農業を夢のある世界に 米の需要を拡大する【藤尾 益雄(株)神明代表取締役社長】2017年11月20日
・農協と連携して
・米消費拡大の絶好のチャンス
・日本食店は増えても日本米は使われない
・生産者と企業が連携大規模化する
・多収穫米で内外の需要に応える
米の消費が減少し、それに合わせるかのように食料自給率は38%にまで落ち込んだ。30年産問題を含めて、日本農業の基幹である水田稲作農業の行く末には暗雲が立ち込めているともいえる。この暗雲を打ち払い、若い人たちが夢をもって農業の世界に入ってこられるようにするには、何をしなければいけないのか。玄米と白米をブレンドして健康志向に応えるだけではなく「旨い」と消費者をうならさせる米の商品開発から、回転寿司チェーンなど米中心のビジネスを拡大する(株)神明の藤尾益雄社長に話を伺った。
◆米消費拡大の絶好のチャンス
日本の農業を元気にするためには何が必要なのか? との問いに、藤尾社長は「農業を夢のある世界に変えること」だと答えた。
神明は米卸売業だが、その米はピークだった昭和38年には国民1人当り年間120kg食べていたが、いまやその半分にも満たない54~55kgになってしまった。そして食料自給率も70%から38%にまで落ち込んだ。なぜそうなったのか、これからどうするのか、という具体的な説明がなく「それで国が平気でおられるのは凄いなと思いますね」と苦笑いだ。
(写真)藤尾 益雄(株)神明代表取締役社長
米消費全体が減少し、なかでも家庭での炊飯が減っている中で、中食を中心とした業務・加工用米需要が増えている。しかし、本紙でもたびたび指摘しているが、こうした需要に応える米が不足し、価格も上がっている。
そのため、回転寿司ではシャリを小さくしているし、おにぎりも使用量を減らしているという。これでは「せっかくのチャンスなのに、米の消費を減らすことになる」。こうした状態が続けば、すでに起きているが、MA米など輸入米を使用して国産米の使用量が減り、自給率はさらに落ち込むという悪循環に陥ると危惧する。
いま主要な米産地から新銘柄米が相次いで登場し競い合っている。その多くはかなり高めに価格設定されている。そうした米の存在は否定しないが、ピラミッドの頂点に位置するわずか1~2%の人は買えるが、普通の家庭では買えない。ましてや回転寿司など外食や中食では使えない。それでも「売れている」と産地はいうが「それはマーケットインではなく、究極のプロダクトアウト」でないかという。
◆日本食店は増えても日本米は使われない
米消費拡大のもう一つの課題は、輸出だ。
国は10万t輸出するといっているが、「簡単にはできない」という。確かに世界の米消費量は4億5000万t強あるので、10万tは僅かなものだといえるが、米は日本だけではなく東南アジアや南アジアの人たちにとっても主食だ。しかも毎日、日本人以上に量を食べている。嗜好品ではないので、当然だが価格が問題となる。
日本米は訪日して食べてみて美味しいことが分かった。あるいは美味しいと聞いているので、スーパーに買いにいくと普通米の5倍とか10倍で手がでない。「私は、これが一番の問題だと思っています」と藤尾社長。
さらに海外に進出している日本食の店は12万店もあるが日本米を使っているのはごくわずかだという。神明グループの元気寿司も海外に160店舗展開しているが、日本米を使っているのは10店舗程度だ。なぜなら「高くてコストが合わない」からだ。では、どういう米を使っているのか。中国産やベトナム産のジャポニカを、米国ではカルフォルニア産のできるだけ日本米に近い中粒種を使っているのが実態だ。
「ベトナムのハノイ北部ではジャポニカがどんどん作られ、人気があり世界各国からオファーがあります。日本にオファーがあってもおかしくないんですが、値段が高すぎる」と、ここでも価格が一番の問題だという。
◆生産者と企業が連携大規模化する
国内や海外での需要に応えるにはどうすればいいのか?
