JA人づくりトップセミナー 協同組合の役割発揮へ問われるトップの指導力2022年3月11日
JAグループは、昨年の第29回JA全国大会の「持続可能な農業・地域共生の未来づくり~不断の自己改革」の決議にもとづき、「協同組合としての役割発揮を支える人づくり」に取り組むため第4次人づくりビジョン方針を決定した。各JAが主体となった人づくりの取り組み強化が求められるが、それには何よりもJAのトップ層のリーダーシップが欠かせない。今年の1月、JA全中は、トップ層を対象とした「JA人づくりトップセミナー」を開き、意識統一をはかった。オンラインで全国のJAから約200人が参加。長野県JA松本ハイランドの田中均代表理事組合長、愛媛県JAおちいまばりの黒川俊継代表理事理事長、岐阜県JAぎふの岩佐哲司代表理事組合長がトップとしての「人づくり」・人材育成についての考えと、その取り組みを報告した。
経営見据え活性化 自分の言葉で改革を
JAグループは第26回JA全国大会から、JAグループ人づくりビジョン運動を全国展開しており、今回の29回大会で第4次(令和4~6年)の運動となる。JA大会では、「10年後目指す姿」を目指し、「協同組合としての役割発揮」を掲げている。これを踏まえ第4次運動では、「協同組合意識を持ち、激変する環境と課題を踏まえ、迅速に変革し続ける人材が必要不可欠」としている。
JA段階で取り組むべき課題として、(1)経営課題に対応した人材育成基本方針の見直し(2)働き方改革に対応した多様な人材・働き方への対応(3)拠点規模の拡大で管理職に求められる能力の高度化(4)組合員と対話を重ね、メンバーシップ組織として課題解決し、協同組合としてのJAの価値を高める人材育成――を挙げている。(表参照)

JA全中副会長菅野孝志氏
セミナーでは「JA人づくり運動推進委員会」の委員長である菅野孝志・JA全中副会長が「人が主役の協同組合で人づくりは不可欠だ」と、人材育成の重要性を強調。若いころの賀川豊彦の著書『乳と蜜の流るゝ郷』との出合いなど、自らの経験を話し、人づくりにおける経営者の役割の重要性を指摘した。特に「経営者として自分のJAのこれからのあり方を自分でよく考え、自分の思いを自分の言葉で職員、組合員に伝えてほしい」と述べた。
"協働"促進へ未来塾
JA松本ハイランド 田中 均組合長
JA松本ハイランドの田中均組合長は「生活の変化で『個』を単位とすることが増え、地域での協同活動の減少でリーダーが生まれにくい時代になっている。黙っていてはリーダーが育たない」との認識で、平成26(2014)年から「協同活動みらい塾」を開塾した。塾生は約30人前後で各支所から人選し、1年間で10回ほど開講。座学だけでなく、塾生同士が話し合いながら結論を探るケーススタディのワークショップ形式の学習を重視し、そのためのファシリテーション力の向上に努めている。これによって「当事者としてどのような役割が発揮できるかを導き出してほしい」と田中組合長は期待する。
また卒塾後のフォローを重視。「未来塾はいわば下ごしらえの段階だ。学んだことを支所協同活動で生かしてもらう」と、同期会を支援するなどで支所協同活動への自主的な参加を促す。これまで229人の卒塾生からJAの理事や生産部会の役員だけでなく、村長や村議会議員も出ている。「塾は1年、 つながりは一生、仲間と一緒に地域を元気にしてほしい」と言う。
こうした卒塾生の活動の場になるのが支所協同活動だ。その一つが、支所協同活動運営委員会で、既存の支所運営委員会とは別組織で、支所単位での事情を土台とした共助の組織づくりを目的とするもので、「JAとしての"大きな協同"による経済合理性の追求と、支所単位の小さな協同による民主的運営をバランスよく両立させて組織基盤の強化を図ることができる」とみる。
こうした協同活動運営委員会の活動の中心になるのは地区担当理事で、開催するテーマに応じて、決まった委員以外の参加も求める。田中組合長は「地域の願いを共有し、かなえるために協同することに意義があり、支所担当理事がリーダーシップを発揮しやすい環境をつくることにつながる」と、リーダー育成のプロセスにもなるというわけだ。
