【飲用乳価2年ぶり4円上げ】関東先行、全国で決着へ 問われる牛乳需要拡大2025年4月3日
大手乳業メーカーと指定生乳生産者団体との2025年度飲用乳価交渉は、関東が「先行」しキロ4円引き上げで決着した。「全国でも同様の方向で決着する見通し」(中央酪農会議)。新酪肉近スタート初年度の乳価上げは、酪農家にとって「朗報」だ。背景と課題を探る(農政ジャーナリスト・伊本克宜)
■コロナ禍以降に合計キロ24円上げ

酪農1万戸割れの中、乳価値上げなど酪農理解を訴える生産者ら(東京・有楽町で)
25年度飲用乳価交渉は、首都圏の大消費地を抱える関東生乳販連が先行して決着した。乳価上げはコロナ禍以降の2020年代では22年度、23年度、今回の3度目で合計キロ24円となる。
◇最近の関東生乳販連乳価引き上げの動き
・2019年4月→4円
・2022年11月→10円
・2023年8月→10円
・2025年8月→4円
※額は生乳キロ当たり、飲用向け、発酵乳
ただ、これだけ上がっても、生産現場では飼料、光熱費などコストの高止まりをカバーできる水準ではないとの指摘が強い。
加えて、酪農経営継続で大きな判断が迫られているのが、農業機械や搾乳ロボットの更新など、インフラ投資の対応だ。大型機械が多い酪農関連機器は外国製品の割合も高く、大型酪農ほど更新コストがかかる。しかも円安の諸物価高で農機価格は、ここ数年で大きく上がっている。今回の4円値上げでも、生産現場からはここ数年の10円上げに比べ小幅値上げに過ぎないと、不満の声も出ているほどだ。
■酪農加速懸念で一致
通常、飲用乳価交渉は需給状況が反映する。
生乳不足ならば指定団体有利の「売り手市場」となり乳業の工場稼働率が悪くなるため買い入れ乳量を増やそうと、乳価引き上げに傾く。問題はスーパー、生協などとの納入価格交渉となるが、需給ひっ迫なら小売りへの値上げも通りやすくなる。逆に過剰時は、いくら酪農家の経営が苦しくても据え置きや乳価下げの圧力が強まる。
この構図が崩れたのがコロナ禍の異常事態だ。2022年11月のキロ10円という引き上げは過剰下でも酪農家ほぼ全体が赤字経営に陥る中で、決断された初めてのケースだ。ただ、牛乳小売価格の値上げが消費離れを起こし、牛乳需要がさらに減りかねず、結果的に酪農の生乳減産にもつながる「悪循環」の懸念が常にあった。
しかし、ここ1,2年は状況が変わった。円安、インフレで食品をはじめあらゆるものが価格改定で値上がり、乳価引き上げの余地が大きく広がっている。こうした経済全般の状況変化に加え、酪農家1万戸大台割れの中で、乳価上げで離農加速に何とか歯止めをかけるメッセージにしたいとの酪農団体、乳業メーカー双方の危機感の一致もあった。
■8月上げは需給ひっ迫、コンビニ対応
25年度乳価交渉は、早い段階から生処双方とも「乳価引き上げ」方向では一致していた。問題はいつから、いくらの値幅とするか。関東生乳販連が交渉決着を正式発表したのは3月30日と年度末ぎりぎりのタイミング。最終調整が難航したことが、新年度当初の4月からではなく数カ月遅れの原乳からの引き上げとなった。
いつ、いくらは、いくつかの選択肢が出ていた。関係者によると、早いのは6月上げ、次いで7月キロ3円、8月キロ4円など。最大手・明治が主導したが、「牛乳販売シェアが高まっているコンビニエンスストアの末端小売りの値上げが浸透するまで3カ月程度かかる」と説明したと言う。当然、乳価引き上げはやむを得ないにしても、開始時期を遅らせた方が乳業メーカーの財源負担も軽減されるとの判断も働いた。
最終的に、夏場の需給ひっ迫期で需要が強い8月からキロ4円で最終合意となった。
■末端小売価格10円上げか
生産者価格キロ4円上げは、販売業者、物流、諸経費などを加えると、消費者への末端小売価格は1リットル当たり10円から15円程度の値上げとなる。最終的には、小売り各社の営業戦略や各店舗の判断となる。
Jミルク調査の平均小売価格は同250円前後だが、実際の小売価格は非系統原乳の中小メーカー中心の同190円前後から、明治、雪印メグミルク、森永、農協牛乳など大手メーカーの270円前後に「両極化」している。全体的には牛乳販促のため大手の値下げ傾向で、週末特売セールも増えてきた。8月からの飲用乳価値上げが、今後の小売価格にどう影響を及ぼすか。小売価格引き上げ要因になることは間違いないが、問題は上げ幅だ。
■バターはキロ10円
飲用乳価とは別に、ホクレンは6月から乳製品向け乳価を引き上げる。過剰の脱脂粉乳はキロ3円、引き合いが強いバターと生クリームは+7円の10円上げで乳業メーカーと決着している。
こうした中で、25年度は全国酪農家対象の飲用向けと、主に北海道が中心の加工向けでともに生産者価格が引き上げることになる。
■新酪肉近初年度に乳価上げスタート
25年度は、2030年までの今後5年間を展望した新たな酪農肉用牛生産近代化基本方針スタート。乳価上げで、新酪肉近は酪農家の所得増加を踏まえた始動となった。
■「需要拡大」最大課題
一方で、今後は牛乳需要拡大が最大の課題となる。
いくらキロ当たりの乳価が上がっても、小売価格上げで飲用牛乳需要が低迷すれば、用途別需給調整で乳価が低い加工比率がたかまり、プール乳価が下がる。結果的に手取り乳価が伸びないことにもなりかねない。酪肉近でも、最大のキーワードは「需要拡大」。それを踏まえた収益性向上と生産拡大だ。
今回のキロ4円乳価上げは、脱粉過剰や牛乳需要低迷の中、手放しで喜べる情勢にない。早速、酪肉近のテーマ「需要拡大」の宿題を、酪農・乳業界挙げて取り組むことを迫っている。
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