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【クローズアップ】どうする離農加速や飼料自給、制度欠陥 課題山積の新酪肉近論議開始 10月には酪農集中審議2024年9月12日

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農水省は10日、食料・農業・農村政策審議会畜産部会を開き今後10年間の畜産酪農政策の指針となる酪農肉用牛近代化基本方針(酪肉近)の論議をスタートした。10月には最大焦点の酪農乳業を集中審議する。畜酪は離農が加速し、生産基盤をどう維持・強化していくのか。飼料自給率の向上、生乳需給の混乱を招く改正畜産経営安定法(畜安法)の是正など、課題は山積している。(農政ジャーナリスト・伊本克宜)

前段ヒアリングでも生乳需給課題に

改正基本法論議も踏まえ、畜産部会は3月から生産現場、業界関係者からヒアリングを重ねてきた。今回の新酪肉近策定は、これらの意見徴収を踏まえた上で論議を深めていくことになる。今後も含め畜産部会のスケジュールを見よう。

ポイントは10月から始まるテーマごとの議論、中でも10月上旬にもある酪農・乳業に関する具体的な論議だ。特に全国の約6割の生乳生産シェアを持つ北海道の小椋茂敏JA北海道中央会副会長、JA全中・馬場利彦専務、最大手・明治社長の松田克也・日本乳業協会会長の発言内容に注目が集まる。

【畜産部会スケジュール】

〇2024年3~6月
新酪肉近論議の前段として、畜産部会で3月から酪農、肉用牛、流通、輸出・小売りをテーマに4回、関係者からのヒアリングを実施

〇9月10日
酪肉近論議スタート 諮問、現状説明

〇10~11月
テーマごとに議論→酪農・乳業、肉用牛・食肉、飼料・その他

〇2025年1月
新酪肉近構成案

〇2月
骨子案

〇3月
中旬本文案→下旬に新酪肉近答申

※その他 家畜改良増殖目標、家畜排せつ物方針、養豚振興基本方針の見直しも併行して議論

3月からの前段ヒアリングで、重要課題となっている脱粉在庫処理、生乳需給調整の在り方で意見が相次いだ。

指定生乳生産者団体の関東生乳販連・迫田孝氏は「指定団体やこれに出荷する酪農家のみが脱紛解消財源などの負担をするのであれば需給調整機能は維持できない。酪農乳業者のすべてに参加を求めるルールが必要だ」、乳協・本郷秀毅氏は「酪農の安定のためには新商品開発や輸出拡大、需給と価格の安定、需給調整や経営安定対策、生産者間の不公平感の確保が欠かせない」と指摘したうえで「酪農関連制度の運用見直しの検討が必要」と需給調整の混乱を招いている改正畜安法の改善などを説いた。これらは今後の酪農・乳業安定の核心を突いた指摘だ。

一方で非系統の最大生乳集荷・卸業者MMJの藤本涼子氏は「自主流通の事業者も脱粉対策での拠出金を負担すべきとの意見があるが、自主流通の余乳を加工に回すなど最大限引き受けている」と反論した。需給調整の全国的取り組みには加わらず、独自路線を貫くというわけだ。これでは需給調整の効果は限定され、生産現場の不公平感はいつまでたっても続く。

■情勢激変にどう対応

10日に農水省が示した「現行酪肉近策定時からの情勢の変化と対応状況」を見よう。

〇現行酪肉近策定後の情勢変化

・新型コロナウイルス感染症の流行

生産拡大を進める中で外食需要など消費が落ち込むことで生乳や牛肉の需給が緩和。特に脱脂粉乳の過剰在庫問題が深刻化

・ウクライナ問題や円安進行等に伴う資材・エネルギー価格の高騰

酪農・畜産経営のおける配合飼料をはじめとした生産コストの上昇、国産飼料確保の重要性の高まり

・温室効果ガス削減などの環境負荷低減に対する世界的関心の高まり

農水省「みどりの食料システム戦略」(みどり戦略)の策定。環境や持続性に配慮した畜産物生産の必要性

このように、コロナ禍での生乳需給緩和と脱粉過剰、資材高騰が畜酪経営を圧迫、環境問題への対応を挙げた。今後の農水省の新酪肉近論議の問題意識を反映していると言ってよい。

脱粉過剰解消の一方でバター需要増という品目別需給アンバランスは、6月にバター4000トン(生乳換算約5万トン)追加輸入決定という対応となった。だが、前年度までの生乳生産抑制した中での大規模追加輸入の実施は、特に北海道で生産現場から反発が上がった。農水省の決定時期が国会閉会直後という点は、国会での野党追及を回避するためとの指摘も出て、情報の透明性で課題を残した。

資材高、特に輸入飼料の高騰は、持続可能な畜酪へ価格形成の在り方と今後につながる議論だ。ただ生乳過剰下で初の連続的な飲用乳価引き上げとなった余波は、消費低迷という形で生産現場にも跳ね返ってきている。需要が減退すれば生産は増やせない。さらには改正畜安法に伴う流通自由化で、指定団体経由の大手乳業の牛乳と、非系統経由の中小メーカー牛乳との間で1リットル50円以上の価格差が出るなど、牛乳価格両極化が表面化している。

環境負荷軽減の対応は、待ったなしの課題で家畜排せつ物処理の中でも中心課題となる。家畜ふん尿のメタンガス発生、牛のげっぷなどの対応だが、環境負荷軽減は生産者に新たな経費負担を強いかねない。「みどり戦略」推進の中で、政策支援などの具体化も問われる。

■異常な加工型畜産転換の本気度

持続可能な畜酪確立へ焦点となるのは近年の生産コストへの対応だ。

10日の畜産部会で馬場全中専務は「生産現場は今まさに経営継続が危ぶまれる状況にある」と述べ、持続可能な経営確立の重要性を指摘。国産飼料の生産・利用拡大や生鮮性向上が必要と説いた。コストの価格転嫁とともに、確かに問題は生産費の5割前後を占める飼料コストをどう削減するかだ。

今後も輸入飼料価格は高止まりの可能性が高い。このままでは、飼料値上がり分を補てんする配合飼料価格安定制度は制度疲労を起こしかねない。基金不足から既に市中銀行から1200億円の借り入れをしているのが現状だ。

畜酪は米麦とともに食料安保の要だが、問題は異常なまでの輸入飼料依存の加工型畜産で成り立っていることだ。日本農業の最大のアキレス腱と言っていい。飼料の自給率向上、国産シフトは今回の新酪肉近論議の最大課題の一つだ。

だが農水省に自給飼料拡大の本気度があまり感じられない。現行酪肉近は飼料自給率を2030年度34%(現行26%)、そのうち国産粗飼料100%(現行78%)、トウモロコシ、飼料用米など国産濃厚飼料15%(現行13%)。つまりは問題の輸入トウモロコシをどう国産に切り替え、国内で子実用トウモロコシ、あるいは青刈りトウモロシを大幅に増やしていくのかの視点に欠けている。新酪肉近では、水田農業フル活用も含め、国産濃厚飼料を少なくても20%台に引き上げる必要がある。輸入と国産との生産コストが大きく違い、生産面積の確保、耕畜連携の拡大など、その実現には課題も山積している。だがこれ以上、異常な加工型畜産は続けられない現実を直視すべきだ。

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