実践経験を積み重ね
JAおちいまばり
黒川俊継理事長
JAおちいまばりの経営理念である「あったか~い、心のおつきあい」をもとに、人事基本方針を策定。求められる職員像として、(1)組合員の営農、生活を向上させ、地域農業の振興をはかる職員(2)協同組合理念を実践できる職員(3)活力ある職場づくりのために積極的に取り組める職員――を示す。そのため、具体的には適切な異動ローテーションにより、専門知識を持つ職員を計画的・持続的に育成し、併せて計画的で効果的な教育・研修を行うとしている。
その一つである次世代リーダー育成研修では、自己改革を実現できるリーダーの育成を目的に、30~40代の中堅職員のコア世代形成のため3期にわたる教育研修制度を導入。この世代が、JAの力を入れている各種プロジェクトメンバーの中心となって活躍している。また、新規採用職員対象の3泊4日の地元の寺での集合研修や農業体験研修などを実施している。さらにJAグループの経営マスターコースへ毎年職員を派遣。県の中央会など系統団体への出向も続けている。
単位JAとの人事交流もあり、姉妹JAである宮城県のJA仙台には、これまで3人の職員を出向させている。また昨年度から次世代組合員リーダーの育成を目的とした「JA組合員大学」を開講するなど、さまざまな形で職員・組合員教育に取り組んでいる。
一方、「人づくりは職場づくりでもある」との考えから、職員による各種のプロジェクトを積極的に立ち上げ、事業や職場の課題をテーマに検討し、実行することで、職員のモチベーションアップにつなげている。人事制度や中期経営計画策定の議論はもとより、「あったか~い、心のおつきあい」や、ES(従業員満足)を高めるため「ありがとう」を循環させるにはどうするか、員外の人にJAをアピールする方法を考える「ヤングパワープロジェクト」など、テーマは実に多様だ。
また、職場環境の改善を進めるプロジェクトでは、子育て世代がより働きやすい職場づくりを検討。育児休業明けの人員配置、男性の育児参加支援などを提案し実現にこぎつけた。「今後も女性や高齢者が働きやすい職場づくりをめざす」と、黒川理事長はプロジェクト活動による職員の参加意識アップに期待する。
支店核に"人財"育成
JAぎふ 岩佐哲司組合長
JAぎふの岩佐哲司組合長は、JAの人づくりについて「協同活動が人をつくる」として、組織変革の必要性を強調する。具体的には、(1)組合員との関係の回復・強化(2)農業・協同活動を通じたJAの存在感のアップ(3)対話を通じて相談へ(4)情報発信の充実――を挙げる。
こうした変改のため、各部署のリーダーとして活躍し、将来のJAを担う"人財"を早急に養成する必要性を感じている。それは10年後の農協(N)を背負って(S)立つ(T)"NST"と、農協(N)、営農部(E)を背負って(S)立つ(T)"NEST"の"人財"だという。それを育てるための「はばたき塾」開講の構想を練っている。
「対話を通じた相談」では、支店運営委員会や利用者懇談会、訪問活動などと併せて、暮らしの相談、生活トータルサポートの重要性を指摘する。暮らしの相談は、解決することで組合員だけでなく、職員の喜びにもつながり、信頼関係が育つ。組合員の困りごとにヒントを得た新たな事業やサービスを生み出すことにもなる。令和2(2020)年度で約2万4000件の相談があり、受付簿を設けて、情報を共有している。職員からは「自分のやったことに『ありがとう』と言われることに気が付いた」という声があり、モチベーションの向上につながっている。
こうした組合員との関係づくりの核は支店の活動にある。今後、JAぎふが向かうべき方向として、岩佐組合長は「支店は協同組合として、地域組織、事業運営にとって組合員のよりどころであり、本店は指示・命令で動かすのではなく、支店と一緒になって考え、実行できるようサポートすべきだ。支店は他の支店を参考に活動の場を広げ、横展開してほしい」と、活動の広がりに期待する。
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