【系統外生乳50万トン大台突破】需給調整に支障、改正畜安法で拡大2025年6月2日
指定生乳生産者団体を経由しない非系統(自主流通)生乳が2024年度に50万トンの大台を突破したことが分かった。中央酪農会議では「共販率が下がり生乳需給調整上でも大きな問題だ」としている。改正畜安法に伴う流通自由化で拡大した。国主導の全体需給調整の実効性確保が改めて問われている。(農政ジャーナリスト・伊本克宜)
非系統生乳の拡大は、指定団体経由の原乳を使う大手メーカー牛乳と価格差が広がっている
(東京都内のスーパー店頭で)
■非系統24年度53万トン、シェア7%に
2024年度の全国生乳生産は約737万トン、このうち中酪まとめの指定団体の受託乳量は684万トンとなり、非系統の自主流通の生乳取り扱いは53万トンと、初めて50万トンの大台を超えた。
中酪の寺田繁事務局長は「生乳共販率が18年度に96・3%あったが、改正畜安法以降3ポイント下がった。組織結集率が落ちることは、北海道と都府県の用途別生乳需給調整、不需要期の余乳処理上も問題が大きい」と懸念を表明する。
年間約20万トンを扱うMMJを筆頭に、非系統業者の生乳取扱数量は年々増加しており50万トン突破は時間の問題と見られていた。この数量は東北や九州の酪農主産地の指定団体集乳量に近い。北海道の非系統の生乳道外送りは2024年度に30万トン超に達したと見られている。
系統外の「受け皿」も徐々に拡大し岐阜県の東海牛乳は牛乳製造ラインを大幅拡充し、24年度から本格稼働した。同社は系統外の最大の受け入れ乳業で、生産は倍増を見込む。MMJは加工施設を建設し飲用牛乳需要の季節別変動に備える。
■非系統道外送り4割超え、ホクレン下方修正
非系統取り扱い生乳の道外送りが全体シェアの4割を超える中で、ホクレンは2025年度生乳生産目標を、当初予定から下方修正した。系統外が予想を上回ったためだ。
24年10月に25年度目標を403万8000トンとしていた。それを0・4%(1万4300トン)減の約402万3600トンに修正した。
■今春から根釧の大型酪農家も新会社
系統外が酪農主産地・北海道で増えているのは、ホクレン傘下の酪農家は脱脂粉乳在庫削減へ2年間の減産を余儀なくされたことが大きい。こうした中で、2024年4月以降、MMJなど非系統業者に出荷する大型経営酪農家も増えた。
北海道中標津町の増産分を買い入れてくれるためだ。改正畜安法が認めているホクレンと系統外の「二股出荷」も増えている。7~9月夏場の首都圏をはじめ生乳需給ひっ迫時にホクレンから道外送りする生乳は減少し、系統外シェアが拡大している。中標津町の大型酪農経営「ループライズ」も生乳卸に参入し、独自の道外送りを始めている。
さらに、25年度からは北海道の根釧地区の酪農家5戸が自主流通の新会社「やよい浜風」を設立し独自の道外輸送を始めた。年間9000トンの生乳出荷を見込む。都府県への生乳移送は、同じ非系統のミルクネット(釧路市)が担う。いわば、道内の非系統グループの生乳サプライチェーンがネットワークで機能し拡大している形だ。
■系統外の飲用特化、指定団体が加工処理
非系統の生乳シェア拡大は、さまざまな問題を引き起こす。最大の課題は需給調整が効きにくくなることだ。非系統は乳価の高い飲用向けにほぼ特化しており、取り扱いの増加は、指定団体経由の飲用牛乳との競争激化につながる。
2025年3月には、非系統がホクレンの道外送り生乳量を上回った。指定団体傘下の酪農家の生乳が減少すれば、それだけ道内での乳製品となる加工仕向けの数量が増え、乳製品の過剰在庫やプール乳価への懸念が出てくる。
系統外生乳の拡大は、当面の問題としても課題が出ている。不需要期の生乳処理が一段と難しくなることだ。ホクレン経由の道外送り生乳が系統外に侵食されることは、それだけ不需要期の道内での加工処理が増える。すでに処理能力が限界の時期もあり、やはりホクレンによる安定的な生乳道外送りの確保が欠かせない。
■牛乳安売りの「温床」に
系統外の生乳拡大に伴い、さらに大きい課題は飲用乳市場の混乱だ。スーパーでの牛乳安売りの「温床」になりかねないとの懸念だ。
生乳需給問題を巡り、自民党畜酪委員会でも改正畜安法に伴う生乳流通自由化で指定団体経由の牛乳と、非系統の原乳を使った牛乳で、末端小売価格で大きな価格差が出ていることでも質疑となった。
生乳流通自由化で牛乳小売価格は「両極化」しているのが実態だ。Jミルクの最新の牛乳価格は1リットル225円前後。スーパー店頭では通常販売で大手メーカーのNB牛乳が1リットル250円~300円近い半面、非系統の原乳を追使用した中小メーカー牛乳が同200円前後と5割近い価格差がついている。
農水省では「事実として系統、系統外も流通業者や乳業メーカー段階までは販売価格はほとんど変わらない」としたうえで、「小売価格で100円の差がつくのは商品の考え方としての対応」と説明した。同省に説明の根拠は系統、非系統の聞き取り調査による。だが、商売上の秘密事項も含め、系統外の乳価実態は「ブラックボックス」の要素も大きいとの指摘も多い。
■農水省内に牛乳乳製品需給対策室を新設
こうした中で、4月1日、農水省畜産局牛乳乳製品課内に新たな部署が新設された。「牛乳乳製品需給対策室」で、中坪康史乳製品調整官が初代室長に就いた。
同室の下に「生乳」「貿易」「需給」「乳製品輸出企画」の4班を置く。要するに、酪農の安定には生乳需給調整の実効性が最大ポイントにもかかわらず、改正畜安法に伴う生乳流通自由化で需給コントロールが難しくなっていることへの対応の強化だ。系統外生乳の50万トン突破への対応も大きなテーマとなる。需給対策室設置は、系統、非系統問わず全参加型の需給調整機能の対応が国に改めて求められている問題意識の表れだ。
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