海外での価格競争力をつけるために、国が輸出用米に助成金を出せばいいが、WTOの関係でできない。「それなら100ha、200haある大型の特区を設定し、行政が支援するとともに、神明のような企業が入って生産者を雇用して、効率的・合理的に農作業をできるように機械化して、コストを抑制する」ことを考えたらと提案する。
なぜ企業が? と質問すると、「最新の農業機械などへの設備投資を生産者に求めても、数千万円必要なので無理があると思う。企業ならそれが可能」だ。しかし、民間企業の参入には否定的な意見が農業側にあるがというと、「全ての企業を一緒だと考えず、国内農業に依存している企業とそうでない企業を分けてみるべきだ」。「神明は、日本の米がなくなれば会社そのものがなくなるので、"素晴らしい日本の水田、文化を守り、おいしさと幸せを創造して、人々の明るい食生活に貢献"を企業理念に掲げている」。そうした神明と「地域の農協が組んで仕事ができたら」と考えている。また、その地域にしっかりと根づいている地元の企業と連携することも大事だという。
企業が入ることのメリットは設備投資だけではない。「勤めながら農業をしたいという若い人は多い」という。例えば、イオンアグリ創造では、イオンの労働条件に合わせているので、週休2日で残業すれば手当がつき、ボーナスも出る。そして自分たちのやりたい農業ができる。しかも、販売はイオンが行い、農業生産に専念できるので、どうしたら品質の良い農産物を効率的に生産ができるかに集中できる。
生産と販売のプロが連携することで、生産側が販売まで含めたリスクを背負わないようにできるという。それは「6次産業化」でもいえる。神明グループには(株)ウーケという無菌包装米飯の製造販売会社がある。ここには「数十億円を投資」し、年間8000万パックの包装米飯を製造販売しているが、こうした工場も販売までのチャネルをもった企業だからできる。しかもここで働いている人たちは米農家が多く、ここで働くことで兼業で米づくりが可能になっているという。
これまで「日本の米はきちんとマーケットの変化を見てこなかった。それが若い人が農業に魅力を感じないようにしてしまった」。消費がどんどん縮小すれば、若い人は不安になり農業をやろうとは思わない。IT産業のようにマーケットが広がると、夢があり、収入も安定する世界にいく。だから「農業を夢のある世界に変えたい」と。
そして「日本農業の基本は米ですから、米をもっと作り、もっと食べればいい」。さらに「いまの需給を均衡させて米価を調整するというやり方は、絶対に歪みがくる」と指摘。「主食用を需要ピッタリしか作らない国はあり得ない。普通、主食用は供給(生産)を増やし、多少余ったら消費拡大に国をあげて取り組むとか、国内で備蓄して有事に備える。それでも余分があれば輸出するとかを考えるのが、当たり前の話」だからだ。
自給率を高めるには、国内での米消費拡大だ。藤尾社長は、いまは米消費拡大の「絶好のチャンス」だとみている。
その根拠は何か。藤尾社長の子ども時代は、学校給食は毎日パン、朝食もパン、そして米国のハンバーガーチェーンが日本に上陸するなど「パンばかり食べていた時代」で、それが米消費を減少させた大きな要因だった。だがいまは、学校給食が米飯中心になっている。そして休日に家族で食べにいくのは、回転寿司かファミリーレストランだ。ファミレスでは子どもたちだけでなく平日のランチタイムでもセットはパンではなくご飯を選ぶ人が多いという。若い人に人気の焼き肉もご飯だ。いまや「国民食」ともいえるカレーライスも米飯で、コンビニでもパンより「おにぎり」が売れ筋だ。
◆多収穫米で内外の需要に応える
収入を安定させ若い人にも魅力ある稲作農業にするために、これから取組むべきは「多収穫米」だいう。そして、農家の収入を「1俵何円」から「10a当たり何円」と面積で考るように変えることが大事だとも。大きな面積で、最新の農業機械や直播などの栽培技術、ICTやAIなど最先端のテクノロジーを活用して、効率的合理的に生産することでコストを抑制し、国内の加工用などの需要に対応すると同時に、海外での価格競争力をつけ、米の需要を拡大する。
農協を含めて生産のプロと加工や販売などのプロが連携し、加工米飯など6次化を含めて「販売することは私たちが責任を持つ」ことで、需要を拡大し、夢のある農業を実現したい。そのために、神明は回転寿司を始め米消費拡大につながる事業を展開し、「食のプラットフォーム」になることを目指していると藤尾社長は目を輝かし熱く語ってくれた。
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