科学捜査研究所を捜査せよ【小松泰信・地方の眼力】2025年9月10日
近年耳にしなくなったのが「嘘発見器(ポリグラフ)」。森友問題の時、佐川宣寿財務省理財局長に用いれば、と思ったことも。
佐賀県警科捜研事件
そもそも当該器は、「嘘そのもの」を検出するものではなく、あくまでも「捜査参考資料」にすぎなかった。そして、DNA型鑑定、監視カメラ、通信解析、AIによるデータ分析など、より客観性・再現性のある科学捜査手法 が進歩することで御用済みに。
「嘘発見器(ポリグラフ)」を過去の遺物にした革新的科学捜査手法の科学的信頼性も、「担当者は不正行為をしない」という大前提に守られている。ところが、その信頼性を失墜させる事件が佐賀県警で行われていた。
県警は9月8日、科学捜査研究所(科捜研)に所属する40代の男性技術職員がDNA型鑑定を巡り、実際にはしていない鑑定を実施したかのように装って報告するなど、7年以上にわたり130件の不正行為をしていたことを発表した。同日付で男性は懲戒免職となり、虚偽有印公文書作成・同行使や証拠隠滅などの容疑計13件で書類送検された。
男性が1人で担当した鑑定632件のうち、17年6月~24年10月の130件で不正が認められ、うち9件は、事件の実際の試料を使わず、DNA型が検出されないと分かっていた過去の別の試料で鑑定し「検出されなかった」と虚偽報告。他にも、鑑定後の試料を紛失や作業経過の記録の日付の書き換えなどしていた。
「捜査や裁判への影響はなかった」証拠を示せ
毎日新聞(9月9日付)によれば、県警は「検察や裁判所に確認し、鑑定結果自体には影響ない範囲での(不正な)行為なので、捜査や公判には影響ない」と説明。佐賀地検は取材に「処分の決定や公判での証拠として使用された事例はなく、捜査や公判に影響したものはなかった」と答えた。
捜査機関による自白の強要などで冤罪(えんざい)が相次いだ反省から、客観的証拠の重要性が増している。特にDNA型鑑定は事件や事故の現場で採取した血液や毛髪を分析し、そのDNA型が容疑者や被害者のものと一致するかを調べるもので、有罪・無罪を判断する上で決定的な証拠になり得るとのこと。ひとつ間違えば、冤罪を生む「もろ刃の剣」か。
園田寿氏(甲南大名誉教授、刑法)は「捜査や公判への信頼に対する裏切り行為だ」とする。「捜査や裁判への影響はなかった」との説明に対しても「再鑑定の試料が残っていないものもある。なぜ断言できるのか」と疑問を呈し、組織的な問題として、「信頼回復のためには県警のDNA型鑑定を徹底的に洗い直し、外部の目を入れて検証した上で再発防止策を示すべきだ」とする。
凶器ともなるDNA型鑑定
現在のDNA型鑑定が「565京人(京は兆の1万倍)に1人」を特定できるとされていることから、「採取された試料の型と容疑者の型と一致した時のインパクトはとてつもない」との科捜研関係者の声を紹介するのは西日本新聞(9月9日付)。
さらに、同鑑定に詳しい識者のコメントも伝えている。
「使い方次第で武器にも凶器にもなるのがDNA型鑑定だ」(元刑事裁判官)。
「試料の採取や保存、手法に問題がなければ信用性は非常に高く、鑑定結果は裁判で尊重される」「その前提が覆ることになる。全国の警察の科学捜査にも疑念が出る」(水野智幸法政大法科大学院教授・刑事法、元刑事裁判官)。
「DNA型鑑定は間違いないという『無謬(むびゅう)神話』に惑わされてはならないということが改めて示された。こうした問題が起きた時のためにも、試料を保管して再鑑定できるよう担保しなければならない」(笹倉香奈甲南大教授・刑事訴訟法)。
記事は、8日の記者会見において、県警の首席監察官が捜査への影響について何度も否定したことに関して、「中には殺人未遂といった重大事件や性犯罪が含まれると認めた一方で、それぞれの具体的な内容は明らかにしておらず、外部の検証ははねつけた格好。そもそも、不正の対象となったのが容疑者だったのか被害者だったのかについても説明を拒んだ」ことを明らかにする。
加えて、事件関係者への説明も「考えていない」とする姿勢に、「これで説明は足りているのか。疑念を残せば、信頼回復はできない」と警告する。
全科捜研での点検は不可避
信濃毎日新聞(9月10日付)の社説は、警視庁科捜研の元幹部が、「近年は必要性をそれほど感じない鑑定も多く、現場は疲弊していた」と語っていることを紹介し、「業務量に比して人員態勢は追いついているのか」と疑問を呈している。そして、「構造的な課題があるのなら改善が要る。業務内容などのより詳しい検証が欠かせない」とする。
「信頼度が高い捜査技術だからこそ、試料の管理を含め、その運用に万全を期さねばならない」として、今回の不正が7年余りも見逃されていた理由についての検証と説明の必要性も強調している。
そして、「同様の問題、課題は佐賀県警だけのものなのか」として、長野県を含む他の都道府県警に対して、点検を促している。
新潟日報(9月10日付)の社説は、「犯罪立証につながる重要証拠を見過ごす恐れがあった」とする、ある警察幹部のコメントを重く受け止めねばならないとする。
「長年見逃され続けていたのは、佐賀だけの問題とは言えないのではないか」と指摘する識者の声を紹介し、再発防止のためにも「全国の都道府県警が同様の事案が起きていないかを洗い出し、適切な運用体制を築いてもらいたい」とする。
日本経済新聞(9月10日付)によれば、佐賀県弁護士会は9日、佐賀県警に対し「第三者機関による調査を強く求める。刑事司法の根幹を脅かす極めて重大かつ深刻な犯罪だ」とする会長声明を発表し、不正行為の詳細と再鑑定などの調査結果を開示し、再発防止策を徹底することも要請した。
これも負の安倍レガシー
故安倍晋三氏が、森友学園の認可や国有地の払い下げに、「私や妻が関係していたということになれば、まさに私は、それはもう間違いなく総理大臣も国会議員もやめる」と答弁したのは2017年2月17日の衆議院予算委員会。あれから、佐川君はじめ官僚らは天下に大ウソをつき、出世することに。この国を成り立たせていた 秩序・規範・常識・信頼 といった「土台」が音を立てて崩壊しはじめた。そしてこの国の「底が抜ける」ことに。佐賀県警科捜研の技術職員の不正が確認されたのは17年6月から。
この事件の検証は、この辺から始めることではじめて価値を持つ。
「地方の眼力」なめんなよ
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