JAの活動:JA 人と事業2014
【JA 人と事業2014】長嶋喜満・JAさがみ会長 都市農業で農地・環境守る2014年9月16日
・高い就農意欲新規就農者も多く
・直売所を軸に農協ファン増やす
・感謝の気持ち協同組合の心
・「何をすべきか」問題意識を共有
・営農指導に力品質で勝負を!
JAさがみは、藤沢市や古都鎌倉などを含む7市1町を管内地域とする神奈川県の中央に位置し、都市化が進んではいるものの、古くからの農業地帯で、農家の営農意欲は高い。JAは、農業が都市住民の生活環境を守るものと位置付け、農業の振興に力を注ぐ一方で、組合員の多様化に対応して、他人への気遣いのできる職員の育成を図っている。同JA長嶋喜満・代表理事会長に聞いた。
他人へ気遣いできる職員に
◆高い就農意欲 新規就農者も多く
――JAさがみの農業はどのような特徴がありますか。
145万人の管内人口があり、都市化が進んだ地域ですが、いま農業をやっている人はプライドをもっています。毎年、UターンやIターンで15?20人の新規就農がありますが、その人たちの営農意欲を満足させることのできる土壌があります。
もともと農業が盛んなところで、古くから湘南野菜のブランドがあり、施設園芸を昭和35年から導入、全国でも早い方でした。高座郡という地名があり、「高座豚」などのブランドはいまでも残っています。
地域農業も、その流れのなかにあり、農業が消費者のそばにあることから、その強味を活かした経営を行っています。それが農産物直売所の活気につながっています。
かつて都市農業は、農業生産の中でその位置付けが低かったのですが、いまでは、都市農業基本法制定の動きにみられるように、その価値が認められるようになりました。われわれが都市農業を維持するのは食料生産のためでもありますが、災害時に避難場所や資材置場等になる農地の保全、人間が生きる上で必要な緑の空間や水を維持するためです。
つまり農業の多面的機能ですが、これを守るため田畑を維持し、都市住民の住環境を維持してきました。このことを国民に広く理解してもらうことが重要です。
――その役目を果たすのは都市の近くにある農協だということですね。
そうです。農業・農協への理解を深める取り組みの一つとして、ファーマーズマーケットに併設した調理実習室で、女性部の「さわやか倶楽部」が中心になって、消費者との交流を深めています。青壮年部による子どもたちの農業体験などの活動を積極的に支援しています。
◆直売所を軸に農協ファン増やす
農協では昨年まで幼稚園を運営していました。41年間で延べ5676人の卒園児がいます。農協の運営ですから、特に保護者に対して、土と親しみ、農業や自然の大切さを訴えてきました。これが今も農協にとって大きな財産となっています。調理実習もこの延長線上にあり、お母さん方の農協ファンが増えています。
――新規参入者にはどのような支援をしていますか。
Uターン、Iターンの人のところには、農協のTACが重点的に巡回しています。ほかに、定年退職者などの新規就農者向けの「農業塾」があり、経営や技術指導をしていますが、農地が少しでもあれば野菜づくりは生きがいのひとつになり、これが大変好評です。
農政改革では競争力のないということで、都市農業が中山間地などの農業とともに軽視されがちですが、こうした都市農業も日本の農業の大切な役割だと考えています。現場をもっとよく見ていただきたいですね。
――農協役員として、いま何をすべきだと考えていますか。
今の我々の営農と生活があるのは、頑張ってきた先輩のお陰です。それに感謝する。これが協同組合の根本にある考えだと思います。
◆感謝の気持ち 協同組合の心
それが競争や利益優先でないがしろにされているように感じます。農協の役員としてわれわれは、国の農政に必要なことを働きかけ、問題点を指摘し、政策を建議して、安心して農業・生活できるよう農業者と一緒になって考えていくことが大事です。
農協の改革が唱えられていますが、われわれはこれまでもさまざまな改革に取り組んできました。組合員が何を望み、どういうやり方が組合員や地域のためになるか、懸命に考え地域農業の振興に努めてきました。それが規制改革会議から、何もやってこなかったように言われては心外です。ただ、これからは今まで通りにはいかないでしょう。
神奈川県には人口が全国2位、面積43位で14農協あります。それぞれ地理的、経済的な条件が異なり、農協の考え方もさまざまです。すべてをひとくくりにすることはできません。従って、単位農協が自ら自主的に取り組まなければならない部分も多くあります。
この考えから、JAさがみでは、都市農業振興戦略「みどりの仲間プラン」の取り組みを進めています。それは地域ごとに農業振興はいろいろな方法があることを前提に、地域の実情にあった細かい営農指導、相談活動を行うというものです。
◆「何をすべきか」問題意識を共有
――それを可能にするには優れた人材が必要ですが、どのような職員が必要でしょうか。
専門的知識を持ち、周りに目を向けられる職員で、その意識は農家、組合員、地域と共に生きることの重要性を理解していることです。そのような職員は日常の態度で分かります。相手の立場に立って考え、「ありがとうございます」を自然に言えるかどうかです。それがない職員は、すぐ会話が途切れてしまいます。
このような時に農林中金、信連の支援でCS(顧客満足)改善活動を行うこととなりました。最初は信用、共済部門で、そして今年になって経済部門で始めました。農協の事業は信頼されることで成り立つのであって、そのためには言葉使いだけでなく、利用者の気持ちを思いながら、自分ならどうするかという気持ちで考えられる職員であって欲しい。
日常の業務で、組合員はたとえ小さなことでも何かいいことがあれば、事業を利用してもらえるようになります。例えば農薬について、その効用は一般的には説明できますが、これまで使っていたものとどう違うか、なぜ効くのかを説明するという心遣いです。
農業・農協改革が議論されていますが、若い職員は農業や農協の将来をどう考えているのか不安でしたが、JAさがみでアンケート調査したところ、みなさん農業のことを真剣に考えていることが分かり安心しました。ところが問題は、それを指導する人材が不足していることです。
農協は組合員の信頼に甘えてあまり職員教育に努力しなかった面もあるように思います。かつては農家組合員の向かう方向は大体同じでしたが、いまは組合員の置かれた状態やニーズは多様で、これに対応できるマルチ人間が求められます。
危機意識、義務感を共有し、「何をすべきか」という意識を身に付ける必要を感じます。それには現場に学ぶことです。最終的にはOJT(企業内教育)ということになりますが、職員は先輩や上司の背中をみて育つという面も大事にしたいと思います。
一朝一夕にはいきませんが、この面では成果が出ています。最近、職員の目の色が変わってきました。CSの会議などで、若い職員が「私はこう思う」と、自分の意見をはっきり言うようになりました。
◆営農指導に力 品質で勝負を!
――これからの地域農業の方向をどう考えますか。
農業は品質で勝負するものです。直売所での販売で価格競争に持ちこもうとする生産者がいます。安いが品物も悪いでは、直売所を運営する意味がありません。農産物の販売はいいものをいかにタイムリーに供給することができるかから始まります。それを指導するのが農協であり、特に営農指導の果たす役割が重要になります。
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