【全中教育部・オンラインJAアカデミー】「一円融合」で世界を見る 個性を基礎に「連帯の民主主義」を 大日本報徳社の鷲山社長が講演(2)2025年5月27日
JA全中は5月16日、東京のJAビルで2025年度の第1回目となる「オンラインJAアカデミー」を開いた。大日本報徳社の鷲山恭彦社長が「現代の歪みと報徳の教え」をテーマに講演し、会場参加40人、オンラインは100の会場で視聴された。
報徳運動の歴史
オンラインJAアカデミーの会場風景
二宮尊徳は江戸時代に農村再生を実践し、600の村に「分度」の思想を広げました。「分度」は農民だけでなく武士にも課しました。武士の権力を制限し、支配者の武士が「分度」をしないところは一切引き受けない。自分が「分度」したときには相手も「分度」を課せられ相互関係になる。物事を変革する思想の基本です。
明治以降は産業の実践思想として、経済の近代化を進めていた財界人が、尊徳の科学的思考と、倫理・道徳、合理的に位置づけた考え方を経済活動のあるべき姿と考え、大きな魅力と活力を酌み取りました。農村の近代化では、政府が地方改良運動が行い、報徳会も呼応して地方改良運動の推進者、日本の近代化を進めるダイナモになりました。昭和の時代は農山漁村更生運動も担いました。
戦争中は報徳思想が「富国強兵」に利用され、天皇御真影と教育勅語、二宮金次郎像の3点セットで戦争遂行のシンボルにされました。戦後、進駐軍はそのことを知っていたので掛川の本社に乗り込みましたが、当時の河井彌八社長が報徳の考え方を説き、進駐軍も「二宮尊徳はアメリカのワシントンやリンカーンに匹敵する民主主義者で、世界最初の信用組合を作り、報徳は日本の近代化に不可欠」だと感銘を受け、憲法からも消された「大日本」の名称が残りました。
鷲山社長
70年代以降に生じた新しい問題
二宮金次郎的な勤勉の精神は戦後復興や高度経済成長を支えました。しかし、経済成長が終わった70年代以降、「消費は美徳」という価値観に変わりました。戦後民主主義が花開いた進歩の反面、古いものや共同体的なものが封建的と否定され、私生活中心主義、小市民的なメンタリティが蔓延しました。
自己満足的な消費社会の価値感が定着し、確固とした人生観や社会の見方、考え方は形成されにくくなり、豊かに暮らしているけれども、内面はどこか不確かな悩みを持つ。個人主義から利己主義に移り、人と人の関係を結びつきが希薄になり、孤立化、密室化になってくる。1970年代以降、校内暴力やいじめ、生徒の自殺、不登校や学級崩壊など、日本になかったことが頻繁に起こり、それが当たり前となっています。
21世紀に入ると、新自由主義で成果主義、数値主義が不安定労働を生み出し、弱肉強食によって格差が拡大されました。社会的合意を取らず、国会に諮らずに閣議決定で決める政治手法が横行し、内閣人事局に権力を集中して忖度政治を招く。国家の私物化です。その次にトランプやプーチンに極まった自分中心主義。70年代に現れた問題が解決しないまま変容しています。根本問題は人と人との関係の作り方です。「心田の開発」と尊徳が言うように、心の豊かさと、人の交流の豊かさをどう解決していくか。
東京・秋葉原の交差点にトラックで突っ込み、カッターナイフで7人を殺した事件では、犯人が何百回も「誰にも理解されない、自分が何者か誰からも注目を浴びない、振り返られる存在でない」と書き込んでいた。障害者施設のやまゆり園の大量殺傷事件では、犯人が衆議院議長に、自分が競争社会の中でいかに国家に有益な存在であるかと思っているか検証してくれ、と手紙で切実に訴えていた。社会から全く疎外され、事件を引き起こす状況が日本の社会に生まれつつあります。
人間は他者に認められ、尊重される温かな存在であるという経験が大切です。そうした人間社会をどう作っていくか。戦後80年で個人の解放、個性の確立を重視したことは大事でした。これからの80年間は、個性を基礎として、人と人との結びつきを作る「連帯の民主主義」が課題だと思います。
個人が大事だということには大きな落とし穴があります。自己意識の狭さが個人主義から利己主義、自己中心になっている。自分が特別な存在だと思うのは自己意識です。個性化は大切ですが、自己意識で傲慢、自信喪失、嫉妬が生まれる。自信過剰は自信喪失に変わり、被害者意識を生んだり、孤立、密室化する。
現代は確信が持てない不安の時代だと言われますが、不安という現実はありません。現実を映した意識にも不安はない。不安という現実はないからです。尊徳には不安がなかった。天地を読み解き、遠くを測るものは冨み、近くを測るものは貧する。現実を映して、それに向かって実践するだけですから、意識をひたすら高みに高め、意識レベルを上げるしかない。
もう一つの問題は自由です。学生に「自由」を聞くと、選択の自由を答えます。しかし「英語が自由に話せるときの"自由"とは何か」と聞くと分からない。文法や発音など連動する法則を自分の中に入れて初めて自由に話せる。対象の真理・真実を自分の中に取り込んだときの自由が大切です。「こういう規律ならいい」と、自分で作っていくことが本当の自由になる道と言えます。自由選択の自由と、必然性を洞察する自由。そういう問題は自覚的に実践していく課題だと思います。
協同組合の「一人は万人のために 万人は一人のために」を、我々の生きた言葉で言い換えた方がいいと思います。報徳の考え方は「個人と社会の関係で、自分のために徹底していきれない人が、どうして人のために生きれようか。人のために徹底していきれない人が、どうして自分のために生きれようか」という関係を念頭に置きながら、見たり、考えることが大切だと思っています。
大日本報徳社
二宮尊徳の「報徳」を現代につなげ、道徳と経済の調和した社会を目指す全国組織の本社で静岡県掛川市に置かれる。国の重要文化財である大講堂を始め、明治期を中心に建てられた仰徳記念館・仰徳学寮・冀北学舎等の見学が可能。
鷲山恭彦 大日本報徳社 第9代社長
1943年、静岡県小笠郡土方村(現・掛川市)に生まれ。
東京大学修士課程人文科学研究科独語独文専修修了。
東京学芸大学学長(2003年11月~2010年3月)を経て東京学芸大学名誉教授。
2014年から大日本報徳社理事、2018年3月に第9代社長就任。
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