JAの活動:新世紀JA研究会 課題別セミナー
信用事業譲渡問題の争点 JAの経営破たん招く2017年1月10日
狙いは信用事業の分離「自主選択」は表向き
(元)協同組合経営研究所理事長福間莞爾氏
信用事業の譲渡とはどういう意味を持つか。新世紀JA研究会はこのテーマを12月9日に開いた第3回危機突破・課題別セミナーで議論しました。前回は農水省経済局の組合金融の担当者に農水省の考え方を聞きましたが、同じセミナーで報告のあった福間莞爾・(元)協同組合経営研究所理事長に要旨をまとめていただきました。
事業譲渡という名のJA信用事業の再編が目前に迫っています。事業譲渡について、いま二つの見方があります。一つは信用事業の「破たん防止措置としての事業譲渡」です。この見方によれば、「今後の金融情勢を考えると、あらゆる場合に備えていざという時の支援措置としてこの仕組みを用意しておくことが必要である。事業譲渡はJAの自主選択であり、事業譲渡そのものに反対を唱えたり、これを否定したりするのはおかしい」ということになります。
もう一つは、今回の事業譲渡の提案はJA信用事業の再編、JAからの信用事業分離を狙ったものであるという見方です。これは「信用事業分離のための事業譲渡」というべきものです。もちろん、われわれは今回の事業譲渡を後者の見方、つまり信用事業の分離を狙ったものであることを問題にしなければなりませんし、JAはこの問題への対処を誤ると致命的な打撃を受けることになります。
政府が考えるように、事業譲渡が農業振興につながるのであれば、JAグループとしてもそれに協力すべきですが、地域のJA経営の実態を見ればとてもそのように考えることはできず、事業譲渡は単にJAを経営破たんに導くものでしかなく、多くのJAで農業振興どころではなくなるという事態が想定されます。JAから信用事業分離することが農業振興につながらないとすれば、それは農業振興に名を借りたJA潰しの政策提案であり、ここに、われわれが事業譲渡に反対する最大の理由があります。
こうした政府の動きに対して、JAおよびJAグループの動きはいかにもにぶい状態にあります。事業譲渡の影響について深く考える議論が行われている訳でもなく、事業譲渡はJAの自主選択であり、JAがその道を選なければ何ら問題はないなどというのんきな考えも根強くあります。だが、こうした議論は安易すぎます。第一、自主選択なら今のJAにはその必要性など全くなく、どのJAもその道は選ばないでしょう。
◆准組合員を人質に
JAにとって事業譲渡の必要性がないことを考えると、自主選択は全くの表向きの議論であって、農業振興のためという大義名分のもと、JAを事業譲渡に追い込むために、政府はすでに二つの道を用意しているように見えます。一つは、人質にとられている准組合員の事業利用規制との天秤、つまり事業利用規制を取るか、事業譲渡の道を選ぶかの選択です。事業譲渡の道を選択すれば農協法の制約がなくなり、員外利用規制や准組合員規制はすべてクリアできます。この点を考えると、信連への事業譲渡はあくまでも建前であり、本線は農林中金への事業譲渡となります。
もう一つは、公認会計士監査移行にともなって、内部統制等のレビュー(精査)に耐えられないJAの事業譲渡の勧告です(事業規模にもよりますが、事業譲渡すれば、JAは公認会計士監査を受ける必要はありません)。また、すでに「JAバンク基本方針」によってJAのレベル格付けによる事業譲渡も用意されています。
以上を考慮すれば、事業譲渡はJAの自主選択などではなく、政府は、すでにそうせざるを得ない状況をつくりだしてきており、これらの道が発動されれば、JAは強制的に事業譲渡に追い込まれることになります。
現に平成28年11月11日の規制改革推進会議農業ワーキンググループの農協改革に関する意見でも、「地域農協が農産物販売に全力をあげられるようにするため、農林中金は平成26年6月の与党とりまとめ・規制改革実施計画に明記されている地域農協の信用事業の農林中金等への譲渡を積極的に推進し、自らの名義で信用事業を営む地域農協を、3年後を目途に半減させるべきである」とその本音が明らかにされています。
もちろん、一概にJAと言っても都市地帯・農業地帯・中山間地帯等で置かれた状況が異なり、とりあえずは譲渡を進めやすい都市地帯や中山間地帯などのJAから進められることも想定されます。
◆有利・不利の検証を
信用事業の譲渡については、本セミナーにおいて農水省の考え方が初めて明らかにされました。その説明によれば、今後JA信用事業の事業・収益環境は極めて厳しく、合わせてフインテック(金融IT)などの環境変化を見通せば、単位JAが信用事業のコストやリスクを軽減し、営農・経済事業に注力するためには、事業譲渡は有力な選択肢の一つになるというものです。この事業譲渡の考え方は、農林中央金庫を本店とし、JAの信用事業部門を支店・代理店にする全国一社の金融機関を構想したものです。
こうした考え方は、会社経営においてはむしろ一般的なものですが、果たしてこのようなやり方で協同組合金融たるJA信用事業は生き残っていけるのでしょうか。この際、事業譲渡についての農水省の考え方に対して、われわれはどのように考えるのか、JAでの徹底した議論が求められています。いま、協同組合運動の真価が問われていると言っていいでしょう。
(写真)活発な意見交換するセミナー参加者
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