(453)「闇」の復権【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2025年9月19日
人工衛星から撮影された「夜の地球」の写真を見られた方は多いのではないでしょうか。少し前にNASAが公開した画像で、簡単に検索できます。
小説には「不夜城」という言葉が用いられることがある。あくまでフィクションの世界と考えていたが、現代の大都市は24時間明るい。ネオンやLEDが一晩中輝き、「闇」とは無縁のようだ。
これに対し、地方では今でも日没後は一面が闇となる地域も多い。冒頭で紹介した画像を見れば、真夜中に煌々と灯がともる地域と漆黒の闇に覆われている地域が一目でわかる。これは日本に限らず、世界中どこでも同じだ。
ひとつの見方だが、現代社会では光と闇が都市と田舎を分けているのかもしれない。
さて、江戸時代までの日本では蝋燭(ろうそく)や松明などの灯りが夜間照明であり、ガス灯や電灯が普及したのは明治期以降、せいぜい150年ほど前の話である。いわゆる電気の普及は日常生活から闇を駆逐した。都市部を中心に瞬く間に「明るい時間」が拡大した結果、人々の生活における利便性は著しく向上した。
「夜が明るい」のは文明が進歩した証であり、それは都市と農村という形で人が集まる場所を二分する境界にもなったのである。白熱電球から蛍光灯、さらに近年のLEDや繁華街の多数のネオン・サインに至るまで、光がある地域では日没という太古からの期限に拘束されず、人々はいつまでも経済活動が可能になった。
古代中国から伝わる「蛍雪の功」という故事は古典の世界では知られていても、恐らく現代社会では蛍や雪の光で勉強をした経験がある人間はほぼ皆無なのではないか。それどころか、今や大都市のオフィス街では全面ガラス張りのフロアなどは、防犯上の理由なども含めて真夜中でも中が見渡せる程度の灯りがついていることも珍しくない。
光と闇のせめぎ合いを宗教や小説の世界ではなく、現実の生活という観点から振り返ると、過去半世紀以上の間、日本では圧倒的に光がその勢力圏を拡大してきたように思われる。実際、東京や大阪などの大都市圏はおろか、地方都市においても幹線道路沿いに限定すれば現代日本では24時間「不夜城」が存在していると言っても過言ではない。
一方、この光の拡大を少し異なる視点から見ると、娯楽や情報、場合によっては教育などの格差を生じさせてきた可能性もある。やや誤解を招く表現かもしれないが、過剰な光は、24時間労働や睡眠障害など、いわゆる生活の質に関わる都市問題を生じさせてきた可能性も否定できない。都市部では完全な「闇」や「静寂」を求めると、そのために特別に作成した場所や部屋などで無い限り、到達不可能になったのである。
こうした状況になると、逆説的だが、現代日本において例えば農山村における「闇」はむしろ星空観察やナイトツーリズムなどで活用可能な「資源」として注目して良いのではないかとの考えが浮かぶ。田舎の夜の暗さは、光に疲れた都市住民にとって安らぎと心身回復の場となる可能性がある。
また、完全な「闇」でなくても、プラネタリウムやディスプレイ上でしかまともな星空を見たことがない子供たちにとって、田舎の星空は直接本物を見るまたとない体験となるであろう。さらに、暗い中では、どのように道を歩けばよいかなど、先人の知恵を使える機会にもなる。
長い間、人間はいかにして光を得るかについて努力をしてきた。火や電気を用いて闇の拡大を遮り、ひと時の不夜城を作り上げてきた。だが、それに疲れた人々の中には再び静かな闇を求める気持ちが生じているのかもしれない。
もう一度、都市と農村をつなぐ貴重なツールとして、「闇」を再評価しても良いかもしれない。光が分けた都市と農村を、今度は闇が再びつなぎ直す...、こう考えてみてはどうだろうか。
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