金融共済:農業復興元年
【農業復興元年】"グローカル"な視点で現場後押し 積極的な"援農"も 農林中金・奥和登理事長に聞く(上)2023年4月3日
コロナ禍に加えてウクライナ危機による生産資材の高騰などで農業現場が疲弊する中、農林中金が積極的に地域に出向く活動が増えてきている。全国のJAへの支援プログラムや“援農”などを通して農林中金は地域でどんな役割を果たそうとしているのか。JA鹿児島きもつきの下小野田寛組合長が、JAの最前線での取り組みを踏まえながら、奥和登理事長に聞いた。
農林中金の奥理事長(右)と聞き手のJA鹿児島きもつきの下小野田組合長
自国の食料をきちんと考える組織、国に
下小野田 はじめに農業をめぐる情勢ですが、日本の農業の生産力が構造的に落ちているところに気候変動やコロナ、肥料飼料高と続き、農家が大変苦労しています。私はこうした状況を最もグローバルな視点で捉えているのが農林中金だと思っています。現在の食と農業を巡る状況について、世界的課題と日本的課題についてどのように捉えていますか。
農林中金・奥和登理事長
奥 農林中金では、役職員の共通の価値観「Shared Value」が5つあります。これらを文章で表すと、「グローカル」な視点で、「プロフェッショナリティ」を持って、「チームワーク」で協働しながら、いろんなことに「チャレンジ」し、「成長」していこうということになります。
「グローカル」を置いた背景には、日本の農業を考えたとき、元々肥料や飼料はどこから来て、海外で日本の食はどう評価されているかなど、まさに職員にはグローカルな視点で業務を進めてほしいという思いを込めています。食と農をグローカルに考えることは大きなテーマで、世界の人口1つとっても2050年に100億人になると言われていますし、輸出国と輸入国があるなかで、食料が戦略物資になっている状況があります。
こうした中で一番大切なのは、食料に関して自分なり、国なりの方針を持っているか、要するに独立できているかどうかです。今、食料・農業・農村基本法が見直されていますが、自国の食料についてきちんと自分で考える、そういう組織、国になることが食と農に関する最も重要な課題だと思っています。
JA同士が知恵持ち寄りイノベーションを
下小野田 グローカルという点はわれわれも意識せざるを得ないのが昨今です。ウクライナ侵攻でいろんな物の価格が上がって改めて肥料原料のほとんどを輸入に頼り、産地も世界の動きに大きく左右されていると実感しました。おそらく国も同様で、食料安全保障という議論が浮かび上がってきました。
奥 国内で農業生産をしていると言いながら、根っこの部分の肥料・飼料・燃料、そして労働力まで海外に頼っているのでは、いわば砂上の楼閣の上に日本の農業政策があることにもなりかねません。これで本当に独立した自負を持って国家としてやっていけるのか、ここは大切なところだと思います。
下小野田 そうした課題が出てきて、われわれJAも、例えば自給飼料についてはサツマイモを擦って、でん粉粕にして牛の餌に回しています。こうした地域内循環型の自給飼料の確保に取り組んでいますが、なかなか広げていくのが難しいとも感じています。何かいいヒントはありますか。
奥 例えばJAグループには8連があってそれぞれ事業がありますが、知恵を集めればいろんな事業ができると思います。でん粉粕も1例ですが、工夫しているJA同士が知恵を持ち寄る発想が必要だと思います。知恵を持ち寄ることでイノベーションが生まれる。これが農協運動や農民運動のある意味基本だという気もしています。
例えば日本が貧しかったとき、麦はあるが味噌がないときは、お互い持ち寄って助け合いました。その助け合いのDNAが受け継がれていると思いますし、いかにJAが工夫や知恵を持ち寄るプラットフォームになっていけるか、地域の方や農家の方、そしてJA役職員が集い合えるかが大切だと思います。
JAグループの強み生かしピンチをチャンスに
JA鹿児島きもつき・下小野田組合長
下小野田 まさに的を射たお話だと思います。鹿児島県は畜産が盛んで堆肥をペレット化し、今、堆肥ペレットを宮城県に提供し、宮城県から稲わらをいただく取り組みを進めています。これまでは安くてまとまった量が確保できると中国から調達していましたが、国内にこれだけ水田があるわけですから稲わらは元々あるんですね。
奥 そうした取り組みの蓄積だと思いますね。そういう意味では、ウクライナ危機が国内のものを組み合わせればまだまだできることがある、と気付かせてくれた側面があります。この動きが広がれば、まさにピンチをチャンスに変えていくムーブメントができていくのではと思いますし、JA間の連携や交流は非常に大切だと思います。
下小野田 そこにJAグループの強みや将来性がある気がします。ところで私の印象では、最近の農林中金は以前より前に出てきてくれている印象があります。現場強化ということで、400人以上の職員を県連やJAに派遣していると伺っていますが、具体的にどんな取り組みを進めていますか。
経済事業も進めながら全国のJA支援
奥 様々なプログラムをベースに、チームで各地を回りながらそのJAの課題に応じ、貸出プログラムを進めたり、営農経済についてデータ分析やコスト改善のアドバイスをしたりしています。今、延べ数で300を超えるJAで実践できておりますので、これを続けたいと考えています。その際、他事業、特に経済事業と一緒に進めることが非常に大切で、全農さんなどと二人三脚で進めることの大切さを痛感しています。
下小野田 私共も農家とやり取りする中で、金融機能と販売機能の強化が必要だと考えています。われわれが地域の金融機関より強いと感じるのはやはり総合事業です。金融だけでなく、餌を含めた購買事業の繋がり、それからJAを通じて販売してもらうことで資金の流れもわかります。この強みが今まで生かしきれてなかったような気がして、金融部門と経済部門の壁をなくして農家に向き合おうとしています。
奥 全くその通りだと思います。8連の壁をなくして連携するのと同じように、JAの中でも部門の壁みたいなところをいかに乗り越えてやっていくかが非常に大切だと思いますね。
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