのち、最終的な段階で、諸経費を差し引いた金額が農家に追加払いされる。
ただ農家組合員は、「出荷してもすぐに十分な収入にならない」などという不満があり、「キャッシュで、概算金より高く買ってくれるなら民間へ出す」という農家が増えていることも事実である。
「概算金」の存在理由と課題
新潟日報(6月22日付)は、「小泉大臣は仮渡し金の仕組みをどこまで理解しているのか」と、疑問を呈するJA幹部の声を報じている。
コメの主産県である新潟県は、年間を通じてコメを全国に供給しているが、県内のJAやJA全農新潟県本部は、卸と年間の販売数量を決めて契約する。価格は固定せずに上限と下限を決め、1年の中の出荷時期によって変動する契約が多いため、「最終的にいくらで売れ、経費がいくらだったか確定するのに1年以上かかる」とのこと。
前述のJA幹部によれば、「1年に1回しか取れないコメを、通年で安定して売っていくための仕組み」「仮渡し金と精算金(最終的に支払われる追加払い)を合わせれば、民間の買い取り価格と同等かそれ以上になる年もある」そうだ。
もちろん批判もある。「JAはコメを売り切ることだけ考えて、われわれの生産コストを考えてこなかった」と、不信感をあらわにするのは新潟市内の生産法人代表。
「大規模化が進み、経営の見通しを立てるため、買い取りを希望する生産者もいる」と、打ち明けるのは県内のJA関係者。
ただ忘れてならないのは、民間の集荷業者は儲かると思えばキャッシュをちらつかせてかき集めにくるが、儲からないと判断したらハナも引っ掛けない。わずかな手数料で生産指導から販売、そして精算まで,景気の良いときも悪いときも農家組合員に向き合うのが農業協同組合。短期的なソロバンだけでJAの事業を利用していたら、農業協同組合の事業力が低下すること間違いなし。それは最終的に自分の首を絞めることになる。
全農とっとりの「生産費払い」に注目
もちろん事業方式に関して、必要な改善には取り組まねばならない。
日本農業新聞(6月25日付)はJA全農とっとりが、米の概算金の仕組みを見直したことを報じている。
従来は相場や需給を踏まえて設定していたが、鳥取県内の農家の9割を占める2ヘクタール規模以下の農家の再生産価格に必要な費用を積み上げる「生産費払い」への見直しである。狙いは農家の経営安定で、2025年産米の生産費払いの水準は、JAが取り扱う主要銘柄一律で1等60キロ当たり22,000円。算出に際しては、農水省による生産費調査を活用。
全農とっとりによると、この支払い水準における農家の時給は1,500円程度となる。
この方式は24年産米から導入していたが、消費者に対して、米生産費を分かりやすく伝えるために25年産から水準を公表することにした。
ちなみに、集荷競争が激化した24年産米に関しては、JAからの委託米(共同計算米)が前年比3%増となったそうだ。その理由として、生産費払いに加えて、集荷した米の翌年7月の早期精算が好評だったことをあげている。
「農家が安心して続けられ、消費者には価格の説明ができるように費用を積み上げた。適正価格を広く示すことで、投機目的の取引抑制にもつなげたい」と話すのは小里司氏(JA全農とっとり本部長)。
小よく大をたすく
全農とっとりの取り組みで興味深いのは、2ヘクタール規模以下の農家の再生産価格に必要な費用を積み上げた点である。簡単に言えば、小規模農家が再生産可能となる価格水準を確保したことで、相対的に低コスト生産がなされている2ヘクタール以上の農家にとってもメリットは大きい。大規模経営体至上主義の小泉大臣、現場はこうして回っているのですよ。
「地方の眼力」なめんなよ
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