多収米の契約栽培で供給増へ 主食用米全体の安定供給にも寄与 JA全農2025年3月6日
JA全農はコンビニのおにぎりや弁当など中食、レストランなど外食向けの業務用米、特に多収米の生産拡大に取り組んでいる。大規模農家に契約栽培を広げ、2030年には年間10万tの供給を目指している。24年の供給量は7万~7万2000tで十分に実現可能な目標だ。農機や農薬などの民間企業も契約栽培を広げており、競合関係にはあるが「多収米の食味も銘柄米に負けない」(農研機構)品種は多く注目される。農家の経営安定だけでなく、主食用米全体の供給の安定にもつながる。
JA系統の生産量は約5倍に
2019年にJA全農が多収米の契約栽培を打ち出した当時、JA系統の生産量は約1.5万tだったので、24年の生産量は約5倍に増えている。23年7月~24年6月の主食用米生産量は705万t。米穀安定供給確保支援機構(米穀機構)の「米の消費動向調査」(25年1月分)では、1カ月あたりの精米消費量のうち家庭内が69.6%、中食・外食は30.4%。ただ「肌感覚では業務用米の増勢で半々近くになっているのでは」(JA全農藤井暁米穀部部長)とも見ている。
米穀安定供給確保支援機構(米穀機構)の「米の消費動向調査」(25年1月分)
同じ米調査で、中食・外食消費量は外食が12.2%、中食は18.3%。生活スタイルの変化で中食や外食の消費が増え、コロナ禍明けで増えた外出によって外食売り上げが回復し、訪日外国人観光客の増加も寄与している。ただ「安定生産が思うように進んでいない。多収米を低コストで供給できる経営モデルを長期的に作っていきたい」(農林水産省)と主食用米全体の供給安定化に向けた課題が大きい。
農家の経営安定、作業も分散化
JA全農が多収米に取り組むのは、農家の減少による経営の大規模化が進み、担い手が不足しているからだ。多収米の契約栽培は「所得が最初から計算できて同じ面積で収量が増える。早生や晩生であれば、収穫時期を分散できる」とメリットは大きい。品種開発にも取り組み、農研機構との共同開発した「ZR1」は「当初、東北を想定したが、中国地方にも広がっている。種子が不足するほど」だという。
多収米は銘柄米より食味が劣ると見られていたが、近年は「一等米比率も上がり、食味も銘柄米に負けない」(農研機構)品種も多い。中食や外食でも銘柄米を使う場合があり、食味で負けない多収米の供給が増えれば、主食用米全体の供給安定化につながる。今後もJAと協力して「生産と消費を結ぶ懸け橋として経営体ごとのニーズに適合する提案を行う」(藤井部長)方針だ。

昨年12月の「業務用米推進プロジェクト」(農水省の補助事業)セミナー
JA全農以外でも契約栽培が広がる
農機や農薬の民間大手企業もこうした点に着目し、10年ほど前から農家への多収米の契約栽培に取り組んでいる。例えば、ヤンマーマルシェは「全国で203件、平均32.1ヘクタール規模の生産者と契約。生産量は2024年産で前年比20.8%増となり、業務用は95%を占めている」(農水省の補助事業「業務用米推進プロジェクト」セミナーで)という。
JA系統との競合がどの程度かは不明だが「多収米の全体の生産量はまだ少なく、JAの取り扱い量の方が多いのでは」と見ている。いずれにせよ、主食用米全体の生産量から見れば、多収米はまだわずか。競合というより、競争することで供給量が増えれば、主食用米全体の安定化にもつながると期待される。
「ZR1」を加えて多収米の安定供給強める
クローバーファーム

クローバファームの高橋大希社長
茨城県境町にある農業法人のクローバーファームは24年から、JA全農の多収品種「ZR1」の契約栽培に取り組んだ。以前から「こしひかり」に加えて大粒の「一番星」や多収の「にじのきらめき」も生産して販売先も複数あるが、JA茨城むつみの営農担当者からの熱心な要請に応えた。初年度の面積は2.5haで収穫量は「10a当たり650Kgと『一番星』より50Kgほど多かった」(高橋大希社長)と良好だったこともあり、今年は5haに拡大する。
「ZR1」は東北地方などで実績はあるものの、関東地方での実績は少ないが「JAの担当者の人柄と、JAが本気で米を集める」姿勢から取り組みを決め、収量や価格の面でも「農協の強さを実感」もした。

クローバーファームのほ場
多収品種に取り組むきっかけは、茨城県でイネ縞葉枯病が流行った際に「一番星」の抵抗力に着目したこと。また、弁当製造などの販売先では「『コシヒカリ』のように粒が小さくておいしい品種より、大きい粒の方が好まれる」からだ。ほ場が大区画化され生産効率が高い地域でもあり「業務用などで使いやすい米を使いたい人に供給する」ことが役割と見る。実際、販売先の大手外食チェーンでも「上手くブレンドして歩留まりがいいと喜ばれている」とニーズを実感している。
作業期間を分散できることも大きい。極早生の「一番星」から「ZR1」「コシヒカリ」「にじのきらめき」へと分散化できる。作業工程を省くことができる乾田直は栽培にも取り組んでおり、「にじのきらめき」に加えて「ZR1」でも「いずれ10haに拡大する。乾田直はにも取り組みたい」考えだ。
現在の米の販売価格は「宝くじに当たったようなもの」。長期的な経営安定化には「コロナ禍のように需要が減ることもあり、価格より安定した数量が大事」になると見ている。利益を確保するためには品種ごとの経費算出が不可欠。まだそこまでは手が回っていないが、算出できれば「自信を持って最低価格を示すことができる」と語る。

クローバーファームの農作業風景
【メモ】
クローバーファームは21年に、高橋大希社長が親から農家を引き継ぐと同時に農業法人化した。現在は高橋夫妻と従業員3人が従事し、4月には新卒者を迎える予定だ。24年の作付面積は水稲41ha、大豆10ha、小麦14ha、子実用トウモロコシ14ha。このうち「ZR1」以外の水稲は「一番星」10ha、「こしひかり」8ha、晩生「にじのきらめき」約17ha(2024年実績)。近隣の後継者不足もあって今後の大規模化も想定し、作業小屋も建て替えた。
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